
小惑星探査機「はやぶさ2」が5日に実施した小惑星「トリフネ」フライバイは、サンプルリターン後の“延長戦”にとどまらず、地球への小惑星衝突リスクを低減する「プラネタリーディフェンス(地球防衛)」技術の実証として注目されています。 数百メートル級の小惑星でも都市壊滅規模の被害をもたらし得る中、接近観測と精密な軌道制御を組み合わせた今回の挑戦は、将来の軌道変更ミッションにつながる一歩と位置付けられています。
「はやぶさ2」は本来、小惑星「リュウグウ」に滞在して観測を行うランデブー型探査機として設計されており、高速でかすめ飛ぶフライバイ運用は想定されていませんでした。 そこでJAXAの運用チームは、新たにフライバイ運用用のソフトウエアを開発し、シミュレーションを重ねることで、最接近距離を小惑星中心から800メートルに設定し、その誘導誤差を数百メートル規模に抑え込む高精度誘導を目指しました。 実現すれば、直径数百メートル級の天体表面から「すれすれ」の距離で通過しながら詳細観測を行うことになり、将来、小惑星に故意に衝突させて軌道を変える「運動エネルギー衝突法」などに必要な誘導精度の検証にも資する成果となります。
地球付近を通過する「地球接近小惑星」は年々増加しており、現時点で数万個規模が確認されているとされています。 直径10キロ級の天体はすでに全て発見されたとみられる一方で、数百メートル級の小惑星は依然として未発見が多く、地球防衛の観点からは、早期発見と軌道の高精度把握、さらに「いざ」というときに軌道をわずかに変える手段の確立が課題になっています。 今回のトリフネ観測で得られるデータは、小惑星の形状や自転、表面性状の理解を深めるだけでなく、探査機が自律的に姿勢や軌道を制御しつつ高速で接近・離脱する技術の検証という意味でも、次世代の地球防衛ミッションへ橋渡しする位置付けです。
JAXAとESA、アポフィス共同探査で「地球防衛」本格フェーズへ
JAXAは2024年4月、地球接近小惑星の観測や衝突回避策の検討を担う「プラネタリーディフェンスチーム」を設置し、約30人規模の専門チームとして体制を整えました。 このチームは小惑星探査や軌道計算の研究者らで構成され、観測による早期発見と、国内外機関との連携強化の両面で活動を進めています。 その象徴となるのが、欧州宇宙機関(ESA)との協力による小惑星「アポフィス」探査計画です。
アポフィスは直径約375メートルとされる地球接近小惑星で、2029年4月13日に地球から約3万2000キロメートル未満まで接近し、静止衛星軌道より内側を通過すると見込まれています。 JAXAとESAは2026年5月、地球防衛分野での協力覚書とアポフィス探査計画「RAMSES(ラムセス)」に関する協定に署名し、日本の基幹ロケット「H3」でESAの「ラムセス」とJAXAの深宇宙探査技術実証機「DESTINY+(デスティニープラス)」を相乗り打ち上げすることで合意しました。 DESTINY+はアポフィスをフライバイ観測し、その後に到着してランデブー観測を行うラムセスに先行データを提供する“偵察役”と位置付けられています。
アポフィスのように地球至近を通過する天体は、重力の影響で軌道がわずかに変化する可能性があり、その変化を高精度に捉えることは、将来の衝突リスク評価や軌道変更シナリオの検討に直結します。 この共同ミッションは、日欧が連携して小惑星の軌道変化を長期かつ詳細に追跡することで、地球防衛技術の確立に必要な科学・技術データを獲得することを狙っています。 JAXAは薄膜軽量太陽電池パドルや熱赤外センサーなどの主要機器提供に加え、H3ロケットによる打ち上げを通じてミッションに深く関与し、日本発の小惑星探査技術を国際的な地球防衛の枠組みに組み込んでいく考えです。
こうした取り組みを踏まえ、JAXA関係者は「天体衝突は発見さえ早ければ、いつどこに落ちるかを予測し、回避の手段を講じうる“防ぎ得る自然災害”になり得る」と強調しており、トリフネ、アポフィスと続く連鎖的なミッションが、国際社会による地球防衛の実務的な土台を形作ることが期待されています。












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