
国税庁が、相続税算定時の非上場株式の評価方法を抜本的に見直す方針を固めました。 相続時に株式の評価額を意図的に引き下げ、税負担を軽くするスキームが広がっていることを受け、公平な課税を図る狙いです。 一方で、評価額の上昇によって中小企業オーナーらの相続税負担が増えれば、事業承継の妨げになりかねないとの懸念もあり、税負担の公平性と地域経済への影響をどう両立させるかが問われています。
国税庁は4月中にも有識者による検討会を設置し、年内に論点整理や具体案の検討を進め、2027年度の税制改正で調整する日程感を描いています。 評価ルールの根幹を定める「財産評価基本通達」が1964年に整備されて以来、本格的な見直しが行われれば初めてとなります。 相続税は原則として被相続人から取得した財産の「時価」を基準に税額を計算しますが、上場株式と異なり市場価格が存在しない非上場株式は時価の算定が難しく、通達に基づき複数の方式を組み合わせて評価してきました。
しかし近年は、資産の入れ替えや多額の配当、決算期の変更、新株発行などを組み合わせることで、通達に形式的に従いながら評価額を極端に引き下げる事例が相次いでいます。 国税庁はこうした場合、通達に基づく評価が「著しく不適当」と認められれば、例外規定である総則6項を用いて課税する運用を続けており、2015~2024事務年度の10年間で27件適用、そのうち非上場株関連が14件と過半を占めました。 不動産管理会社の株式について、相続人が約21億円と申告した事案で、国税当局が総則6項を用いて約40億円に再評価し、その課税処分が国税不服審判所で認められたケースもあります。
会計検査院は2024年11月の決算検査報告で、評価方式の違いにより非上場株式の評価額に「相当の乖離」が生じていると指摘し、とくに会社の規模が大きいほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向があると分析しました。 こうした指摘も踏まえ、今回の見直しでは、規模の大きな非上場企業の株式を中心に評価額が上振れする方向での議論が進むとの見方が出ています。 将来の利益やキャッシュフローを重視する「残余利益方式」など企業が生み出す利益に着目した手法を参考にする案も論点となりそうです。
会社標本調査によると、国内企業は2024年度時点で約299万社あり、このうち上場企業は約4千社にとどまり、残る約99%は非上場企業です。 今回の評価見直しは、こうした多数の非上場企業オーナーとその家族に関わる制度変更となる可能性があります。 国税庁は、過度な節税を抑止しながら、企業活動や地域経済への影響も丁寧に見極める必要に迫られています。
事業承継への影響と税制の課題
一方で、非上場の中小・零細企業では後継者不足が深刻化しており、政府は円滑な事業承継を促して雇用や地域経済を守るための支援策を展開してきました。 非上場株式の評価額が上がれば、後継者が負う相続税負担が膨らみ、株式の買取や経営引き継ぎのハードルが高まることが懸念されています。 とくに、業績は堅調でも手元資金に余裕のないオーナー企業では、納税負担に耐えきれずに株式売却や廃業を迫られるリスクも指摘されています。
相続時の評価とは別枠で、後継者が贈与税などの納税義務の猶予・免除を受けられる「事業承継税制」も整備されていますが、承継した非上場株式の終身保有など厳しい要件がネックとなり、必ずしも十分に活用が進んでいないとの声があります。 税理士や研究者など複数の専門家からは、事業承継税制の要件緩和や手続きの簡素化などを通じて利便性を高め、評価ルールの改正と一体的に検討すべきだとの指摘が出ています。 また、評価通達は行政内部のルールであり、法改正を伴わずに見直しが可能な一方、納税者側の予見可能性や説明責任をどう確保するかも重要な論点となっています。
今後、検討会では、過度な節税を抑えつつ「公平な負担」と「円滑な事業承継」を両立させる制度設計が焦点になります。 国がどこまで納税者の納得感を得られるルールを示せるかが、日本企業の事業承継の行方と地域経済の持続性を左右する鍵となりそうです。








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