
高齢者らを狙った特殊詐欺の被害者4人が、指定暴力団・六代目山口組の篠田建市組長(通称・司忍)らを相手取り、約6200万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしました。 6月12日に開かれた第1回口頭弁論で、被告側は請求棄却を求め、争う姿勢を示しています。 原告は、大阪府内などに住む高齢者ら4人で、令和4年(2022年)10〜12月に役所職員や事業者を名乗る人物から「還付金がある」「未払い料金がある」などと電話で持ちかけられ、合計約4300万円を振り込んだとされています。
警察は、詐欺グループの全容解明には至らなかったものの、グループにIP電話回線を提供していた電気通信事業者を特定し、その実質的経営者とされた山口組中核組織「弘道会」の下部組織幹部・木村尚俊受刑者を逮捕しました。 木村受刑者は詐欺幇助などの罪で起訴され、2023年12月、大阪地裁で懲役2年6月の実刑判決が確定しています。
被害者側は、通常の民事訴訟では詐欺グループの末端メンバーにしか請求できず、実際の被害回復が困難だと指摘したうえで、暴力団対策法31条の2が定める「組長責任」に基づき、トップらにまで賠償責任を問うべきだと主張しています。 この規定は、指定暴力団の代表者が、組員の「威力利用資金獲得行為」によって他人の生命・身体・財産が侵害された場合、損害賠償責任を負うと定めるものです。 原告側は、IP電話回線の提供行為が、暴力団の影響力を背景に資金を得るための行為に当たると位置づけ、篠田組長と弘道会の竹内照明会長(当時)にも法的責任が及ぶと訴えています。
特殊詐欺をめぐる「組長訴訟」は近年全国で提起が相次いでおり、山口組トップの責任を認める司法判断も出ています。2023年12月、東京地裁は山口組系組員らによる特殊詐欺事件で、被害者3人が求めた約2660万円の賠償請求をほぼ認め、篠田組長に支払いを命じました。 暴力団対策法31条の2を特殊詐欺に適用して山口組トップに賠償を命じた判決は、これが初めてとされています。 今回の大阪地裁での訴訟も、暴力団トップの法的責任の範囲を巡る重要な先例となる可能性があります。
「組長訴訟」が広がる背景と今後の焦点
暴力団トップの賠償責任を問う「組長訴訟」は、被害回復の新たな手段として注目を集めています。 福岡地裁では2025年、山口組傘下組織の組員らによる特殊詐欺事件の被害者5人が、篠田組長ら4人に約2250万円の損害賠償を求めて提訴しており、警察や自治体が被害者の訴訟を支援する制度も活用されています。 こうした動きの背景には、口座名義人や「受け子」など末端関係者のみが摘発され、実質的な指示役や暴力団側に十分な民事責任を問えないという、特殊詐欺特有の構造的な問題があります。
一方で、暴力団対策法31条の2の適用範囲を巡っては、過去の裁判例でも解釈が分かれてきました。 「威力利用資金獲得行為」に該当するかどうかや、組長が実際にどの程度利益を得ていたかといった点が争点になりやすく、事件ごとに細かな事実認定が求められます。 2023年の東京地裁判決は、特殊詐欺についても暴力団の資金獲得活動として組長責任を認め得ることを示した点で、被害者側にとって追い風と受け止められています。
今回の大阪地裁の訴訟では、IP電話回線の提供という一見間接的な関与が、どこまで暴力団としての「威力」を背景にした資金獲得行為と評価されるのかが焦点となります。 判決次第では、通信インフラや名義貸しなど、暴力団が関与する周辺ビジネスに対する責任追及の幅が広がる可能性があります。 一連の「組長訴訟」に対する司法判断の積み重ねは、特殊詐欺対策の実効性や、被害者救済制度のあり方を見直す契機にもなりそうです。












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