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「給与アップ」より手元に残る?42年ぶり改正で注目の「第3の賃上げ」食費補助7,500円の破壊力

中東情勢によるエネルギーコストの上昇などの社会情勢悪化、それに伴う未曾有の物価高、さらには人手不足や増大する社会保険料負担など、企業や従業員を巡る状況は依然として厳しさを増しています。
2026年の春闘では大企業を中心に積極的な賃上げが進んだ一方で、雇用の約7割を担う中小企業では、賃上げへの対応に苦慮する状況が続いています。
そうしたなか、令和8年度税制改正により福利厚生としての食事補助に関する非課税限度額が42年ぶりに見直され、2026年4月1日に施行されました。そこで今回は、企業の実質的な賃上げの追い風ともなっているこの食事補助の非課税上限や中小企業が抱えている賃上げの課題などについて取材しました。
倒産企業件数から見えた中小企業の賃上げの課題
2026年4月3日に日本労働組合総連合会が公表した「2026年春季生活闘争の第3回回答集計」によると、賃上げ率は全体として5%台の高水準を維持しました。特にトヨタ自動車やNEC、パナソニック、三菱重工業など大手企業が基本給を底上げするベースアップが目立ち、国内企業で賃上げが広がっているようにもみえます。
しかし東京商工リサーチによる2026年4月8日の発表によると、2025年度の全国の企業倒産件数(負債額1,000万円以上)は前年度比4%増の1万505件。これは東日本大震災の影響が残っていた2013年度以来の高水準で、倒産企業のうち従業員5人未満の中小・零細企業は8,092件と、全体の約77%を占めています。
また、そのうち「人手不足」倒産は前年度比43.0%となる442件でした。特に賃上げが資金繰りの負担になった「人件費高騰」が前年度比77.2%増の195件となり、いずれも過去最多記録となっています。物価高に加え、人件費の上昇や人材流出への対応が求められるなか、中小企業では利益の確保と雇用の維持を両立する難しさが一段と高まっていることがわかります。
2026年春闘をめぐっては、3月に行われた労働組合や経済界の代表と賃上げなどについて話し合う「政労使会議」においても、高市首相が地方の中小企業や小規模事業者にも賃上げを波及させていく重要性を説いていました。
こうした中小企業の賃上げが政府にとっても大きな課題となるなか、2026年4月1日から食事補助制度における非課税限度額が月額3,500円から7,500円へと約42年ぶりに倍増となりました。
食事補助制度における「非課税上限」とは、企業が従業員に食事代を補助する際、一定の条件を満たせばその金額に税金が発生しないという制度のことです。企業側は税負担を増やすことなく従業員の手取りをアップさせることができるため「第3の賃上げ」として注目されています。

2026年4月1日から食事補助の非課税限度額は月額7,500円に引き上げられ、年換算では90,000円が非課税の対象となりました。たとえば、この90,000円を賃上げとして現金で受け取った場合、年収700万円のケースでは税金や社会保険料の影響で、実際の手取りは約57,000円程度まで目減りします。
一方で食事補助の非課税制度を活用すれば、約78,000円相当の手取り効果を維持でき、現金支給と比べて手元に残る金額は約20,000円多くなります。このように賃上げと食事補助では実質的な手取り額に大きな差が生じているのがわかるでしょう。
また企業側がこの従業員に同等の手取り増を給与だけで実現するには、社会保険料、所得税、住民税を考えると1人あたり年間約14万円のコストを要します。その点、食事補助制度の非課税限度額の拡大を賢く活用することで、企業は税負担を増やすことなく従業員の実質的な手取りアップを行え、従業員は毎日の食費負担が軽減して実質手取りが増加するというお互いにメリットをもたらします。
福利厚生による食事補助がもたらす大きなメリット
今回の法改正について株式会社エデンレッドの日本法人である株式会社エデンレッドジャパン代表取締役の天野総太郎さんは「歴史的な税制改正」だと評価しています。
同社は、食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を展開しており、導入企業4,000社以上、利用者数30万人以上を支援しています。2024年2月には賛同企業とともに「第3の賃上げアクション」を立ち上げ、発起人として非課税食事補助の手取りアップ効果を訴求してきました。
また、外食事業者など合わせて1,140もの企業や団体で構成され「食事補助上限枠緩和を促進する会」を設立し、政府や各団体に対する要望活動も継続的に行ってきました。

