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【2026年5月ドラマ化】『ムショラン三ツ星』原作の著者・黒栁桂子さんに聞く刑務所の食育事情

2026年5月、刑務所の給食をテーマにした異色の作品『めざせ!ムショラン三ツ星』がドラマ化されます。原作を書いたのは、実際に刑務所で働く管理栄養士の黒栁桂子さん。黒栁さんは、刑務所での「食」と真正面から向き合ってきました。「クサい飯」と揶揄されがちな刑務所の食事ですが、そこには人の心を動かす力があるといいます。
受刑者との関わりのなかで見えてきた変化や、食を通じた更生の可能性とは何か。書籍誕生の背景からドラマ化への想い、そして食が持つ真の価値について伺いました。
<目次>
ムショランで綴った刑務所の給食のリアル

刑務所の食事と聞くと、質素で味気ないものというイメージを持つ方も多いかもしれません。ですが実際の現場では、限られた環境でも工夫を重ね、少しでも美味しく食べてもらおうとする取り組みが続けられています。
ムショランには、そうした日々の試行錯誤や現場の空気感が丁寧に描かれており、少しでも前向きに受け止められるものにしようとする思いが、この作品の背景には込められています。
黒栁さんがムショランを書こうと思ったきっかけは、刑務所の食事に対する世間のイメージとのギャップでした。「クサい飯」といった言葉が先行しがちですが、実際には受刑者が「おいしい」と素直に評価してくれる場面も多く、その声に支えられてきたといいます。だからこそ、現場で起きていることを正しく伝えたいという思いが強まっていきました。
また、刑務所の食事は受刑者自身が行っていることや、日々のやり取りで起こる人間味あふれるエピソードが数多くあることは、これまであまり知られてきませんでした。だからこそ黒栁さんは、専門知識がない人にも伝わるよう、あえて難しい説明を避け、誰もが読めるかたちで表現することを意識したといいます。
心ない声が集まりやすいSNSではなく出版という形を選んだのも、現役職員としての立場を踏まえた判断でした。こうして、現場の声と食への想いを詰め込んだ1冊が生まれたのです。
実写ドラマの撮影現場を見学して

ムショランのドラマ化にあたり、黒栁さんは撮影現場にも足を運びました。自身が見てきた現場や経験が映像として立ち上がっていく様子を目の当たりにし、「本当に実現したんだ」とどこか不思議な感覚を抱いたといいます。
現場で特に印象的だったのは、制作陣のリアリティへのこだわりでした。炊場のセットでは細かな違和感について意見を尋ねられたり、脚本の内容についても丁寧に確認が重ねられたりと、実際の空気感をできる限りすくい取ろうとする姿勢が随所に感じられたそうです。
刑務所を舞台にした作品はこれまでもありましたが、黒栁さんは実態とかけ離れた描写に違和感を覚えることも少なくなかったといいます。だからこそ、ムショランのドラマ化には期待を寄せており、関係者からも共感の声があがるのではないかと感じているそうです。
黒栁さんがドラマを通じて伝えたいのは、「食べること」が持つ本質的な価値です。刑務所という特殊な環境であっても、食事を前にした人の気持ちは誰にとっても変わりません。「美味しい」と感じる瞬間や、それを誰かと共有する時間は、心を豊かにする大切なものだと黒栁さんはいいます。
確かに栄養バランスを満たすことももちろん重要です。ですがそれ以上に、笑いながら食べることや「美味しいね」と言い合える関係性こそが、人々にとって欠かせない要素だという考えが、ムショランの根底には流れています。
刑務所の話にとどまらず、家庭や社会でも通じる普遍的なテーマとして、食が持つ力を感じてほしいという想いがムショランにはありました。
刑務所の管理栄養士という仕事は、単に栄養バランスを整えた食事を提供するだけではありません。制限された環境でメニューを考え、調理に関わる受刑者と向き合いながら、食を通じて意識や行動の変化を促していく役割も担っています。黒栁さんは、実際にこれまで現場で直面した課題とどのように向き合ってきたのでしょうか。
刑務所で働くことになった経緯

黒栁さんは幼い頃から料理が好きで、大学在学中に管理栄養士の資格を取得しました。卒業後はすぐに栄養士の道へ進んだわけではなく、まずは一般企業で事務職として働いていたといいます。
しかし将来を見据えるなかで、「手に職をつけたい」という思いが強まり、本格的に管理栄養士としてのキャリアを歩み始めました。その後は、老人ホームや学校など、さまざまな現場を経験し、栄養士としてのキャリアを重ねていきます。
そして転機となったのは、学校栄養士として働いていた時期の契約終了でした。次の仕事を探す過程で偶然見つけたのが、刑務所の栄養士募集。実は同時期に自衛隊の栄養士にも応募していたようですが、先に合格した刑務所での勤務を選択したそうです。この偶然の縁と出会いが、結果として現在の活動につながっています。

