【医師コラム】「最新研究」や「最近の研究」、実際には何年前?

【医師コラム】「最新研究」や「最近の研究」、実際には何年前?

「先生、ネットの最近の研究でこんな記事を見たんですけど…」 というのは、診察室や医局でよくある会話です。

「最近」と聞くと、ここ数カ月からせいぜい1年くらいをイメージしますが、医学論文の世界では、感覚が少しズレているかもしれません。「最近」と書かれていても、実はかなり前のデータだったりするのです。

今回は、そういった言い回しについて論じた、医学界のおもしろい研究を紹介します。

最近の(recent)という表現を深掘り

紹介するのは、2025年12月、イギリスの医学誌『BMJ』のクリスマス特集号「WORDS AND MEANINGS」に掲載された論文です。タイトルは『How recent is recent? Retrospective analysis of suspiciously timeless citations(「最近」ってどれくらい最近?)』。医学記事で決まり文句のように使われる最近の(recent)という表現が、実際には何年前の文献を指しているのかを定量化した研究です。

1.「最近」は書き手の主観によってかなり過去のものまで含まれている

スペイン・ラ・パス大学病院のアレハンドロ・ディエズ-ビダル氏らが、1000件の文献を調査し、「最近」という言葉がいかに自在に使われているかを明らかにしました。結論から言うと、医学論文における「最近」は、私たちが思うよりもずっと「弾力性のある、変化に富む」表現であり、書き手の主観でかなり過去のものまで含まれていたのです。

2.「最近」は0年から37年。分野やインパクトファクターによる違い

研究チームは、生物医学文献によく出る「recent study(最近の研究)」など20の用語をPubMedで検索し、発行日順ではなく関連度順で並べ替え、1000件を抽出して手作業で解析しました。論文中で複数の「recent」がある場合は最初の例のみを採用しています。

「最近」として引用された文献と、その記事が出たタイムラグは、0年から37年で、平均値は5.53年でした。最も多かったのは、「1年前」の引用です。全体の約18%(177件)は10年以上前の文献を「最近」と呼んでいました。中には20年以上前のものが26件、30年以上前のものが4件もあり、最大は37年前の文献でした。

37年前だと、「それは昔では?」と言いたくなりますが、時代と共に情報の鮮度は上がっています。2000年以前は6〜8年だったタイムラグが、2020年以降は2.5年まで短縮されました。現代の研究者は、より新しい情報を「最近」と呼ぶようになってきているようです。

また、彼らは分野による違いもあったと報告しています。進歩の早い集中治療、感染症、遺伝学などはタイムラグが短く(中央値2年以内)、用語別では「recent trial(最近の試験)」などの表現は比較的情報の鮮度が高い傾向にありました。また、インパクトファクターの高い雑誌ほど、より新しい文献を引用する傾向も見られたとも述べています。インパクトファクター12以上のジャーナルではラグの中央値が3年と短く、範囲も狭かったという結果でした。

読者や査読者は言葉を鵜呑みにせず、実際の年数を確認すべき

内科や外科の基礎研究など、数十年経っても色あせない真実はあり、古いからダメというわけではありません。しかし、著者は「最近」という言葉を、最も新しいエビデンスを示す目印としてではなく、文章を繋ぐ便利な言い回しとして使いがちです。研究チームは、「執筆者は『本当に最近か?』と一呼吸置くべきだし、読者や査読者は言葉をうのみにせず、実際の年数を確認すべき」と警鐘を鳴らしています。

「最近」はもう「最近」じゃない!なんてよくあること

BMJの研究により、「最近(recent)」という言葉は非常に曖昧で、場合によっては10年以上前の情報を指していることが分かりました。ただ、全体的にタイムラグは短縮傾向にあり、情報の新鮮度は上がっています。大切なのは、ニュースや記事の「最近の研究でわかった」という言葉の響きに踊らされないことです。「で、それはいつのデータ?」と確認するクセをつけましょう。これからも筆者は東京報道新聞で、情報の鮮度と質を見極め、みなさまに正しい情報をお届けしていきます。

参考文献:
Alejandro Díez-Vidal,Jose R ArribasHow recent is recent? Retrospective analysis of suspiciously timeless citations.BMJ.2025 Dec 11:391:e086941.

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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