
英政府がインド洋の戦略拠点チャゴス諸島のモーリシャス返還に向けた国内手続きを事実上先送りし、今国会中の関連法案成立を断念したことが明らかになりました。 チャゴス諸島のディエゴガルシア島には米英共同の軍事基地が置かれており、米国のトランプ大統領が主権移譲に強く反対していることが背景にあります。 モーリシャスへの返還は、英国とモーリシャスが2025年5月に締結した返還協定に基づくもので、英国は主権を譲渡する一方、ディエゴガルシア基地については99年間の長期リースで運用権を維持することで合意していました。 しかし、協定発効には1966年に結ばれた米英間の基地使用に関する覚書の更新が必要とされ、米側の同意が不可欠となっていました。
トランプ大統領は当初、2025年2月のスターマー英首相との会談時には返還協定について「悪くなさそうだ」と一定の理解を示していたものの、2026年に入ると「大きな愚行だ」などと批判し、ディエゴガルシア基地を「軍事的に確保する権利」を主張するなど、返還に否定的な姿勢を鮮明にしました。 さらに、米国とイスラエルが2月末にイラン攻撃を開始した際、英国がディエゴガルシア基地の使用を米軍に認めなかったと報じられ、イラン攻撃から距離を置くスターマー政権に対するトランプ氏の不信感が強まったとされています。 この結果、英外務当局は「米大統領の考えが変わり、返還協定の批准に必要な英米間の合意が不可能になった」と議会で説明し、今会期中(5月終了予定)の法案成立を断念すると表明しました。 次期会期に再提出できるめども立っていませんが、英政府は返還自体を放棄したわけではないとして「協定の履行に向け、米国およびモーリシャスと引き続き協議する」としています。
国際司法裁と国連が早期返還を勧告 安全保障と脱植民地化が焦点に
チャゴス諸島は、もともと英国の植民地だったモーリシャスに属していましたが、1965年に分離され、英領インド洋領土として編入されました。 これに対してモーリシャスは独立後、一貫して返還を求めてきました。 2019年には国際司法裁判所(ICJ)が、モーリシャスからの分離は国際法上適法ではなかったとの勧告的意見を示し、英国に対し「できる限り速やかに」統治を終わらせるよう勧告しました。 同年の国連総会でも、英国にチャゴス諸島からの撤退とモーリシャスへの返還を求める決議が賛成多数で採択されており、英国は国際社会から脱植民地化の完了を迫られてきました。
こうした流れを受け、英政府とモーリシャス政府は長年の協議の末、2025年5月に主権移譲協定に署名しました。 協定では、モーリシャスがチャゴス諸島全域の主権を獲得しつつ、ディエゴガルシア島については英国が99年間のリース契約で基地運用を継続することが盛り込まれています。 しかし、2026年2月以降、英政府が返還手続きの「一時停止」や「保留」に踏み切ったとする報道が相次ぎ、英政府は一時停止を否定する一方で、米国の支持が得られた場合のみ返還を進める方針と伝えられています。 チャゴス諸島の返還問題は、脱植民地化と国際人権の観点から早期解決を求める国際世論と、インド洋における対イラン・対中国戦略でディエゴガルシア基地を重視する米英の安全保障上の思惑がせめぎ合う構図となっています。 今後、トランプ政権とスターマー政権がどこまで妥協点を見いだせるのかが、返還の行方を左右することになりそうです。












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