- Home
- コラム・インタビュー, 社会・政治
- 知らないうちに私がアダルトビデオに出演している!?AIディープフェイクが侵害する「性に関する自己決定権」
知らないうちに私がアダルトビデオに出演している!?AIディープフェイクが侵害する「性に関する自己決定権」

生成AIを用いて、実在する人物の顔を別人の身体に合成し、あたかも本人が出演しているかのような性的コンテンツを作り出す、いわゆる“AIディープフェイクポルノ”の問題が、急速に広がりを見せています。
こうした問題をめぐる議論では本人の同意なく顔写真などを利用された被害者が中心であり、「名誉毀損」や「プライバシー侵害」といった枠組みで語られることが多くありました。
しかし、身体の写真や動画を無断で利用されたAV(アダルトビデオ)出演者の被害は、そうした捉え方だけでは不十分だと指摘する声も上がっています。
自分が関与していないにもかかわらず、出演しているかのような映像が作られてしまうーー。この問題の本質はどこにあるのでしょうか。アダルトビデオ実演者の地位向上について考える「実演者向上委員会」と、京都大学法科大学院教授の髙山佳奈子さんに取材しました。

<目次>
損なわれる「何を見せるか」という権利

こうした問題の背景にあるのが「性に関する自己決定権」という考え方です。
人は自らの身体や表現について、「何を、どのように見せるか」を決める権利を持っています。人格権の一部として広く認められている考え方であり、さらに性的表現に関してはより強く保護されるべき領域だとされています。
「自分に関する情報を自分でコントロールする権利があります。そのうえで、性的な表現は非常にプライベート性が高い領域です。ディープフェイクは、その二重の意味で権利を侵害しています」
問題となるのは、本人の知らないところで性的なコンテンツが作られて流通してしまう点です。AV出演者にとって、顔や身体は単なる個人情報ではありません。それ自体が仕事の中核であり、キャリアを支える重要な“資産”です。出演内容や表現は、制作側との合意のもとで決定されるのが前提となっています。
しかし、ディープフェイク作品では、その前提が完全に崩れてしまいます。現場では、出演者の同意なく顔や身体が使われたという相談が実際に寄せられています。本人が知らないうちに作品が作られ、販売されているケースもあるそうです。
自身の顔がそのまま使われていると分かるケースもあれば、身体などの複数の素材が組み合わされて判別が難しくなっているケースもあるといいます。
「問題は、そうした作品が“新作”として販売され、収益が発生していることです。しかし、その利益は出演者には一切還元されません」
さらに深刻なのは、仕事への影響です。消費者が本物と偽物を区別せずに消費するようになると、偽物に需要が流れる可能性があります。その結果、出演機会が減り、収入にも影響が出てしまうといいます。つまり、ディープフェイクは単なるイメージの問題ではなく、実演者の職業的基盤そのものを揺るがす問題でもあるのです。
現行法の限界と「戦い方」

では、現行の法制度でどこまで対応できるのでしょうか。
「人格権侵害として、不法行為に基づく損害賠償請求は可能です。ただし、それがほぼ唯一の手段であり、十分とは言えません」
著作権侵害や業務妨害といった他の法的構成も検討されますが、いずれも適用には限界があります。また、技術の進化によって、本物と見分けがつかないほど精巧な作品も増えています。昔のコラージュとは異なり、現在のディープフェイクは判別が非常に困難です。被害の規模や影響も格段に大きくなっているといいます。
こうした現状を踏まえ、同委員会は制度面での対応の必要性を強調します。
「人格権だけでなく、財産権の観点も含めて考える必要があります。偽物によって利益が生まれている以上、その利益を適切にコントロールする仕組みが求められます。知的財産の領域からのアプローチも重要です」
コンテンツを流通させるプラットフォームや、それを消費する側の責任も問われています。プラットフォームについては、共同不法行為としてその責任を問われる可能性があり、少なくとも人格権侵害にあたるコンテンツに対しては、削除や差し止めといった毅然とした対応が求められます。
さらに、消費者に対しても重要な指摘がなされます。
「こうしたコンテンツの多くは出演者の許諾を得ていません。それを消費しても出演者を支えることにはならず、むしろ正規の市場を損なうことにつながります」
この構造は、海賊版漫画や違法音楽配信の問題とも共通しています。本来の権利者に利益が還元されない仕組みが広がれば、最終的には「本物」の制作自体が成立しなくなり、結果として消費者自身も不利益を被ることになるのです。
誰にでも起こりうる問題

最後に強調されたのは、この問題が決して一部の業界に限られたものではないという点です。近年では、卒業アルバムの写真やSNS画像をもとに、一般の人がディープフェイクの被害に遭うケースも報告されています。
誰の顔でも素材として使われる可能性があり、実演者だけの問題ではなく、誰もが当事者になり得る問題です。だからこそ必要なのは、法制度の整備だけではありません。
「正規のルートで制作された作品を選ぶこと、そして本人の同意がないコンテンツを安易に消費しないこと。そうした意識を持つことが重要です」
“存在しないはずの行為”が現実の被害を生む時代において、私たちはどのような基準で「許される表現」と「許されない侵害」を見極めるべきなのでしょうか。ディープフェイクの問題は、技術や法律の課題であると同時に、私たち一人ひとりの選択が問われる問題でもあります。
-150x112.jpg)

















-300x169.jpg)