中国でBCI研究を再開した元ハーバード科学者、問われる安全保障と倫理

中国でBCI研究を再開した元ハーバード科学者、問われる安全保障と倫理

米ハーバード大学でナノテクノロジー研究を率いてきた米国人科学者チャールズ・リーバー氏が、有罪判決から数年を経て中国・深センに研究拠点を移し、脳とコンピューターをつなぐブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)の研究を進めていることが明らかになりました。
リーバー氏は、中国政府による海外高度人材招致「千人計画」に関与しながら、米当局への収入報告などで虚偽申告を行ったとして、2021年12月に有罪評決を受けた人物です。
有罪となったのは中国との研究契約や報酬そのものではなく、それらに関する虚偽申告や脱税行為であり、中国政府系大学からの多額の給与や研究資金を受け取りながら、米国立衛生研究所(NIH)などの助成機関に報告していなかった点が問題視されました。

一方、BCI技術自体は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄損傷などで運動機能を失った患者のリハビリや、意思疎通支援に活用できると期待される一方で、軍事応用の可能性も指摘されています。
中国では近年、脳信号で麻痺した手を動かすことを目指す半侵襲型BCI「北脳1号」など国産技術の開発が進み、既に臨床事例も報告されるなど、医療分野での実用化が加速しています。
また、頭蓋骨を開けずに超音波で脳に干渉する「超音波BCI」を手がける中国スタートアップが数十億円規模の資金調達に成功するなど、民間投資も活発化しており、中国はBCIを次世代戦略産業の一つと位置づけています。

リーバー氏が統括するとされる深センの研究機関は、中国側の資金で運営され、半導体製造装置や霊長類実験施設など、米国の大学では利用が難しいインフラも備えるといわれます。
ナノワイヤなどを用いて脳内の神経活動を高精細に読み取る研究で知られる同氏にとって、中国はBCI研究を一気に実用段階まで押し上げるための「最前線」となりつつある構図です。
しかし、米司法当局主導の「中国イニシアチブ」の象徴的な対象だった研究者が、処罰後に中国側の研究体制に組み込まれた事実は、米国の安全保障政策や研究管理の「抜け穴」を示すとの批判も出ています。

「千人計画」と軍民融合、揺らぐ研究の信頼

リーバー氏の事件の背景には、中国が進めてきた「千人計画」などの人材招致策があります。千人計画は2008年に始動した「海外ハイレベル人材招致」プログラムで、海外の研究機関などに所属する優秀な科学者を高待遇で招き、国家プロジェクトの責任者として登用することを目的としています。
中国共産党中央組織部などが主導し、自然科学から工学、医療まで幅広い分野の人材を対象としてきたとされ、米上院なども、この計画が欧米の大学・研究機関からの人材や技術流出につながっていると警戒を強めてきました。

もっとも、千人計画は必ずしも軍事研究だけを目的とした枠組みではなく、基礎科学分野の研究者も多く含まれていることから、「スパイ作戦」と一面的に決めつける論調には慎重さが必要だとの指摘もあります。その一方で、中国政府は「軍民融合」を掲げ、民間の先端技術や研究成果を軍に転用しやすい制度設計を進めており、BCIやAIなどデュアルユース技術への投資は軍事面との境界が曖昧だとの批判が絶えません。

BCIを巡っては、中国企業が開発した侵襲型デバイスが、米企業による脳インプラント技術と競う形で商業利用の承認を受けるなど、安全保障上のインパクトも無視できない段階に入りつつあります。麻痺治療やコミュニケーション支援など人道的な利点が強調される一方で、脳情報の取得・操作が軍の能力向上や監視に利用されるリスクをどう抑え込むのか、国際的なルールづくりは追いついていないのが現状です。有罪判決を受けた元ハーバード科学者の「中国再登場」は、そのギャップを象徴する事例として、研究倫理と安全保障の両面から議論を呼びそうです。

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