
公立大学法人九州歯科大学(キャンパス:福岡県北九州市、学長:粟野秀慈)の生化学分野、古株彰一郎教授らの研究グループは、毛を剃ったマウスの背中にピロキシリンなどの接着性材料を1滴塗布するだけで、明瞭な発毛が誘導されることを発見しました。本研究結果は、5月11日付でSpringer Nature社が発行する国際学術誌「Scientific Reports」に掲載され、大きな注目を集めています。
ピロキシリンとは、ニトロセルロースの一種であり、皮膚表面に薄い膜を形成する性質を持っています。市販されている「コロスキン」などの液体絆創膏にも使用されている非常に身近な成分です。同研究グループによる組織学的解析によると、ピロキシリンを局所塗布することで、皮膚の浅い層に軽度な創傷様変化と炎症細胞の集簇が生じることが確認されました。この局所的な物理的あるいは化学的刺激が引き金となり、休止期(活動を停止している状態)にある毛包が成長期へと移行し、完全な毛包構造の形成が促されるという画期的な仕組みです。
本研究の主要な成果として、ピロキシリンなどの接着性材料を局所塗布することにより、塗布部位に一致して発毛が誘導されることや、休止期にある毛包が刺激を受けて毛を成長させる成長期へと効率的に移行する「毛周期のスイッチング」が明確に示されています。この発毛誘導現象は特定の条件下のみならず、複数のマウス系統や背部以外の皮膚、さらには高齢マウスにおいても同様に観察されました。加えて、1匹のマウスで20箇所以上の発毛誘導部位を同時に評価できる高い汎用性と効率性を備えており、実験動物の数を大幅に削減しつつ、毛髪再生研究の効率を飛躍的に向上させることが可能となります。
なお、本研究は広島大学、四川大学、東京科学大学、熊本大学との大規模な国際共同研究として進められ、多角的な視点からそのメカニズムの検証が行われました。
今後の展望と新たな毛包再生医療への応用に向けた期待
薄毛や脱毛に対する社会的関心は極めて高く、世界中で毛髪再生に関する研究開発が進められています。しかし、毛髪の成長を制御する仕組みは非常に複雑であり、休止期の毛包を成長期へと確実に移行させる根本的な治療法はいまだ確立されていません。今回の「塗布するだけで局所的に発毛を誘導する」という画期的な発見は、全く別の実験を行っている最中に偶然見出されたセレンディピティ(幸運な偶然)によるものであり、研究界隈にも大きな驚きをもたらしました。
研究グループは今後、この発毛誘導がどのような細胞応答や分子メカニズムによって起こるのかをさらに詳細に解明していく方針です。特に、皮膚表層の物理的・化学的刺激がどのようにして毛包幹細胞へと伝達され、発毛のスイッチを入れるのかを解析する予定としています。
ネット上や大手メディアでは、「液体絆創膏にそんな効果があるとは驚き」「怪我はなくても毛が生えた」など、身近な成分がもたらした予想外の効果に対して期待を寄せる声が既に多く上がっています。将来的には、本手法を応用して新たな発毛促進物質のハイスループットな探索や薬剤評価を行うとともに、脱毛症に悩む人々に対する根本的な毛包再生医療への展開が強く期待されています。












-300x169.jpg)