刑務所で働き始めた当初、黒栁さんが違和感を覚えたのは「決められた通りに作ればよい」という現場の風土でした。そこでは、味の良し悪しよりも、指示された材料や分量を守ることが優先されており、「美味しく作る」という視点が欠けていたといいます。また、非効率な作業手順が慣習として続いている場面も少なくありませんでした。
そこで黒栁さんは、いきなり「おいしさ」を前面に押し出すのではなく、安全性や作業効率、コスト面といった、現場が受け入れやすい視点から改善を提案していきました。小さな見直しを積み重ねることで、徐々に理解と協力を得ていったそうです。
その結果、調理に関わる受刑者の意識にも変化が生まれ、「もっと美味しく作りたい」と前向きな声が挙がるようになるなど、現場全体に少しずつ変化が広がっていきました。
『獄旨ドーナツ』のブランド化で認知拡大に寄与

書籍で語られていた構想のひとつが、「獄旨ドーナツ」の商品化です。刑務所生活では甘いものが大きな楽しみとなることも多く、出所後に食べたいものとしてドーナツを挙げる人も少なくないといいます。
そうした背景から生まれたこの企画は、単なる商品開発にとどまらず、刑務所の内部事情に関心を持ってもらう入口としての役割も担っています。社会課題を正面から伝えるだけでは届きにくい層にも、食という身近なテーマを通じて関心を広げていく狙いがあります。
今後は各地でのシリーズ展開なども視野に入れており、話題性とともに、刑務所と社会をつなぐ新たな接点としての広がりが期待されています。
黒栁さんの活動は、刑務所だけにとどまりません。食を通じて人と人とのつながりを生み出し、社会で孤立しがちな人々を支える取り組みにも広がっています。料理は単なる生活手段ではなく、人生を豊かにするきっかけにもなり得るもの――その考えのもと、新たな挑戦も始まっています。

黒栁さんはこれまでの経験を踏まえ、男性に向けた料理教室の展開にも力を入れています。背景にあるのは、男性の孤立や社会とのつながりの希薄さといった課題です。仕事を離れると人間関係が途切れやすく、特に高齢期には孤独に陥りやすい現状があります。そこで、料理を通じて人が集まり、自然と会話や役割が生まれる場をつくりたいと考えました。
特に若い世代を対象とした料理教室として黒栁さんが考えているのは、男性ファッション誌をもじった「メンズマンマ」です。気軽に参加できる入口として位置づける一方、年配の世代を対象とした「おじさん食堂Gメン75」の構想も描いています。
さらに、「揚げ物部長」や「味見監査官」といったユニークな役割を設けることで、楽しみながら関われる仕組みづくりも検討しているそうです。
人の温もりを食から感じてほしい

「役割を持つことで主体的に関わりやすくなり、自然とコミュニティへの参加意識も高まるのではないか?」
料理をきっかけに、人と社会のつながりを取り戻していく取り組みをしたいと黒栁さんは考えています。
黒栁さんが食を通じて伝えたいのは、単なる栄養や満腹感ではなく、人の温もりを感じることの大切さです。たとえ同じ料理であっても、誰がどのように作ったのかを想像できるかどうかで、その受け取り方は大きく変わります。実際に刑務所でも、調理の大変さや手間を知ることで、「いただきます」や「ごちそうさま」の意味を実感する受刑者の姿が見られたそうです。
日常では当たり前になりがちな食事も、そこに関わる人の存在に目を向けることで、自然と感謝の気持ちが生まれます。外食やコンビニ食が普及した今だからこそ、黒栁さんは「食の背景にある人の手や思いに気づくことが大切」だと語ります。自炊や調理の経験は、そうした想像力を育み、人とのつながりを感じるきっかけになるのです。
| 土曜ドラマ「ムショラン三ツ星」 https://www.nhk.jp/g/ts/R5XPVN71M4/blog/bl/pjG5wQKQWv/bp/pOyrRVRY9j/ 2026年5月23日(土)スタート 毎週(土)夜10時~10時45分(全5話) ※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定 |
<TEXT/小嶋麻莉恵>












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