
中国が希少金属タングステンの対日輸出を事実上停止したことで、日本の半導体製造に不可欠なガス、六フッ化タングステン(WF6)の安定供給に不透明感が強まっています。 日本企業は米国などからの代替調達やリサイクル強化に動いていますが、供給網の再構築には時間を要する見通しです。
中国税関総署のデータによると、炭化タングステンとタングステン粉末の日本向け輸出は、2026年2〜4月に「ゼロ」まで落ち込みました。 タングステンは自動車部品や工作機械向け工具だけでなく、半導体材料ガスの原料としても重要な位置を占めており、中国が最大の生産国です。 日中関係の悪化を背景に輸出規制が強化され、サプライチェーン全体に影響が及んでいます。
日本企業の間では、中国依存からの脱却に向けた動きが加速しています。住友電気工業は、中国からのタングステン調達を5月に「完全に停止」したと明らかにし、米国からの代替調達やリサイクルによって、国内需要をおおむね確保できるとの見通しを示しました。 また、タングステン工具メーカーなどは、米欧産の廃タングステンを回収して再資源化する取り組みを拡大しており、日本向けの米国発再生材輸出は今年1〜3月期に24倍に増えたともいわれます。
一方で、通関停止や調達難に直面する企業も出ています。切削工具向けにタングステンパウダーを使用するメーカーは、2026年初め以降の輸入が滞り、代替調達でも必要量を確保しきれていないとしています。 工具の生産停滞が長期化すれば、自動車や機械など幅広い産業にコスト増や納期遅延が波及する恐れがあります。
タングステンは、ガリウムなどと並ぶ「ハイテク鉱物」として半導体産業でも重要性が高まってきました。 経済産業省の資料でも、中国が2025年2月にタングステンなどを輸出管理対象に追加したことが指摘されており、日本は鉱山投資や調達先多角化を通じてリスク分散を進めています。 しかし、高純度原料の確保と半導体ガスとしての品質認証には時間がかかるため、短期的には供給不安と価格高騰が続くとの見方が多いです。
半導体業界への影響と素材転換の行方
WF6は、先端半導体のビア埋め込みなどで利用されるタングステン配線の原料ガスであり、3D NANDフラッシュメモリや高帯域幅メモリ(HBM)などの製造に欠かせない材料とされています。 こうした用途向けのガスは高い純度と安定供給が求められるため、原料タングステンの調達制約は、国内外の半導体メーカーにとって大きなリスク要因となります。
日本企業が供給するWF6は、海外大手半導体メーカーにも出荷されてきたとされ、在庫で当面対応しつつも、中長期の原料確保は見通せない状況です。 需要面では、AI向け半導体などでメモリ需要が拡大しており、材料供給が追いつかなければ、メモリ価格の上昇圧力が強まる可能性があります。
こうしたなか、タングステン依存を減らすための素材転換も進みつつあります。国内外の動向として、タングステンを使わない特殊合金や、セラミックスなど代替素材の研究・実用化が模索されており、モリブデンなど別の金属を採用する動きもあります。 ただし、新素材の量産適用には工程見直しや信頼性評価が必要で、短期間でタングステンを完全に代替することは難しいとみられます。
タングステンを巡る緊張は、レアメタルを外交・安全保障のカードとする中国の姿勢を改めて浮き彫りにしました。 日本は米欧など「同志国」との連携のもとで、重要鉱物サプライチェーンの強靱化に取り組んでおり、今後はリサイクル技術の高度化と長期契約による安定調達が一段と重要になりそうです。 半導体産業の成長を持続させるには、素材レベルからのリスク分散戦略をどう構築するかが問われているといえます。












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