
イラン戦争によるホルムズ海峡の実質封鎖で、中東からの原油輸送が細り、世界の石油在庫が急速に目減りしているとの懸念が強まっています。
米国とイスラエルによる対イラン攻撃を受け、イランはエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖しており、2月末の開戦以降、原油や石油製品の供給が大きく落ち込んでいます。 2月28日の戦闘開始前には、同海峡を通過する船舶は1日あたり125〜140隻とされますが、足元では通過隻数が一桁台にまで減少し、世界市場向け原油を積んだタンカーがゼロの日も確認されています。 世界の原油とLNGの約2割が通過する海峡の機能が止まることで、日本を含む各国はエネルギー途絶リスクに直面しています。
国際エネルギー機関(IEA)は4月の月報で、世界の3月の石油供給量が全体の約1割に相当する日量1010万バレル減少したと分析し、「史上最大の混乱」と表現しました。 IEAによれば、産油国でつくるOPECプラスの3月の原油生産は日量940万バレル減少し、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)がホルムズ海峡を迂回するパイプラインで出荷を増やしているものの、その増加分は約320万バレルにとどまっています。 結果として、2月以降の累計で日量1300万バレル程度の供給が失われつつあるとの試算も出ており、在庫の取り崩しが急ピッチで進んでいる状況です。
需給逼迫は価格面にも表れています。3月中旬には、イランがホルムズ封鎖継続を警告したことなどを背景に、原油先物価格が一日で約9%上昇し、市場の不安心理を象徴しました。 米国とイランによる攻撃の応酬が続くなか、ホルムズ海峡の航行正常化には時間を要するとみられ、原油の供給停滞が長期化するとの懸念も根強いです。 こうしたなかで、石油在庫は本来の「ショック吸収材」として取り崩され続けており、国際市場では在庫水準が2010年代後半の低水準に近づいていると指摘されています。
在庫減少が示す「緩衝材の細り」 需要破壊と脱石油加速の可能性
石油在庫には、各国政府が保有する戦略備蓄と、石油会社やトレーダーが保有する商業在庫がありますが、いずれも物理的・運用上の制約から「ゼロ」まで取り崩すことはできません。 日本は約250日分に相当する原油・石油製品の備蓄を持つとされるものの、これは公的備蓄と民間備蓄の合算であり、実際に市場に放出できる量には限界があります。 IEAはホルムズ海峡封鎖の長期化を前提に、4月にもさらに日量290万バレルの供給が失われると予測しており、戦闘が一時的に収束しても、在庫水準が戻るまでに時間を要するとみています。
一方、価格高騰は需要側の動きも変えつつあります。IEAは4月の報告書で、2026年の世界の石油需要が、当初見込んでいた日量64万バレル増から一転して日量8万バレル減に転じると予測し、新型コロナのパンデミック以来最大の「需要破壊」が起きるとの見通しを示しました。 企業や家計が高止まりするエネルギー価格に対応するなかで、省エネ投資や燃料転換が進み、中長期的には「原油離れ」が加速する可能性も指摘されています。
日本経済への影響については、専門家の間で「早ければ2026年4〜6月期、遅くとも7〜9月期には生産活動に下押し圧力がかかる」との見方が出ています。 とりわけ、石油化学の原料となるナフサや、物流の基盤である軽油・重油の確保が課題となり、2027年春ごろまで供給不安が続くシナリオも想定されています。 世界経済にとっては、米国とイランの停戦成立とホルムズ海峡の開放が最大のカギであり、封鎖が長期化した場合には「テールリスク」ではなく現実的なリスクシナリオとして、エネルギー政策と安全保障の両面で対応が迫られる局面が続きそうです。






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