
政府が、アジア系投資ファンドのMBKパートナーズによる工作機械大手・牧野フライス製作所の株式公開買い付け(TOB)計画について、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき中止を勧告していたことが明らかになりました。 勧告は22日付で行われ、2017年の外為法改正で安全保障関連分野への投資規制が強化されて以降、中止勧告が出るのは初めてとされています。 牧野フライスの工作機械は、防衛装備品の製造事業者などで広く利用されており、軍民両用(デュアルユース)技術を含む「コア業種」として外為法上重視されてきました。 政府は、高精度工作機械を通じて安全保障上の重要技術が海外に流出するリスクを懸念したと説明しています。
牧野フライスを巡っては、2024年末にニデックが事前の合意なくTOBを仕掛けたことをきっかけに、買収攻防が表面化しました。 これに対し、牧野フライス側は独立した特別委員会を設置し、株主価値の最大化を目指す選択肢の一つとしてMBKの提案を受け入れ、2025年6月に1株1万1751円でのTOBに賛同すると発表していました。 MBKは同社を完全子会社化し上場廃止とする計画で、非公開化後は高付加価値製品の開発を強化し、中長期的な企業価値向上を図る方針を示していました。 しかし米国や中国などでの競争法・安全保障審査が長引き、TOB開始は当初想定の2025年12月上旬からたびたび延期されてきた経緯があります。
2026年1月時点で米国と中国の審査は通過したとされ、最後に残っていたのが日本政府による外為法に基づく事前審査でした。 今回の中止勧告を受け、MBKは制度上、10日以内に勧告を受け入れるかどうかを判断する必要があり、拒否した場合には政府が中止命令を出す可能性もあります。 市場では勧告報道を受けて牧野フライス株が大幅に下落し、投資家の間には取引の行方と企業価値への影響を警戒する見方が広がっています。 一方で、新たに日系ファンドの日本産業推進機構グループ(NSSK)が牧野フライスへの買収提案を検討していることも判明し、今後のスポンサー選定やガバナンスのあり方が注目されています。
経済安全保障重視の流れと牧野フライスの今後
今回の中止勧告は、経済安全保障をめぐる国際的な潮流と、日本の外為法運用の転換点となる象徴的な案件と受け止められています。 工作機械は、航空機エンジン部品や防衛関連産業で用いられる高精度加工に不可欠であり、民生用途と軍事用途の双方にまたがるデュアルユース技術として各国が敏感に対応している分野です。 米国では対米外国投資委員会(CFIUS)が安全保障上の観点から外国投資を厳格に審査しており、日本製鉄によるUSスチール買収案件も審査対象となるなど、主要国で制度強化が進んでいます。
日本政府も米国にならい、省庁横断の「対日外国投資委員会(日本版CFIUS)」創設を掲げ、2026年3月には外為法改正案を国会に提出しています。 改正外為法のもとで初となる今回の中止勧告は、今後、コア業種への海外マネーの関与に対する審査が一段と厳格化される前例となり得ます。 一方で、政府の判断基準やプロセスの透明性を高めなければ、企業の機動的な資本政策やM&A戦略、さらには海外投資家の日本市場への信頼に影響しかねないとの指摘も社説などで出ています。
MBKは日中韓を中心に投資を行う独立系ファンドで、2017年に宝飾品販売のTASAKI、2024年にはアリナミン製薬を買収するなど、日本企業への大型投資の実績を積み重ねてきました。 運用残高は約330億ドル(約5兆2000億円)規模とされ、消費財や製造業など幅広い案件に関与しています。 仮にMBKがTOBを撤回した場合、牧野フライスは上場企業として再び市場の評価と株主構成の変化を踏まえながら企業価値向上を模索する必要があり、独力成長か新たなスポンサーとの資本提携か、経営戦略の練り直しが急務となります。 経済安全保障と企業の競争力強化をいかに両立させるか、今回の事案は日本の産業政策全体に問いを突きつけていると言えます。












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