
半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の機密情報が不正に取得された事件で、台湾の知的財産・商業法院は27日、東京エレクトロンの台湾子会社に対し国家安全法違反などで罰金1億5000万台湾元(約7億6000万円)の有罪判決を言い渡しました。 事件の中心人物とされた同子会社の元社員には懲役10年が科され、台湾当局が2022年の法改正で導入した「経済スパイ」条項が日系企業に初めて適用された事案として注目を集めています。 裁判所は、同子会社が元社員への監督義務を十分に果たしていなかったと指摘する一方、取得された機密情報が第三者へ流出した事実は認められないとしました。
判決によりますと、元社員はかつてTSMCに勤務していた技術者で、東京エレクトロン製の装置がTSMCの最先端半導体の製造工程に採用されることを目指し、自社装置の性能向上のために営業秘密を含むデータの提供をTSMC側の旧知の技術者らに持ち掛けたとされています。 こうして得られた製造プロセス関連のデータは、同子会社のクラウドなどに保存されていたことが捜査で判明し、「国家の核心的な重要技術」に関わる情報と認定されました。
知的財産・商業法院は、東京エレクトロン台湾子会社に科した1億5000万台湾元の罰金について、TSMCに1億台湾元、台湾当局に5千万台湾元を支払うことを条件に、3年間の執行猶予を付ける判断を示しました。 また、事件発覚後に元社員が保有していたTSMC関連データを削除したとして証拠隠滅罪に問われた当時の幹部には懲役10月・執行猶予3年が言い渡されています。 元社員に営業秘密が含まれるデータを提供したTSMCの技術者3人については、それぞれ懲役2~6年の実刑判決となりました。
台湾高等検察署は2025年8月、TSMCから2ナノメートル世代を含む先端半導体の機密情報が不正に取得されたとして、元社員らを起訴し、その後の捜査で東京エレクトロン台湾子会社のクラウドに別の機密データも保存されていたことが分かったため、国家安全法違反で法人としての子会社も追起訴していました。 検察は当初、同子会社に対し少なくとも2500万台湾元の罰金を求刑しており、今回の判決はそれを大きく上回る金額となりました。 判決は第一審であり、被告側には上訴の道が残されています。
台湾の「経済スパイ」規制強化と日系企業への波及
今回の事件の背景には、台湾が半導体など戦略産業の技術流出防止に向けて法整備を強化してきた流れがあります。台湾政府は中国など「海外の敵対勢力」による産業スパイ活動への危機感を強め、2022年に国家安全法を改正して「国家の核心的な重要技術の営業秘密」を対象とする経済スパイに対し、最長12年の懲役刑などを科す条項を新設しました。 この改正により、半導体製造プロセスなどの情報は、従来の営業秘密保護に加え、国家安全保障の枠組みでも厳格な保護が図られることになりました。
今回の判決は、その経済スパイ条項が実際の事件で適用された初のケースとされ、しかも対象が日本の大手半導体製造装置メーカーグループの現地法人であったことから、日本企業にとってもガバナンスや情報管理体制の見直しを迫る象徴的な事例となっています。 台湾当局は、クラウドストレージを含む社内システムに国家核心技術に関する情報が保存されていた事実を重く見ており、海外企業であっても現地拠点が台湾の法令を順守していなければ、法人としての刑事責任を問う姿勢を鮮明にしました。
一方で、今回取得されたTSMCの機密情報が中国企業など第三者に漏洩した形跡は確認されておらず、裁判所もその点を認定しています。 それでもなお重い刑罰が科されたことは、「流出の結果」だけでなく、国家の安全保障を脅かし得る「取得や保有の段階」から厳しく対処するという、台湾司法・当局の姿勢を示したものと言えます。 半導体サプライチェーンに深く関わる日系企業にとって、台湾や各国で高まる経済安全保障規制の内容と運用実態を踏まえたコンプライアンス体制の再点検が急務となりそうです。








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