
SNS全盛の時代を迎えているが、ひょっとすると今日の我々は人とつながり過ぎているのではないのだろうか。新たな研究ではSNSで人脈作りのパフォーマンスが向上するにつれて、実際のコンテンツへの関与や学習行為が急激に減少することが報告されている。
<目次>
人脈作りに励むと学習意欲が低下

今や社会は、インターネットやSNSなどのデジタル環境を抜きにしては、うまく回らなくなっていると言える。行政や企業のサービスもオンライン化がますます進んでいる。たとえば、自動車免許証の更新でも事前にオンラインで予約し、当日はスマホ画面のQRコードで受付を行う仕組みが導入されている。確定申告をオンラインで完結させる「e-Tax」の利用も、順調に拡大しているようだ。
人的交流においても、SNSなどのソーシャルメディアはもはや欠かせない存在だ。円滑なコミュニケーションに有効活用できる一方で、使い過ぎは依存といったネガティブな影響を招く恐れがある。
新たな研究では、SNSなどのソーシャルメディアを通じて社会的つながりを築くことで、人脈作りの成果が大幅に向上する一方、コンテンツ自体への関心や、そこから得る学びが減少することが示されている。つまり、SNSの利用によって学習意欲が低下しているのである。
英ブリストル大学と、米ニューヨーク州立大学バッファロー校の合同研究チームが、今年4月に学術誌『Journal of Experimental Social Psychology』で発表した研究は、この「コンテンツ学習から人脈作りへの焦点の移行」が、記憶力の良い者ほど顕著であることを報告している。
筆頭著者であるブリストル大学マーケティング講師、エスター・カン氏は次のように解説している。
「LinkedInで誰かをフォローしたり、Facebookグループに参加したり、オンラインコミュニティのメンバーになったりすると、共有されるコンテンツについてより深く学べると考えるかもしれません。しかし私たちの研究によれば、実際にはその逆が起きています。人々は精神的なエネルギーを知識の収集から、個人のつながりや幅広いネットワークの構築など、社会的な状況を把握することへと向けているのです」
認知能力の高い者ほど人脈作りに専心

研究は、18歳から77歳までの約1000人の成人を対象に、5つの実験を通じて実施された。各実験で参加者は、グループへの参加やページのフォロー、他のユーザーとの友人関係の構築など、模擬ソーシャルメディア環境を利用した。その後、コンテンツへの接触状況やその内容に関する記憶と、社会的つながりに関する記憶がそれぞれ評価された。
ある実験では、オンラインコミュニティに加わった参加者は、コンテンツの学習行為が著しく低下することが明らかになった。全体として、「誰が何を知っていたか」に関する記憶の正確性は約40%低下している。逆に、社会的つながりに関する記憶は大幅に向上し、「誰が誰を知っていたか」を報告する際の正確性は約65%も高まっていた。
研究チームはこの現象を「外付けハードドライブ効果」と呼んでいる。脳は、情報がネットワークという“外部記憶装置”にあると認識すると、コンテンツについての知識形成に費やす労力を減少させてしまうのである。
つまり我々の脳は、いつでもアクセスできる情報については学習をやめ、余った認知機能のリソースを人脈作りへと配分している。この傾向は、ワーキングメモリの容量が大きい者ほど顕著になるという。
このことから、記憶力が良い者ほど、ソーシャルメディアでの実際の学びは少なくなる。常に効率重視で動いている脳は、情報そのものよりも、誰がその情報を持っているかを記憶する方が効率的だと認識する。その結果、人脈作りのエキスパートになる一方で、理解を深める学習行為を損なう可能性が高まるのだ。
「ワーキングメモリ容量の高い人は、単に怠惰なのではなく、効率性を発揮しているのです。ネットワークを通じて後で内容を取得できることを認識しているため、内容を即座に吸収するのではなく、誰が誰とつながっているかを理解することに注意を集中させているのです」
SNSの人材マネジメント化

今回の結果は、デジタル環境における隠れたトレードオフを浮き彫りにしている。ソーシャルネットワークは情報へのアクセスを容易にする半面、深い学習や自主的な知識形成を阻害する可能性がある。
つまり、ソーシャルメディアが我々の知性の使い方を変化させ、我々を「知識の貪欲な吸収者」から、「社会的な状況を巧みに操るオペレーター」へと変貌させているのである。人々はSNSでの人とのつながりを、まるで人材マネジメント業務のように扱うようになっているのだ。
本研究の共著者であるバッファロー大学のアルン・ラクシュマナン博士(マーケティング学科准教授)も、「単に接続性やフォロワー数を増やすだけではコンテンツへの関心を高めることはできない」と指摘している。教育者やマーケターなどが有意義な関心を持続させるには、時間制限のあるコンテンツや双方向の知識共有といった、ユーザーの能動的な処理を促す戦略が必要になるという。
その意味では、SnapchatやInstagramの「ストーリーズ」など、一定の条件で投稿が消える機能を持ったSNSのほうが、皮肉にもコンテンツ自体を重視できることになる。SNSでの人脈構築に頼り過ぎることには、思わぬ落とし穴も待ち構えている。アルゴリズムの働きなどにより、意見や属性が似た人とばかり繋がり、特定の意見が増幅・強化される「エコーチェンバー現象」が生じやすい。
さらにSNSのアルゴリズムがユーザーの好む情報だけを優先表示するため、無意識のうちに最適化された狭い情報空間に閉じ込められる「フィルターバブル」という現象も問題視されている。革新的なイノベーションや新しいアイデアは、異なる背景や専門性を持つ「弱いつながり」から生まれることが多い。偏った人脈ばかりでは、思わぬ機会損失を招きかねない。
アルゴリズムに最適化され過ぎないよう、時にはアカウントを切り替えたり、シークレットモードを利用して“透明人間”になってみることも、SNS全盛の現代においては必要である。
そもそも、つながりを維持すべき意味のある人間関係の数には、明確な限度がある。
公私にわたって今や利用が不可欠となっているソーシャルメディアだが、人脈作りに有効活用できる一方、SNSを偏重し過ぎて現実を見誤らないようにしたいものである。
※研究論文
Tracking connections, not content: How working memory shapes content and social learning in online networks
※プレスリリース
Sharper brains switch to a ‘not what you know, but who you know’ mindset online and on social media, study shows









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