
無性に肉や高タンパクな食品を食べたくなる現象の背景には、体内の「第2の脳」とも呼ばれる腸が脳へ送る「栄養不足シグナル」が深く関係していることが明らかになりました。韓国の基礎科学研究院(IBS)マイクロバイオーム・体・脳生理学研究団のソ・ソンベ団長らの研究チームが、ソウル大学校や梨花女子大学校、韓国科学技術院(KAIST)との共同研究でこうした仕組みを解明し、研究成果は2026年5月22日付の国際的な権威ある学術誌「サイエンス」に掲載されました。
研究チームが解明したのは、体内のタンパク質不足時に腸が脳へ信号を送り、炭水化物ではなく必須アミノ酸を優先的に摂取するよう食行動を調整する仕組みです。研究によると、この精密な「腸脳軸」は、「速い神経経路」と「遅いホルモン経路」の二重システムで働くことがわかりました。まず、タンパク質が不足すると、腸の上皮細胞がこれを即座に感知し、神経伝達物質であるアセチルコリンを利用した神経経路を通じて脳内の特定のニューロンへ即座に緊急信号を送ります。これにより、生体は欠乏の初期段階から必須アミノ酸を含む食べ物を強く求めるようになります。
さらに、腸から分泌される「CNMa」と呼ばれるペプチドホルモンが血液循環を通じて遅れて脳に届き、タンパク質を好む行動を長時間維持する役割を果たすことも確認されました。研究チームはショウジョウバエを用いた実験において、このCNMa信号が必須アミノ酸摂取を促す一方で、炭水化物の摂取を促す神経活動を強力に抑えることを確認しています。特定のニューロンの働きを抑制すると、必須アミノ酸を選ぶ行動も消失したということです。また、マウスを用いた動物実験においても、アセチルコリンを介した「速い神経経路」によって腸から脳へ直接シグナルが伝わる同様のメカニズムが確認されました。従来、タンパク質欠乏反応の中心と考えられてきた肝臓由来のホルモンである「FGF21」が存在しない状態でも同様の反応が維持されたことから、腸から脳への経路が他の臓器から独立して直接機能する可能性が示されています。
これらの知見は、生物が環境中の急激な栄養変動に対して迅速に適応する上で、食物が直接流入する最前線である腸が一次的なセンサーとして機能していることを明確に証明するものです。
肥満治療や代謝疾患の新たなアプローチに期待
今回の画期的な研究成果は、「なぜ特定の食品を欲するのか」という根本的な問いに対する生物学的な回答を提示するだけでなく、次世代の医療に対しても大きな意味を持ちます。研究チームは、このメカニズムが現在世界中で使用されている「GLP-1」系の肥満治療薬の作用経路を深く理解することにもつながる成果だとしています。
基礎科学研究院のソ・ソンベ団長は、「腸と脳が直接連携して栄養素の選択を調整する原理を示した研究であり、肥満や代謝疾患、食行動障害の治療研究に向けた重要な基盤になる」と説明しています。特定の栄養素に対する欲求をコントロールする腸脳軸の働きを応用することで、過剰な炭水化物摂取を抑えつつ必要なタンパク質のみを補給させるような新たな治療薬の開発が期待されます。腸管を直接のターゲットとした新しいアプローチや、個々の栄養状態に合わせた摂食障害の根本的な解決策の確立に、今後ますます注目が集まることになります。

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