東京湾「海洋散骨クルージング」に密着。墓じまいの増加で注目される“自然葬”の最前線

海洋散骨の様子

近年、日本人の死生観は劇的な変化を遂げています。少子高齢化や都市部への人口集中により、かつての「代々継がれる墓」の維持は困難になり、墓じまいを検討する人も少なくありません。

それに伴い海洋散骨など新たな弔い方にも注目が集まっています。そこで、本記事では海洋散骨クルージングを体験し、現代における供養のあり方、実際に海の上で行われるセレモニーの実態に迫りました。

<目次>

海洋散骨クルージングで疑似散骨体験へ

勝どきから出港するブルーオーシャンセレモニーの船
勝どきから出港するブルーオーシャンセレモニーの船

今回取材を依頼したのは、年間900件以上の海上散骨の実績を誇る「海洋散骨のブルーオーシャンセレモニー」です。業界大手の同社が提案している海洋散骨クルージングは、勝どきの桟橋から東京湾を経て、羽田空港そばの海域へと向かう往復約2時間のコースが主流です。今回は同社社長の水野さんと船長の森野さん、スタッフの安藤さんに案内してもらいながら散骨体験を行いました。

乗船の様子
勝どきを出港し羽田空港付近へ

出港した船は、都会の喧騒を背にお台場などを通過。途中は羽田空港を目指す飛行機も多く目に留まります。東京らしい情景を眺めながら散骨スポットを目指すため、乗船する家族は賑やかな雰囲気で移動することが多いそうです。

ブルーオーシャンセレモニーでは夜の海洋散骨クルージングも案内しており、東京湾の夜景を見ながら散骨に向かうこともできます。従来の葬儀や法要とは異なり、家族と明るくお別れする「最期の旅行」を感じさせる試みです。

今回のクルージング体験では、寄港していた海上自衛隊の南極観測船(砕氷艦)であるしらせを偶然目撃。こうした特別な出会いに立ち会えるご家族もいるそうです。

40分ほどで船は羽田空港付近へ。空港に近づくと着陸する飛行機が頭上を通過するため迫力があります。目的地である羽田空港付近に到着すると、実際に散骨に臨む家族は手に花びらを持ち、それぞれが故人との時間を思い返しながら骨を海に還します。

その時のご遺族の様子について、安藤スタッフは当時の情景を振り返るように語ってくれました。

「海に還っていくご遺骨を見ながら、涙をぬぐう人もいれば、微笑む人もいます。ただ、散骨が終わると皆さま本当に晴れやかな表情になるんですよ」

海洋散骨やセレモニーの様子
海洋散骨模擬体験の様子

同社の水野聡志社長によると散骨後には証明書が送付され、希望者には後日「散骨した場所へお参りに行くメモリアルクルーズ」も提供しているそう。従来とは違った形の弔いを用意しています。海洋散骨のニーズは身近ではない親族の墓じまいにも一助しており、代行散骨(家族から依頼を受けた会社が散骨に行く)も行っています。

「ご遺骨を海に撒いたら、心のよりどころがなくなるのでは?という不安を抱く声もあります。海洋散骨は墓石のように、長きにわたってそこに亡くなった人の証が残るわけではありません。そのため、遺骨の一部を手元に残す『手元供養』も案内しており、ペンダントなどの制作もご提案しています」

広がる自然葬―限界を迎える地方の墓地

雪に埋もれる墓地
雪に埋もれる北陸某所の墓地 撮影 岩田いく実

厚生労働省が2025年10月に公表した「令和6年度(2023年度)衛生行政報告例」によると、遺骨を他の墓地へ移す改葬件数は176,105件と過去最多を更新しており、墓じまいが増加しています。そこで近年注目されているのが、海洋散骨をはじめとする「自然葬」です。

自然葬とは従来の墓石ありきの弔いではなく、海洋散骨や樹木葬など自然に人骨を還す方法です。日本では人骨の埋葬について墓地埋葬法という法律が整備されていますが、海洋散骨は規制対象外です。ただし、安全に散骨が行われるように国土交通省のガイドラインに基づき、陸から十分に離れた海域で実施されています。

自然葬のひとつである海洋散骨は、俳優の故・石原裕次郎の骨が湘南に散骨されたことをきっかけに、徐々に認知が拡大。その後、墓守の不足や「子どもに墓の負担を残したくない」というニーズの受け皿にもなっており、社会的な認知を獲得してきました。

樹木葬へのニーズも高まっており、神戸市が同市北区に整備した樹林葬墓地への募集を2026年4月より開始したところ、すでに2026年受付予定数の80体を超える希望者が殺到しており、大きな話題となっています。こうした自然葬の拡大の背景には、少子高齢化や核家族化、そして都市部への人口集中といった社会の変化が影響していると考えられます。

筆者は2026年1月~2月にかけて、北陸地方の墓地の実態を取材してきましたが、平地でも冬季は雪の中に墓石が埋もれてしまい、管理の難しさに直面していました。高齢となり山間部や雪深いエリアなどのお墓を訪ねることが難しくなった結果、やむを得ず墓じまいを検討するケースもあります。

自然葬は心理的・文化的な壁を超えて拡大するか

花

海洋散骨をはじめとする自然葬には、心理的・文化的な壁もあります。墓石いう物理的な拠り所がなくなることで、「どこに手を合わせればいいかわからない」という遺族の喪失感につながるおそれがあるほか、故人が海洋散骨を希望していたとしても、家族や親族全員が納得しているとは限りません。

「先祖の墓に入れるべき」という考えを持つ親族との間で、意見の衝突が生じる場合もあります。事前に家族間で十分な話し合いをしておくことが重要です。

日本の葬送文化において、遺骨を墓に納めることは長く続いてきた慣習です。その骨を海や山へ還すという行為が、一部の人にとって心理的なハードルになることも否定できません。文化的・宗教的な背景を持つ方にとっては、慎重な検討が必要です。

一方で、海洋散骨などの新しい弔いの形は墓石・墓地の購入や維持、檀家としての付き合いや墓守の後継者問題、地方の過疎化などの問題に対して、ひとつの解決策を提示しています。

また、「死後の選択肢を自分で決める」という終活意識の高まりとも符合しており、エンディングノートや遺言の普及を後押しする可能性もあるでしょう。自然葬の今後は、単なる葬送スタイルの流行ではなく、日本社会の構造変化を映す鏡となるかもしれません。

取材協力:
ブルーオーシャンセレモニー(運営会社 株式会社ハウスボートクラブ)2007年の創業から累計7,000件以上の施行実績。東京湾や横浜をはじめ、北海道から沖縄まで全国の海域に対応しており、自社クルーザーを用いた安心・安全なセレモニーを展開。

岩田いく実ライター・インタビュアー

投稿者プロフィール

法テラス、法律事務所勤務後、法人事業としてライター業を展開。年間60人を超える弁護士・税理士を取材。2冊出版中:第一法規「弁護士のメンタルヘルスケアの心得」、自主出版「ルポ豊田商事」

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