東京2020オリンピック、最もけがが多かった競技は?医師が明かす意外な医療データの結果

東京2020オリンピック、最もけがが多かった競技は?医師が明かす意外な医療データの結果

2020年東京オリンピック競技大会は、新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期され、2021年7月23日から8月8日まで開催されました。そして、オリンピック史上最多となる33競技339種目が実施されました。この大会は、東京で1964年以来2度目の開催となり、同一都市での複数回開催はアジアで初めてでした。

ところで、東京2020オリンピック競技大会で最もけがが多かった競技は何でしょうか?

過酷な暑さの中での大会でしたが、けがについては、事前の予想とは少し違った結果が出ています。今回は、東京2020オリンピック競技大会の医療データに関する興味深い研究をご紹介します。

東京2020オリンピック競技大会におけるアスリートの負傷および疾病に関する解析

今回、紹介する文献は、国士舘大学体育学部スポーツ医科学科の田中秀治氏らの研究グループによる、2020年東京オリンピック競技大会におけるアスリートの負傷および疾病に関する分析報告です。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年4月に掲載されています。

Hideharu Tanaka, Shota Tanaka, Hiroyuki Yokota,et al.Acute in-competition medical care at the Tokyo 2020 Olympics: a retrospective analysis.Br J Sports Med.2023 Nov;57(21):1361-1370. 

東京2020オリンピック競技大会におけるアスリートの負傷および疾病 けがや病気は予想よりも少なかった

今回の研究では、2021年7月21日から8月8日の競技期間中を対象としました。国際オリンピック委員会(IOC)が承認する206カ国のオリンピック委員会に所属する11,420人のアスリートと、312,883人の大会関係者が対象です。

競技会場の診療所で治療を受けた567名のデータを後ろ向き研究で分析したところ、負傷者や熱中症の発生は予想よりも少ない結果となりました。診療所を受診した567名の内訳は以下の通りです。

  • 負傷者: 416名
  • 熱中症: 100名
  • 熱中症を除く体調不良: 51名

負傷および疾病の発生率が全体で最も高かったのは、マラソンと競歩(17.9%、66名)でした。また、軽傷の発生率が最も高かったゴルフを除外すると、負傷の発生率が高かったのはボクシング(13.8%、40名)、スポーツクライミング(12.5%、5名)、スケートボード(11.3%、9名)という結果でした。新競技での負傷が目立つのが特徴的です。

スケートボードやスポーツクライミングは東京五輪から採用された新競技ですが、高所からの激しい落下や複雑な動作による関節への負担が大きく、打撲や捻挫などが発生しやすい特徴があります。激しいコンタクトスポーツであるボクシングを含め、競技特有の身体へのダメージが数字に表れています。

懸念されていた熱中症については、100名のうち約半数(50件)がマラソンと競歩に集中していました。しかし、病院へ搬送されたのはわずか6名で、入院を要するケースは0(ゼロ)でした。また、感染症の発生も過去の夏季オリンピックより少なかったことが分かっています。

東京2020オリンピック競技大会におけるアスリートの負傷および疾病が予想よりも少なかったのは、スタッフの適切な準備や対応のため

真夏の過酷な環境にもかかわらず、大きな事故や重症患者が発生しなかったのはなぜでしょうか。研究グループは、大会に参加した医療スタッフによる各会場での徹底した疾病予防対策や、治療および搬送に関する適切な準備があったためであると指摘しています。

例えば、熱中症が多発したマラソンなどで重症者が出なかった背景には、医療チームによる「氷や冷水を用いた迅速な身体冷却(アイスバスなど)」や、現場での的確な重症度評価(トリアージ)が機能したことが推測されます。

東京大会では、国際的な専門家会議の基準に則り、重度な熱中症に対する治療として、アイスバス(氷水浴)による迅速な全身冷却が導入されました。これまでアイスバス(氷水浴)は日本では主に疲労回復目的に用いられてきましたが、命を救うための医療設備として各会場に設置され、深刻な事態を防ぐポイントとなったのです。

このオリンピックでの成功例は、私たちの日常生活にも活かせます。部活動や趣味でスポーツを楽しむ際にも、準備と予防対策を怠らず、少しでも異常を感じた際には早めに医療機関を受診するよう心がけましょう。

一番けがの発生率が高かったのは、ボクシング。安全第一でスポーツを楽しもう

東京オリンピックで一番けがの発生率が高かったのは、ボクシングでした(軽傷の発生率が最も高かったゴルフを除外)。しかし、医療チームの入念な準備により、重症化するのを防いでいました。皆さんも安全第一でスポーツを楽しみましょう。

参考文献
オリンピック・パラリンピック総括委員会 活動報告「3.我が国の臨床スポーツ医学における課題」日本臨床スポーツ医学会誌:Vol. 32 No. 1, 2024. 21-28.
東京2020の医療体制とベストパフォーマンスを引き出すサポートの裏側.日本陸上競技連盟公式サイト

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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