極道から子供たちの支援へ。大量吐血で生死を彷徨った、元組長が貫く、死後の「おまけの人生」と「任俠道」

写真提供:KenKenさん

かつて関東最大規模のヤクザ組織で要職を務め、自らも組を持ちながら現在は児童養護施設への支援や格闘技チャリティーイベントの運営に心血を注いでいるKenKenさん。一時は大病によって生死の境を彷徨ったことも。なぜ今、見返りを求めない活動を続けているのでしょうか。「俺は表に出るような者じゃない」と何度も断られましたが、粘り強く交渉した結果、今回取材に応じていただき、KenKenさんの波乱に満ちた半生に迫りました。

<目次>

元組長が語る覚悟の原点。人生の教科書は「野村秋介」

KenKenさんのこれまでの歩みは、決して平坦なものではありませんでした。家族は崩壊し家を飛び出しホームレスの生活に明け暮れ未来に迷っていた19歳の頃に組織の門を叩き、若くしてヤクザの世界に身を投じますが、25歳から約10年ほど獄中生活を送ることになります。閉ざされた時間の中で、KenKenさんはある人物の著書を読みあさりました。民族派活動家の野村秋介氏です。

思想的には賛否の分かれる存在です。しかしKenKenさんが強く心を打たれたのは、政治的主張そのものではなく、野村秋介という人の生き様でした。野村氏は右翼と呼ばれながらも、思想の異なる左翼の人々とも対話を重ね、酒を酌み交わした人物でした。敵と見なされがちな相手の意見にも耳を傾ける姿勢は、当時としては異例だったといいます。

さらに衝撃を受けたのは、その徹底した覚悟でした。私利私欲ではなく、己の信念のために18年の獄中生活を送り、最後は自らの命をもって「男が命を懸けるとはどういうことか」を示しました。その極端なまでの覚悟に、KenKenさんは圧倒されます。KenKenさんが「俺の人生の教科書」と語るほどに、野村氏の著書は特別な存在となりました。

大量吐血、意識不明…。死の淵で悟った「日常の尊さと人生の使い道」

大量吐血で意識不明になった頃のKenKenさん
写真提供:KenKenさん

35歳で出所したKenKenさんの心に火をつけたのは、ある人物からかけられた「お前はゼロではなく、マイナスからのスタートなんだ。だから人と同じことをしてたらそのマイナスは埋まらない。人の3倍頑張ってこそその溝は埋まる」という言葉でした。

その言葉を胸に、KenKenさんは周囲が酒を飲み遊んでいる間も、厳しい親分の付き人として誰よりもがむしゃらに極道としての修行に励みました。理不尽な要求や過酷な環境に置かれても、「組織のため、親分のため」という一念で自分を律し、一歩も引かずに任務を全うする日々。その徹底した献身ぶりは、次第に周囲の見る目を変えていきました。

誰よりも「ヤクザとして真面目であること」を貫いた結果、組織の要職である総長秘書や理事長を歴任することになりついには自らの組も立ち上げる事になります。「ヤクザとは『任俠』という生き方。時代が変わって、たとえ古いと言われても『弱気を助け 強気をくじく』という生き方を俺は貫いてきた」とKenKenさんは語ります。

若き日のKenKenさん(写真提供:KenKenさん)
若き日のKenKenさん(写真提供:KenKenさん)

数年後、KenKenさんは繰り返す病に体力の限界を感じ、ヤクザ組織から身を引く決意をします。KenKenさんの所属していた一家は、辞めていく者が他組織に行かない為に「破門処分」の状を巻くことを徹底していました。

そんな事からKenKenさんは自らの破門処分を覚悟して親分に申し出たところ、一家始まって以来、異例の「引退通知」が全国のヤクザ組織に配布されました。そこには以下の言葉が書かれていました。

「右の者 永年にわたり組織のため尽力して参りましたが、体調を崩したため治療に専念する」

そして、引退からわずか数日後、30年以上張り詰めてきた糸が途切れたのか、突然KenKenさんは大量の吐血をして倒れてしまい一週間意識を失います。医師からは「もう助からないので家族を呼んでください」と告げられたそうです。

集中治療室で水も飲めず、氷を口に含むことだけが許された時間。「人生で一番苦しかった」とKenKenさんは振り返ります。その後、奇跡的に一命を取り留めましたが、それはまさに生死の境をさまよう体験でした。

半年にも及ぶ長期の入院生活は、想像以上に過酷なものでした。自由に外へ出ることもできず、食事や睡眠、行動のすべてが制限されました。KenKenさんは「刑務所よりも不自由だった」と語ります。

刑務所には時間の区切りがあり、ある種の秩序がありました。しかし病室では、自分の体すら思うように動かせない。トイレに立つことさえままならない現実が、何よりも堪えたといいます。

それまで当たり前だと思っていた「歩けること」「食べられること」「息を吸うこと」、そんな単純な事がどれほど尊いものだったのかを思い知らされました。強さとは何かを問い続けてきた人生でしたが、このとき初めて、「生きているだけで十分に価値がある」という感覚を得たといいます。

