関東私鉄11社で「クレカ・タッチ決済」相互乗り入れ開始。三井住友カードが仕掛けた“真の狙い”

クレカ・タッチ決済で改札を通る乗客

2026年3月25日から、関東の公鉄・私鉄11社が「クレカ乗車相互乗り入れ」を開始します。近年、クレジットカードのタッチ決済機能で通過することができる自動改札が各鉄道で導入されるようになりました。

これは、当初は2020東京オリンピックにおけるインバウンド対策を想定した施策ではあったものの、現在では国内居住者利用にも拡がり、ICカードに並ぶ乗車手段のひとつとして認識されるようになりました。普及の背景には、日本の少子高齢化に苦悩する交通事業者の事情も大いに関係しています。

此度の関東鉄道11社のクレカ乗車相互乗り入れ、そして全国で相次ぐクレカ乗車システムの導入には、三井住友カードの公共交通機関向け決済ソリューション『stera transit』が大きな存在感を発揮しています。このstera transitに触れてみると、実は関東11社の話には留まらない「広域的な現代事情」に突き当たります。

<目次>

「他社管理駅」での降車ができなかった従来の仕組み

電車が通過する駅のホーム

stera transitは、公共交通機関におけるクレカ乗車を実現するプラットフォームです。このシステムの中核を担う「Q-move」では、運賃計算や各種割引処理、外部システムとの連携、クレジットカード会社への決済データの作成など、様々な機能を備えています。

乗降履歴はQ-moveから交通事業者に連携され、Q-moveからデータを受け取ったカード会社では、乗降履歴に加え、統計化されたカードのデモグラフィックデータをダッシュボード形式で交通事業者に還元しています。

即ち、stera transitとは利用者の決済履歴からデータを形成し、契約・導入各社での活用を可能とする仕組みと言えます。 この分野でも、データが鍵を握ります。複数の交通事業者が運行する公共交通機関に、いつどのような属性の人が何人訪れたのか。

たとえば、ある駅で乗降した人が遠方の都市からきている人なのか、近所に住む人なのか。その属性はどういった人で、その後、街でどのような買い物をし、どの駅に戻って行ったのか。個人の特定はしないが、そうした匿名化された乗降情報を関係事業者の間で共有すれば、沿線開発などの問題抽出も容易になるはず。

そうしたことを実現する手段として、また他にも様々な合理化を達成するためのひとつの方法として、stera transitが全国各地の公共交通機関で採用されているという背景があります。

関東公鉄・私鉄11社(小田急電鉄株式会社、株式会社小田急箱根、京王電鉄株式会社、京浜急行電鉄株式会社、相模鉄道株式会社、西武鉄道株式会社、東急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、東京都交通局、東武鉄道株式会社、横浜高速鉄道株式会社)でも一部事業者では以前からstera transitによるクレカ乗車システムが導入されていましたが、ひとつ大きな問題がありました。

それは、「運営会社が異なる相互乗り入れには一部の事業者間でしか対応していなかった」という点。同じ直通路線でも、駅によって管理・運営会社が異なるということは都内ではよくあります。その場合、たとえ入場時にクレカのタッチ決済で乗車していたとしても、降車ができないという不便さが存在していたのです。

2026年3月25日から、上記鉄道事業者11社局の54路線729駅で「同一のクレカによる乗降車」が可能になります。

「インバウンド向け決済手段」からの進化

JRの改札

しかしこの話題は、単に「利用者にとっての利便性が向上する」という話には留まりません。

「従来型乗車手段であれば、それぞれの交通事業者様が自社の利用者様にサービス提供するために、オンプレでシステム開発をする場合が多いと聞いています。無論、そのシステムは自社の収益を原資に維持する必要があります。しかしstera transitは、基本的には契約各社共通のサービス。つまり、システム開発やその維持管理のための莫大なコストは大幅に削減できるということでもあります」

そう話すのは、三井住友カードTransit本部長兼Transit事業企画部長の石塚雅敏氏。

「stera transitは2020年から事業展開を行っています。約6年経ちますが、当初は外国人観光客を主に想定した空港路線のバスに導入されるという事例が多かったのです。しかし、2024年の関西の鉄道事業者様による一斉導入、そして此度の関東11局様の一斉導入といったように、普段の通勤・通学や生活で利用される路線での展開も進んできたように思います」

早くから交通系ICカードが普及した日本において、タッチ決済対応クレカは海外と比較して普及がやや遅れた様子が見受けられます。したがって、クレカ乗車システムは当初「インバウンド産業の発展のため」という色合いが強いものでした。