天野さんは「福利厚生による食事補助が、中小企業の希望のひとつになる」と語ります。その理由として挙げるのが、実質的な手取りを増やす「第3の賃上げ」としての効果です。
この効果によって、生産性向上や食による健康支援、採用力強化、そして離職率低下にもつながる可能性があると話します。また、従業員がランチに出向く周辺飲食店は送客による需要創出と売上向上、雇用創出にもつながり、結果として地方企業が間接的に地域活性化に貢献する流れも期待できます。
また、従業員にとってのメリットも小さくないと天野さんは語ります。
「実質的な手取りアップと同時に、2026年4月からの食料品値上げによる家計の圧迫を軽減してくれることは間違いないでしょう。また仕事のモチベーションアップやさまざまな飲食店の食事を負担感なく楽しめること、食事の質の向上による健康維持、節約のためにお弁当を持参する必要がなくなるので、家事負担軽減など恩恵は多岐に渡ります」
食事補助の非課税枠の倍増が企業、従業員、周辺飲食店にとって「三方よし」となり、地域経済への波及効果も含め、日本社会全体に新たな活力を生み出す可能性を秘めているのです。
福利厚生としての食事補助が出遅れている日本
42年ぶりに非課税枠が見直されたとはいえ、日本における食事補助を取り巻く状況は、先進諸外国に比べて大きく出遅れていると天野さんは指摘します。
1962年に創業した株式会社エデンレッドはフランスに本社を構え、同年に創業者が映画館の使用済みチケットでの食事券運用を開始したことでサービスが開始されました。その後、1967年にはフランス政府が食事券を非課税の社会的給付として採用し、この仕組みが普及の大きな転機となりました。
こうした制度はその後もヨーロッパや南米に浸透し、現在は世界44か国、導入企業100万社以上、6,000万人以上の利用者、加盟店200万店以上という巨大な経済圏を誇ります。

現状、フランスを始めとしたベルギーやイタリア、ポルトガルなどでは就業人口に対する食事補助の普及率は60%~70%台となっているのに対し、日本はわずか14%程度に止まっているといわれています。さらに、こうした国々では物価上昇に応じて非課税枠の見直しが行われており、上記のグラフからも2026年には3万円近くにまで達する国もあるのが明らかです。
天野さんは、この背景には以下のように日本特有の社員食堂や弁当文化があると指摘します。
「諸外国は社員食堂型ではなく、食事券やカードなど決済型の食事補助が機能しています。チケットレストランも自社の社員食堂を持てない従業員のために、現金支給ではなく食事券を使って街を社員食堂に変えるためフランスでスタートさせた経緯があります。各企業の従業員のランチ代の100%が地域の飲食店に流れるため、OECDも経済政策として高く評価しています。しかし日本は食事補助=社員食堂という考えが長く続き、アップデートされず世界に取り残されているのです」
日本では1975年に食事補助に対する所得税非課税限度額が2,500円と規定され、1984年に3,500円に引き上げられて以降、42年間長らく据え置きでした。そして2026年4月にようやく7,500円に見直されましたが、昨今の物価高や中小企業の状況を見ても、諸外国のように物価高に合わせた非課税限度額の改正は日本も必要不可欠でしょう。
知名度の低さが導入を阻んできた?法改正で高まる期待
導入コストの低さから、中小企業や地方企業にとって希望の光ともなる食事補助による「第3の賃上げ」。しかし、これまでは経営者や人事において食事補助の非課税限度額そのものに関する知名度が低かったことは否めません。
そこで同社は食事補助を全労働者の50%以上にまで普及させて世界水準に近づけることを目標に掲げています。その実現に向けて、現在は株式会社ベネフィット・ワンや株式会社イーウェルなど福利厚生事業を行う企業のほか、株式会社松屋フーズホールディングスや株式会社吉野家ホールディングスなどチェーン店を持つパートナー企業との連携を進めています。
天野さんによると、中小企業や地方企業の「第3の賃上げ」を後押しするべく、食事補助の社会のインフラ化を目指すため自民党への働きかけや経産省への要望書提出なども引き続き行っていく考えです。
また天野さんは、今回の法改正によってさまざまな経営者や人事からこれまで以上に同社に問い合わせが来ていることも語っていました。
多くの企業が非課税の食事補助制度を適切に運用して実質的な賃上げを実現していけば、政府もさらなる非課税限度額の引き上げや物価スライド制への以降などに踏み切る動きが出てくるかもしれません。
緊迫する中東情勢や原油高騰によるコスト負担で多くの中小企業や地方企業が物価高を上回る賃上げに悩むいま。食事補助による「第3の賃上げ」が社会のインフラとなっていく機運の高まりに期待したいところです。
















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