2026年午年に、世界が「馬」に熱視線。馬が“最良の相棒”である理由を最新研究が解き明かす

馬は人間の味方

午年を迎えて馬に注目が集まるなか、新たな研究では恐怖を感じている人間の体臭を馬は敏感に嗅ぎ取って反応することが報告されている。馬との交流を通じてメンタルの改善を図る「ホースセラピー」にも注目が集まっており、今年はこれまで以上に馬が愛らしい存在に感じられてきそうだ。

<目次>

“うまくいく”ための午年イベント

レースで疾走する競走馬

今年の干支は午(馬)ということで、馬に関係した話題やイベントも多い。

昨年末から年明けにかけて馬ならではの「躍動」や「前進」をテーマにしたイベントが豊富で、年末年始には大井競馬場で冬季限定イルミネーション「東京メガイルミ」で「午(うま)年MEGA新春イベント」が催され競馬ファンを楽しませている。

東京都世田谷区のJRA馬事公苑では、馬に関する「モノ」と「コト」を集めた日本最大級の祭典「ホースメッセ2026」が開催され、子どものいる家族連れなども多く訪れている。

宮城県気仙沼市の早馬神社は12年に一度の「午歳(うまどし)御縁年」に特別なご利益がある神社とされていて、2026年は期間限定の「白い馬九行久(うまくいく)守」や特別御朱印が授与され、境内には神馬像の「撫で馬」があり、訪れた人々が何事も“うまくいく”よう祈念している。

面白いところではイタリアのオートバイ・メーカー、ピアッジオのスクーターブランド、ベスパから午年を記念したベスパの特別限定車『946 Horse』が販売されることだ。ボディカラーに馬の光沢ある栗毛色を再現している“午年ベスパ”は、3月上旬より出荷開始を予定しており、メーカー希望小売価格は220万円(税込)。オーナーになればいつでも“乗馬”が楽しめるのかもしれない!?

このように人間にとって“乗り物”でもあるという点で馬は家畜や家禽の中でも独特の存在であるだろう。

旧約聖書の「エデンの園」を描いた中世の宗教画の中には馬の姿がある絵画もあるが、文明初期に誰がどのようにして最初に馬に乗ったのか想像してみるのも一興かもしれない。馬の姿形(すがたかたち)を見て「乗れそうだ」と思いつき、実際に試してみて乗れた時の感動は窺い知れそうもない。

万物を創造した神が人間のために用意してくれたかのような動物が馬なのだが、人間が“乗り物”にして以来、馬は人間の頼もしいパートナーであり続けている。

馬は人間の恐怖を嗅ぎ分けていた

子どもに鼻を撫でられる馬

人間との感情的な交流ができるという点では犬は長い間、人間の感情を察知する能力があることで称賛されており、人間の最良の相棒となっているが、新たな研究では馬も同様の能力があることが報告されている。

トゥール大学をはじめとするフランスの研究チームが、2026年1月に「PLOS One」で発表した研究では、馬は人間の恐怖を嗅ぎ分ける能力を持っていることが示されている。

人間は恐怖を感じると、体内でアドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが放出され、汗の化学組成が変化する。

これらの変化により、皮膚は揮発性有機化合物と呼ばれる異なる臭い分子(におい物質)の混合物を放出する。恐怖に関連する汗には、アルデヒド、ケトン、脂肪酸、アンドロスタジエンなどのステロイド関連の化学物質などの化合物が高濃度に含まれていることがよくある。

これらの化学物質は人間にはほとんど嗅ぎ分けられないが、きわめて敏感な鼻を持つ動物はそれを感知することができ、馬もその一員であることが今回、実験によって確かめられたのである。

研究チームは実験参加者に脇に綿パッドを挟んだ状態で恐ろしいビデオ、あるいは楽しいビデオを鑑賞してもらい、脇汗が染み込んだ綿パッドを回収した。43頭の雌馬の鼻先にそれらの綿パッドを配置したのだが、比較のために何頭かの馬の鼻先には、清潔な未使用の綿パッドが置かれた。