ですが、クレジットカードならではの強みがあり、それが徐々に日本人・日本在住者にも受け入れられるように。

「パンデミックやその他の要因もあり、日本国内でもキャッシュレス決済が広く用いられるようになり、また技術的進化も見受けられるようになりました。そうした中で、“チャージをせずに利用できるキャッシュレス決済乗車手段”というものが認識され始め、また交通事業者もそれを必要と考えるようになったと思います」

クレカは「キャッシュレス決済の王様」

キャッシュレス決済

交通系ICカードは、今ではモバイル化が進んできつつあるとはいえ、今でも物理カード型が広く利用されています。そのカードを駅やコンビニ、ATM等で現金を使ってチャージするという場面もよく見かけることができます。

しかし、クレカであれば「チャージ」というものを省くことが可能。それは交通事業者にとっては「チャージ手段を用意する必要がない」という意味も含んでいます。そのうえで石塚氏は、こう説明します。

「経済産業省が公表したデータによると、2024年に日本全国で行われたキャッシュレス決済の比率のうち、8割強がクレジットカード。普段あまり外出しない地方在住の方でも、ネットショッピングを利用するためにクレジットカードを使うことは少なくないのではと思います。普段使いのクレジットカードで、そのまま電車やバスに乗れる点がクレカ乗車の強みだと考えています」

クレカには盤石の普遍性があり、stera transitはその普遍性を最大限活用したシステムということが徐々に見えてきます。

マンパワー削減とデータ活用

駅の自動券売機

関東11局のクレカタッチ決済相互乗り入れの前、2026年3月1日には関西空港・大阪伊丹空港のリムジンバス運営5社がstera transitを一斉導入しました。まさに「快進撃」と言えるstera transitの広がりですが、これには決して楽観するわけにはいかない背景もあるようです。

多くの交通事業者は、現金の取り扱いや機器の保守など様々なコスト削減効果や、乗務員の負担軽減といった課題があります。また、地方部においては、路線維持のためにコストの見直しを必要とされる公共交通事業者も少なくありません。

現金チャージを行うためのチャージ機や券売機をおかなければならないということは、そこに集まる現金の集計や運搬といった作業も発生するということ。そうした状況に加えて、インバウンド観光客からの問い合わせなどにも時間を要しており、交通事業者にとっては多くの負担になってしまっています。stera transitは、そうした課題を解決できます。

stera transitは東京や大阪といった大都市とその経済圏だけでなく、地方都市の乗り合いタクシーや路線バスでも導入されています。今年2月5日から、北海道富良野市での『stera transit 富良野MaaS推進事業』の実証実験が開始されています。

都市部と地方部、双方の交通事業者がstera transitを導入する意義は「キャッシュレス化による作業量の軽減」の枠内からさらに飛び越え、上述のデータの話につながります。

「これは交通事業者様とも相談しながら行うことですが、たとえばA社とB社があるとして、両社の合意の下にそれぞれのデータを開示してよいという段取りになったら、データを共有できる仕組みです。stera transitの持ち味は、“誰が乗っているのか分かる”点。A社とB社のデータを照らし合わせて、実は海外の特定の国から来た人がA社のこの路線を利用した後にB社のあの路線を利用している……ということも算出することが可能です」

言い換えると、少子高齢化の只中にある日本の交通事象者は、都市部・地方部に限らず複合的なデータを活用して事業改善を実施しなければ、路線を維持できない状態になっているということでもあります。

データの事業者間共有も

駅のホームに留まっている電車と乗り降りする乗客

利用者にとっては便利な「クレカ乗車」。その裏側には、公共交通機関を今後も維持し続けるために必要なデータを交通事業者とともに活用していく可能性を秘めています。 

特定の他社直通線を利用する人の中で、具体的にどの属性の人がどれほどの割合で存在するのか。交通事業者にとっては単に新しい決済手段を取り入れるというよりも、現行の事業の問題点や改善すべき部分を抽出するためにstera transitを導入しているという側面があるようです。

また、2020年代の現代では異なる交通事業者が事業改善に向けて手を取り合う場面を多く見かけるようになりました。複数社による運賃や時刻表の調整など、路線維持のためにそれまでのライバルが固い協力関係を結び、新たな企画やサービスを展開しています。

【参考】
2026年3月25日(水)から、関東の鉄道事業者11社局の路線を対象とした、クレジットカード等のタッチ決済による後払い乗車サービスの相互利用を開始します 東京都交通局
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/pickup_information/news/subway/2026/sub_p_2026012812378_h.html

stera transit 三井住友カード
https://www.smbc-card.com/kamei/stera/transit/index.jsp

2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250331005/20250331005.html

澤田真一ライター

投稿者プロフィール

1984年生まれ10月11日。ライター事務所「澤田オフィス」代表。テクノロジー、金融、官公庁の動向などの話題を書くメディアで執筆。

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