
骨や筋肉にできる悪性腫瘍に対し、青色発光ダイオード(LED)の光を患部に当てるだけで治療を目指す革新的な手法の開発を、徳島大学大学院整形外科の西庄俊彦准教授らの研究チームが進めています。
従来、骨や筋肉にできる悪性腫瘍(骨腫瘍・軟部肉腫)の治療では、手術による切除が原則とされており、腫瘍を健常な組織ごと一括して切除する「広範切除」が主流でした。以前は脚や腕ごと切断する治療が多く行われていましたが、現在でも患肢温存手術と組み合わせた大規模な外科的処置を要するケースが少なくありません。新手法が実用化されれば、手足の切断を回避しながら運動機能を保つことが期待できるとして、医療界から注目を集めています。
研究チームによると、骨腫瘍や軟部肉腫は1年間で10万人当たり3〜4人が発症するまれながんの一種です。患者数が少なく、腫瘍が発生する部位も多様なため、これまで治療法の開発が十分に進んでこなかったという背景があります。こうした希少がんの治療選択肢を広げようと、西庄准教授は2019年から青色LEDの医療応用に着手しました。
研究チームはこれまで、軟部肉腫の一種である「滑膜肉腫」のがん細胞株を培養したシャーレに対し、青色・赤色・緑色のLED光をそれぞれ72時間照射する比較実験を実施しました。その結果、青色光を照射した場合のみ、がん細胞の7〜8割が死滅することが確認されました。さらに「脂肪肉腫」「粘液線維肉腫」「未分化多形肉腫」「骨肉腫」といった別の4種類のがん細胞でも同様の増殖抑制効果が認められており、いずれも正常細胞への悪影響は見られなかったとしています。
青色LEDが特に有効とされる理由は、その光の特性にあります。波長が短い青色光を照射すると活性酸素が発生しやすく、細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアが機能不全に陥ることで、がん細胞の増殖が抑制されると考えられています。青色LEDは薬剤とは異なる作用機序を持つため、既存の手術や薬物療法と組み合わせることで治療の選択肢をさらに広げられる可能性もあると、西庄准教授は指摘しています。
研究チームでは今後、カテーテルや内視鏡と組み合わせて体の奥深くにある腫瘍に直接光を届ける医療機器の開発や、体内にLEDを埋め込んで照射する方法なども検討しており、マウスを用いた動物実験で効果の再現性と安全性の検証を進めていく計画です。チームは「患者の動ける未来のために実用化したい」と意気込んでおり、国内外の学会発表や論文投稿を通じてデータを積み重ね、臨床応用への道筋を慎重に探っていく方針です。
がん治療に広がるLED研究 切除不要な低侵襲治療の実現へ
LEDを用いたがん治療は骨・軟部腫瘍に限らず、幅広いがん種で研究が進んでいます。例えば大腸がん細胞に対しては、青色LEDが光受容体「opsin3(Opn3)」を介してオートファジーを誘導し、増殖を抑える効果が報告されており、さらに腫瘍微小環境に対しても抑制的に働きうることが示唆されています。このように青色LEDは、がん細胞そのものへの直接効果だけでなく、腫瘍の増殖を支える周辺組織にも多角的に作用する可能性を持つとされています。
徳島大学では、こうした先行研究の知見を踏まえ、転移性骨腫瘍への応用を視野に入れた基礎研究も並行して進めており、文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)による支援も受けています。クラウドファンディングでも研究への支援を広く呼びかけており、目標額500万円に対して支援が集まるなど、社会的な関心の高さも示されています。西庄准教授らの取り組みは、切除を必要としない低侵襲ながん治療の新たな選択肢として、今後の実用化が期待されています。






下方修正-e1780954715175-150x112.jpg)





-300x169.jpg)