iPS細胞による体外式「バイオ人工肝臓」開発、3年以内に小児向け臨床研究へ

臨床研究

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を活用し、重篤な肝不全を治療する次世代の体外式装置「バイオ人工肝臓」の臨床研究が、いよいよ実用化に向けた本格的な段階へと移行します。この革新的な装置は、大阪大学と東京科学大学(東京工業大学と東京医科歯科大学が統合)の研究チームによって共同開発されました。

これを受けて、小児高度医療の拠点である国立成育医療研究センターが、3年以内を目標に小児患者への第1例投与を行う計画を検討していることが明らかになりました。肝臓は有害物質の解毒やタンパク質の合成を担う生命維持に不可欠な臓器ですが、劇症肝炎などで機能が急激に失われると、解毒が追いつかず意識障害や多臓器不全を招き、極めて高い死亡率を示します。特に小児は病状の進行が非常に速く、国内で深刻なドナー不足が続く肝移植以外に有効な救命手段がほとんどないのが現状です。

研究チームが採用した独自の手法は、食用の人工イクラを作る技術をバイオ医療に転用するという、極めて独創的なものです。まず、無限の増殖能力を持つiPS細胞から、直径0.1~0.2ミリという極小サイズの「ミニ肝臓」を大量に作製します。これを海藻成分由来のアルギン酸ゼリー状カプセル(直径2~3ミリ)に封入し、特殊な筒状容器に充填することで装置が構成されます。治療の仕組みは人工透析に似ており、装置内を循環する患者の血液に対し、カプセル内のミニ肝臓がアンモニアの解毒や、アルブミンなどの重要なたんぱく質を分泌。

これにより、血液を浄化するだけでなく、患者自身の肝細胞の再生を強力に支援します。重症肝不全のラットを用いた実験では、治療を行わなければほぼ死滅する状態から、約2時間の透析治療で約9割が生存するという驚異的な回復効果が実証されました。開発を主導する武部貴則教授は、「体外式の救命装置として早期に実用化し、多くの命を救いたい」と意欲を語っています。

肝移植に代わる新たな救命手段、小児医療の未来を切り拓く

国立成育医療研究センターで計画されている臨床研究は、劇症肝炎によって窮地にある小児患者3~5人を対象としています。同センターは小児の肝不全治療において国内有数の実績を誇り、過去に100例以上の劇症肝炎治療を担ってきました。臨床研究では、小児の体格に適したミニ肝臓の必要量や、装置の安全な運用プロトコルの確立が優先課題となります。臨床研究を担う国立成育医療研究センター側も、移植に伴う身体的・倫理的負担を軽減する新たな選択肢として、本技術に大きな期待を寄せています。

iPS細胞という日本発の革新技術を用いたこの装置は、移植医療におけるドナー不足という構造的な課題に対する一つの解答となります。今後は、ミニ肝臓の大量生産体制の構築やコスト低減など、社会実装に向けたハードルを乗り越えることが期待されています。しかし、肝移植を待つ時間のない緊急性の高い患者にとって、このバイオ人工肝臓が「最後の砦」として機能する未来は、すぐそこまで来ています。未来を担う子供たちとその家族にとって、この技術は計り知れない希望の光となることは間違いありません。

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