
食道がんの治療に、遺伝子改変したウイルスでがん細胞を攻撃する医薬品が2026年6月8日に承認されました。岡山大学発のバイオベンチャー・オンコリスバイオファーマが開発した腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン注(一般名:スラタデノツレブ)」で、同社は薬価収載を経て12月期中の販売開始を目指しています。販売は富士フイルム富山化学が担う予定です。
テロメライシンは、風邪の原因となるアデノウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞の中でのみ増殖して細胞を破壊する仕組みの薬です。正常細胞には増殖しないよう設計されており、安全性が保たれています。対象となるのは、化学放射線療法や根治手術の適応とならない食道がん患者です。既存治療では選択肢が限られた層に、新たな治療オプションを提供する薬剤となっています。
厚生労働省の薬事審議会・再生医療等製品・生物由来技術部会は5月21日、「根治切除および化学放射線療法の適応とならない食道がん」を対象とする腫瘍溶解ウイルス製剤として承認してよいとの意見を取りまとめました。
再生医療等製品としては、通常承認が認められた異例のケースです。承認の根拠となったのは、国内17施設で実施された第II相OBP101JP試験。放射線療法との併用により、登録37例の18ヶ月時点における局所完全奏効率は50.0%でした。
開発の中心を担ったのは、岡山大学医歯薬学域の藤原俊義教授らの研究グループです。国内では2021年に脳腫瘍(悪性神経膠腫)対象の「デリタクト」が腫瘍溶解ウイルス製剤として先行承認されています。テロメライシンはこれに続く2例目であり、食道がんにおける腫瘍溶解ウイルス製剤としては世界初の承認です。
患者の負担軽減と今後の課題「手術に代わる選択肢」への期待
食道がんは、心臓や肺など重要な臓器が密集した部位に発生するため、手術の難易度が高く、患者への身体的・社会的負荷が大きいとされてきました。テロメライシンは放射線療法との併用でがんを局所的に攻撃するアプローチであり、開発企業は「手術を行わずにがんを制御し、仕事や日常生活を続けながら治療できる社会の実現に貢献したい」と述べています。
一方、並行して国内では異なるアプローチの治療法も成果を挙げています。京都大学などが実施した医師主導治験(NOBEL試験)では、化学放射線療法に免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)を上乗せした結果、41人中30人(73%)でがんが完全に消えたと2026年1月に報告されました。
今後は、テロメライシンと既存の免疫療法や化学放射線療法との組み合わせ戦略の設計、適正使用のガイドライン整備、費用対効果の評価など、実臨床での普及に向けた取り組みが課題となります。テロメライシンの承認は、岡山大学発の研究開発が実用化という形で結実した事例です。今後のウイルス療法の発展に向けた重要な一歩として、医療現場からの期待が高まっています。



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