
国内企業による低軌道衛星通信網の構築に向けて、政府が楽天グループに最大約1500億円の補助を行う方針を固めたことが分かりました。米スペースXの「スターリンク」に依存する現在の通信インフラから脱却し、経済安全保障の観点で自律的な衛星通信網の整備を後押しする狙いです。
補助は総務省が進める低軌道衛星インフラ整備事業「J-LEO(自律性確保に向けた低軌道衛星通信インフラ整備事業)」の一環で、2025年度補正予算に計上された約1500億円の枠を活用します。人工衛星の調達、打ち上げ、地上設備の整備という三つの費用項目について、事業費の最大2分の1を補助する仕組みで、3年間で計1500億円規模の支援が予定されています。
低軌道衛星通信は、高度約350〜1400キロの軌道を周回する人工衛星を利用し、携帯電話の基地局が整備されていない山間部や海上、災害時の被災地などでも通信を可能にする技術です。従来の静止衛星より高度が低いことで遅延が少なく、スマートフォンと衛星を直接つなぐ「ダイレクト・トゥ・セル(DTC)」型サービスの基盤になるとされています。
現在、日本の低軌道衛星通信市場では、米スペースXの「スターリンク」が圧倒的なシェアを持ち、KDDIやNTTドコモ、ソフトバンクの大手3社が法人・自治体向けなどにスターリンクを活用したサービスを展開しています。こうした海外プラットフォームへの依存は、災害時や有事における通信の安定性・継続性の面でリスクになりうるとの懸念があり、政府は「日本版スターリンク」とも呼ばれる国産主導の衛星通信網育成を急ぐ構えです。
総務省は既にJ-LEOの公募を実施し、コンソーシアム形式での応募を認めたうえで、6月末ごろに1件の事業者を採択する予定としていました。楽天グループは出資先である米ASTスペースモバイルと連携し、新会社を設立して複数の低軌道衛星を用いた独自の衛星通信網を構築する計画で、政府支援の条件として、自ら衛星の保有・管制を行うことや、2028年度までに一般利用者向けのサービス提供を実現することなどが求められる見通しです。
低軌道衛星通信の実用化と楽天の課題
楽天・AST連合が担うJ-LEO事業では、複数の低軌道衛星を連携させる「衛星コンステレーション」を構築し、日常的なモバイル通信を補完するインフラとして本格的な運用体制を整えることが不可欠です。災害時も含めて日本全国で1日16時間以上、スマートフォンと衛星を直接つなぐDTCサービスを提供できることが求められ、衛星管制を日本国内から実施する体制の構築も条件とされています。
補助率は事業総額の2分の1が上限とされており、楽天側には1500億円に匹敵する自己負担も求められるため、財務面での負担は小さくありません。一方で、山間部や離島、海上など既存の基地局整備が難しい地域における通信確保や、災害・停電時のバックアップ回線としての活用など、新たな収益機会も見込まれます。
既にスターリンクを活用する大手3キャリアは、建設現場やインフラ監視、BCP対策向けなどで衛星通信サービスを広げており、KDDIは閉域網とスターリンクを直接接続する法人向けサービスも開始するなど、応用領域の拡大が進んでいます。こうした先行勢と競合しながら、楽天・AST連合がどこまでサービス品質と価格面で差別化を図れるか、そして政府支援をテコに国産主導のインフラとして信頼を確立できるかが、今後の焦点となります。
J-LEOの採択と正式な支援決定は、国内の衛星通信市場の構図を変える可能性を持つと同時に、インターネット接続の「最後の一マイル」を衛星で補完する新たな通信政策の試金石にもなりそうです。
政府・企業・地方自治体が連携し、衛星通信を前提とした防災やインフラ設計を進められるかどうかが、「日本版スターリンク」構想の実効性を左右することになります。












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