人間の脇汗が染みた綿パッドを嗅がせると共に、馬に対して予想外の突発的な出来事の勃発、見慣れない物体を見せる、飼育者が近づいて毛づくろいをする、などを馬に体験させて研究チームは馬の挙動を観察し心拍数を測定した。

馬の反応を分析した結果、恐怖を体験した人間の脇汗の匂いにさらされた馬は彼らは驚きやすく、心拍数が高くなり、見慣れない物体を見つめる時間が長く、人(飼育員)に近づいたりスキンシップを図ることに躊躇するようになっていた。

一方、楽しさを体験した者の脇汗の匂いや、無臭の綿パッドを嗅がされた馬はより穏やかな行動を示し心拍数も落ち着いていた。

研究結果は、馬が嗅覚を通じて人間の感情を感知でき、言葉や身振りを用いなくとも人間から馬に恐怖が伝わることが示唆されることになった。馬は生来、環境内の危険の兆候に気づくようにできているため、この能力は生存戦略に関係していると研究者らは示唆している。

研究主筆のトゥール大学のレア・ランサード博士は「この研究は動物と人間がいかに密接につながっているかを示しています」とプレスリリースで述べている。

「私たちは無意識のうちに自分の感情を動物に伝えることができ、その結果、動物自身の感情にかなり重要な影響を及ぼすのです」(ランサード博士)

異なる動物種が互いの感情的な化学信号に反応しているように見えるという事実は興味深い。感情はこれまで主に個体の行動を制御し、同種の動物に危険や資源を知らせる信号であると考えられてきた経緯がある。

しかし感情のシグナルが種の境界を超えて伝達するという今回の研究結果は、動物種間の相互作用、特に人間と家畜哺乳類の間でも機能している可能性があることを示唆している。

子どもたちを癒す「ホースセラピー」

馬に餌をあげる子ども

馬との感情的な交流によってメンタルヘルスの改善を図ることは、ホースセラピー(Equine Assisted Therapy)としても注目されている。

ヨーロッパ発祥の療法であるホースセラピーは、馬とのふれあいや乗馬を通じて、精神的、身体的、社会的な健康向上を目指す体験型治療で、PTSD、うつ病、依存症、ADHDなどのメンタルヘルスケアや、姿勢とバランスの改善(ヒポセラピー)への効果が期待されている。専門家チームが指導し、馬との信頼関係を築くことで自己認識やコミュニケーション能力を高められるということだ。

ホースセラピーは、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちに、社会的な交流、コミュニケーション能力、運動能力、そして感情のコントロールを改善することで、大きなメリットをもたらすこともこれまでの研究で報告されている。

ジンバブエの研究チームが2025年9月に「International Journal of Research and Innovation in Social Science」で発表した研究では、ホースセラピーが自閉症児の心理的発達を改善するのに有益であり、特に恐怖、気分調節、および不安型愛着スタイルの軽減が観察されたことが報告されている。

また社会性と対人関係のスキルの発達を促進し、子どもたちが周囲の環境や他者とより効果的に関わるようになり、行動とコミュニケーションの改善が見られたということだ。

乗馬やグルーミングなどの活動を通して、子どもたちはストレスの軽減、注意力の向上、そして社会性の向上を示すことが多く、コミュニケーション能力の発達が促進されるという。

本研究は自閉症スペクトラム障害児に対するホースセラピーの有効性に着目することで、動物介在療法が人間の幸福を促進するというエビデンスをさらに増やすことに貢献している。近くにいる人間の感情を把握し癒してもくれる馬はいつだって人間の味方であるようだ。

※研究論文
Human emotional odours influence horses’ behaviour and physiology
An Exploration of Equine-Assisted Therapy Benefits for Children with Autism Spectrum Disorders: A Case of Healing with Horses Therapy Center, Bulawayo.

仲田しんじフリーライター

投稿者プロフィール

雑誌編集者などを経て1999年よりフリーライターとして活動。現在はweb媒体がメイン。サイエンスからオカルトまで幅広いテーマで執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。

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