世界の原油供給網に亀裂、在庫枯渇で価格急騰の懸念高まる

石油タンクとタンカー

世界の石油市場において、供給逼迫の影響が上流の原油から下流の製品にまで急速に波及しています。最新のデータによると、米国のガソリン在庫は記録的なペースで減少していますが、その主な原因は米国内の需要増ではなく、国際市場の供給不足を補うための輸出急増にあります。

米国がイランへの攻撃を開始してから4カ月目に突入し、世界の原油在庫が急減しています。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、これまでは在庫の取り崩しによって価格上昇が抑えられてきました。しかし、国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、世界の石油在庫は3月と4月の2カ月間で計2億4600万バレルも減少しており、記録的なペースでの取り崩しが続いています。4月末時点の世界在庫は約79億バレルありますが、供給の約2割は封鎖の影響下にあり見た目ほどの余裕はありません。さらに、パイプライン等のインフラ運用に必要な固定在庫を除き、現実的に需給調整に利用できる在庫は米銀の試算で8億バレル程度にとどまっています。

また、世界最大の産油国である米国からの輸出がアジアや欧州向けに急増しており、米国内の在庫も急速に消失しています。米国の製油所は高い稼働率を維持しているにもかかわらず、国内のガソリン在庫は減少し続けており、これは他地域の供給不足を補うための輸出急増という構造的な要因によるものです。米エネルギー情報局(EIA)の統計では、5月29日までの1週間における戦略石油備蓄(SPR)を含む原油在庫は7億9083万バレルとなり、約2年4カ月ぶりの低水準を記録しました。世界経済を支えてきたエネルギー供給網のバッファーは、事実上の限界を迎えつつあります。

米国のガソリン需要は前年並みですが、システムが世界市場と統合されているため、石油製品は高値の海外へ流出しています。ディーゼル在庫の減少も、今後の物流コスト上昇やインフレ再燃を招く警戒すべき兆候です。業界の危機感は強く、米石油大手エクソンモービルの幹部は5月末に、在庫が限界に達すれば価格が急騰し1バレル=160ドルに達する可能性があると警鐘を鳴らしました。米シェブロンの最高経営責任者も、在庫の余力が消えつつあり、今後数週間で圧力が価格に波及するとの見通しを示しています。

ファンダメンタルズから乖離する市場と今後の見通し

このように物理的な在庫が枯渇の危機に瀕しているにもかかわらず、足元の国際原油価格は極端な急騰相場には至っていません。この異常な安定の背景には、実際の需給データではなく、市場心理と予想による駆け引きが主導する価格形成ロジックがあります。米国とイランの停戦に対する早期沈静化への過度な期待が市場のパニックを抑制していますが、現実には妥協の証拠はなく、中東の地政学的なリスクは極めて高いままです。

さらに、主要消費国の実需要に関する不透明なデータが、市場の不確実性を増幅させています。真の需給ファンダメンタルズを正確に把握することが困難な中で、市場は完全に主観的な予測に依存しています。仮に今後数週間でホルムズ海峡の封鎖問題が解決の糸口を見せたとしても、紛争再燃への懸念から海上保険機関やタンカー運航会社が慎重な姿勢を崩さず、サプライチェーンが瞬時に修復されることは困難です。今後、世界の在庫取り崩しが限界を迎え、市場の楽観的な予想が反転した際、蓄積された供給ショックに対する脆弱性が一気に露呈し、突発的かつ急激な原油価格の暴騰を引き起こすリスクが極めて高まっています。

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