
信越化学工業が福井県にレアアース(希土類)の新たな製錬設備を建設し、国内供給力を大幅に引き上げる方針を打ち出しました。 投資額は少なくとも350億円規模で、このうち約175億円を政府の補助金で賄う見通しです。 新設備は既存の福井県越前市の製錬・磁石工場に続く拠点となり、同社としてはレアアース工場の新設は約18年ぶりとなります。 電気自動車(EV)モーター向けのネオジム磁石に欠かせないジスプロシウムやテルビウム、半導体製造装置に使うイットリウムなど、重希土類を含む高付加価値分野での供給力強化が見込まれます。
レアアースはEVや風力発電、スマートフォン、半導体製造装置など、脱炭素やデジタル化を支える先端産業に不可欠な素材です。 一方で、鉱石の採掘から製錬までのバリューチェーンは中国が圧倒的な優位を保っており、世界シェアの9割前後を握る製錬工程への依存が各国にとって地政学的リスクとなっています。 日本も例外ではなく、現在のレアアース磁石用素材の大半を中国からの輸入に頼っているのが実情です。
こうした中で、中国政府は軍民両用(デュアルユース)を理由とした輸出管理を強化し、ジスプロシウムやテルビウムなど一部重希土類を対象に規制を運用してきました。 統計上は輸出量が増減を繰り返しながらも、日本向けの輸出手続きは厳格化され、通関に時間を要するなど「スピードのコントロール」による実質的な供給制約が指摘されています。 日中関係の緊張もあいまって、レアアースが経済安全保障上の「戦略物資」として再び注目を集めるなか、日本企業は調達先の多様化やリサイクル強化、代替技術開発に動いています。
政府はこうした企業の動きを後押しするため、レアアース製錬設備への投資に対し最大で費用の半額を補助する支援策を講じており、南鳥島沖の深海レアアース泥の開発など国産資源の活用も進めています。 今回の信越化学への補助金も、レアアースの供給網を国内で完結させるという長期戦略の一環と位置づけられます。 市場では、同社の新工場計画が報じられたことで、レアアース関連事業を手がける企業の株価にも物色の動きが出ています。
脱中国サプライチェーンへ官民の動きが加速
レアアースの製錬は強酸性廃液や重金属を含む廃棄物を伴うため、厳格な環境対策が求められ、コスト負担の大きさが各国企業の参入障壁となってきました。 日本でもかつては複数企業が製錬に取り組んでいましたが、1990年代以降、中国勢が低コストで市場を席巻する中で採算が悪化し、多くが事業撤退を余儀なくされました。 その結果、世界市場の製錬工程は中国がほぼ独占する構図が定着し、日本の対中依存度は高止まりしてきました。
しかし、経済安全保障の観点から主要7カ国(G7)でも重要鉱物の供給網強靱化が主要議題となり、日本政府も「多少割高でも国産や同盟国由来のレアアースを確保する」という発想へと舵を切りつつあります。 住友金属鉱山や総合商社などは、東南アジアや豪州など中国以外の産地と組んだプロジェクトに参画し、精錬・分離工程も含めたサプライチェーン構築を模索しています。 一方で、リサイクルや使用量削減技術の開発も進み、家電メーカーがエアコンなどから回収したレアアースを再利用して新規調達量を抑える取り組みも報じられています。
もっとも、巨大な一貫生産体制を持つ中国とのコスト差を完全に埋めるのは難しく、日本国内でのレアアース事業の定着には、中長期の政策支援と安定需要の確保が不可欠です。 G7では、安価な中国産に対抗するため最低価格制度の是非など、ルール形成をめぐる議論も始まっています。 信越化学の福井新工場は、官民が連携して「脱中国」の供給網をどこまで具体化できるかを占う試金石となりそうです。












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