「今の人生は、おまけみたいなもんなんです」

生死の境を越えて戻ってきたKenKenさんはさらりとそう語りますが、そこに込められている想いは決して軽いものではありません。与えられた時間を、自分のためだけに使うつもりはありません。その信念が、誰かのためにという現在のボランティア活動の原動力になっています。

「利益などいらない」格闘技興行を通じて児童養護施設を支援

KenKenさんが支援する児童養護施設の子供たち
写真提供:KenKenさん

KenKenさんが格闘技興行に関わるようになったきっかけは、格闘技団体を運営していた同級生の存在でした。まだ組織に身を置いていた頃は公に関わることはできませんでしたが、若い選手たちを陰ながら応援し、支えていたといいます。やがて選手たちが出場していた大会がなくなり、「自分たちで興行をやろう」という話が持ち上がりました。

そのときに出たのが、「どうせやるなら人のためになることをやろう」という声でした。団体には親のいない環境で育った選手もいます。ならば児童養護施設に還元できる形で運営しよう。自然な流れで皆で方向性が定まったといいます。

当初、KenKenさんは自分の立場を弁え、あくまで外から支える立場でした。施設に足を運ぶことも控えていたのは、自身の立場が迷惑をかける可能性を考えたからです。

アドバイザーという肩書きを持ったのはここ1年ほど。もともと表に出るつもりはなかったといいます。しかし、周囲から「適任だ」と背中を押され、役割を引き受けました。支援は誰かのために正直に行動し、続けていくもの。その姿勢は、今も変わっていません。

活動を広げるうえで、大きな役割を果たしているのがSNSです。自らの経歴も語らず、ただ素直な気持ちを発信していました。その率直さに共感が集まり、少しずつ支援の輪が広がっていったとKenKenさんは話します。

過去の経歴に色眼鏡を向ける声がないわけではありません。それでも、自分の言葉で伝え続けることで理解者は確実に増えていったといいます。企業や個人からの協賛も、最初は小さな縁から始まりました。派手な営業をかけたわけではありません。活動を見た人が、「応援したい」と手を差し伸べてくれた結果だといいます。

かつては組織という枠の中にあった人間関係が、今は志でつながる関係へと変わりました。

マイナスから這い上がり、死線を超えた男の使命とこれからの任俠道

KenKenさんが支援する児童養護施設の子供たち
写真提供:KenKenさん

活動を続けるなかで、課題は明確です。大会を大きくすれば会場費や映像費、警備費などの経費も増える。実際、興行後に残るのは僅かで、次回開催の資金も確保しなければなりません。現状はメンバー全員が手弁当で支えています。

だからこそ必要なのが、協賛企業の存在と社会的信用です。NPO法人や一般社団法人化も視野に入れ、資金の流れを透明にしながら、共感してくれる企業とつながりたいとKenKenさんは考えています。

原点にあるのは、子どもたちの笑顔です。クリスマスには50人以上の子供が希望するものを施設へ届けたこともありました。本当は毎回、子どもたちが望むものを直接届けたい。しかし継続には信頼と資金が不可欠です。

「飾りはない。嘘もない。ありのままを見てもらうだけ。俺の『任俠』という生き方はこれからも変わることはない」

その先に子どもたちの笑顔がある限り、KenKenさんの歩みは止まりません。

KenKen
https://x.com/kenken_333777

今年も️INASEチャリティーファイトが新木場にて開催されます。

INASEチャリティーファイト

<TEXT/小嶋麻莉恵>

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. 高市首相がサウジ皇太子と電話会談、エネルギー供給拡大へ協力要請
    高市早苗首相は4月23日、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と電話会談し、日本へのエネ…
  2. アラブ首長国連邦の石油を積んだタンカー
    イランによる事実上のホルムズ海峡封鎖が長期化する見通しなか、日本政府は海峡を通過しない代替ルートを利…
  3. 順天堂大学
    順天堂大学の研究により、男性ホルモンの一種であるテストステロンの低下、微小な慢性炎症、そして腎機能の…

おすすめ記事

  1. 2023年11月4日(土)に第51回横浜矯正展が開催された横浜刑務所の入り口

    2023-12-29

    『横浜刑務所で作ったパスタ』で大行列!刑務所見学もできる横浜矯正展とは?

    横浜矯正展は、横浜刑務所、横浜少年鑑別所、公益財団法人矯正協会刑務作業協力事業部主催で2023年11…
  2. 網走刑務所で刑務作業を行う受刑者

    2025-7-21

    網走刑務所とはどんな場所?現役職員に聞いた歴史と受刑者の今

    強固な警備体制や凶悪事件の受刑者が収容されるイメージもある網走刑務所。映画やドラマなどの影響で、怖い…
  3. 2025-9-10

    Apple新型『iPhone 17』、SIMスロット廃止で薄型化実現 ユーザー対応に課題

    Apple社が9月10日に発表した最新スマートフォン『iPhone 17』シリーズにおいて、日本市場…

2025年度矯正展まとめ

2024年に開催された全国矯正展の様子

【結果】コンテスト

【結果発表】ライティングコンテスト企画2025年9-10月(大阪・関西万博 第4回)

アーカイブ

ページ上部へ戻る