
創薬の新興企業である「サンバイオ」(東京)は6月10日、外傷による脳損傷を治療する新たな再生医療製品「アクーゴ」の患者への投与を今秋にも開始すると発表しました。本製品は、健康な人の骨髄液から採取した細胞を特殊な手法で加工・培養して作られたものです。損傷した脳に直接注入することで細胞からタンパク質が放出され、それが患者自身の持つ神経細胞の修復・再生能力を強力に促すメカニズムを持っています。同社によりますと、失われた脳機能を再生させる医薬品としては世界で初めての実用化となります。
厚生労働省は2024年7月に本製品(一般名:バンデフィテムセル)を条件・期限付きで早期承認していましたが、品質の同等性を確認するための追加製造データが評価され、出荷制限が解除されるに至りました。その結果、今年5月には公的医療保険の対象とすることが決まり、患者1人当たり1回分の薬価(公定価格)は7271万円に設定されました。日本経済新聞電子版などの報道によれば、開発元であるサンバイオ株式会社は5月21日に販売開始を発表しており、実際の初出荷は8月から27年1月を見込んでいます。
本製品の治療は点滴ではなく、頭蓋骨に小さな穴を開けて細胞を特定の部位へ正確に移植する高度な手術を伴います。そのため、初期の実施は治験に参加した大学病院など、専門的な知識と経験を持つ医療施設に限られます。1例目の投与は年後半を予定しており、医療現場での使用は、公的医療保険の対象となってからは初めてのことです。これにより、受傷から長期間が経過して慢性期の運動麻痺が固定し、これまではリハビリテーションしか選択肢のなかった患者にとって、機能を劇的に改善させる新たな希望となります。非常に高額な医薬品ではありますが、健康保険や高額療養費制度などの適用により、患者が窓口で支払う自己負担額は一般的な治療の枠組みに沿った一定の上限内に抑えられる見通しです。
治療を諦めていた患者を救う第一歩、適応拡大も見据えた展望
東京都中央区日本橋で開かれた記者会見において、サンバイオの森敬太社長は、「公的医療保険の対象となり、患者の負担を減らすことができてよかった。治療を諦めていた多くの患者を救いたい」と語りました。同社は今後、初期段階では限られた大学病院から投与を始め、段階的に20~30の医療機関へと実施施設を拡大していく方針です。
現在の製造販売承認は「条件及び期限付き」という特例的な枠組みであるため、同社は2031年までの7年間に、実際の全投与症例を通じた市販後調査を行い、安全性と有効性に関する十分なデータを収集した上で、改めて本承認の申請を行う義務があります。今秋に予定されている初回投与は、その長期的な本承認に向けた極めて重要な第一歩となります。
さらに同社は、今回の外傷性脳損傷への適用を皮切りとして、将来的には患者数が桁違いに多い脳梗塞や高次機能障害などへの適応拡大を進め、同時に米国をはじめとするグローバル市場への展開も推進する構えです。世界に先駆けて日本で実用化の扉を開いたこの画期的な再生医療技術が、今後どのように普及し、重篤な後遺症に悩む人々の生活の質を向上させていくのか、医療界全体から大きな期待と注目が寄せられています。












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