「かわいい子には旅をさせよ」は本当だった?リスキーな遊びの驚くべき効果

「かわいい子には旅をさせよ」は本当だった?リスキーな遊びの驚くべき効果

我が子を危険に晒したくないのは親心だが、子どもが遊びの中で身体的リスクに取り組むことで交通状況など現実の危険に対する判断力が向上することが新たな研究で示されている。リスキーな遊びは、問題解決能力やレジリエンスを養い、子どもの健全な発達を促すのだ。

<目次>

リスキーな遊びはリスク管理能力を育む

リスキーな遊びはリスク管理能力を育む

屋外の子どもの動きは予想ができない面がある。急にダッシュをすることもあれば、クルッと方向転換したりするなど路上ではなかなか危険な存在である。学校周辺や住宅街の路地に「子供の飛び出し注意」の看板が多くあるように、実際に不幸な事故に見舞われる可能性は成人よりもかなり高い。

最近、住宅街の路上で、小さな女の子が徐行運転の自動車の前を急に横切り、親に厳しく叱られて泣き出してしまう光景を目撃した。危険な行為に対する注意は必要であるが、子どもの行動特性を考慮すれば、予期せぬ動きをしてしまうのはある程度避けられない側面があると言える。

小学1〜2年生にあたる7歳の子どもは、歩行中の交通事故に遭う件数が全年齢の中で最も多い。この事実は「魔の7歳」とも呼ばれており、特に新学期後の4〜7月に事故が多発することが統計からも明らかになっている。かといって小さい子どもを外に出さないわけにもいかず、公園などの仕切られたエリアで保護者の目の届く状況下で遊ばせることが推奨されるだろう。

親の中には、小さな子どもがゲームやアニメ、読書などを好む「インドア派」になることで、かえって安堵するケースもある。しかし、子どもの心身の発達という観点から見ると、室内での活動に偏った生活環境は疑問視されている。

新たな研究では、遊び場でより大胆な行動をとる子どもほど、交通量の多い道路を横断する際に素早く安全な判断を下していることが報告されている。つまり、リスクを伴う遊びの体験が、現実の危険に対しても迅速かつ賢明に対応できる判断力を養うということである。

カナダのブリティッシュコロンビア大学医学部と、ノルウェーのクイーン・モード大学カレッジの合同研究チームが、今年5月に学術誌「Journal of Environmental Psychology」で発表した研究でも、この傾向が裏付けられている。

同研究は、リスクを伴う遊びの経験が子どものリスク管理能力の発達を促し、健全な成長にとって重要であると示唆した。実際に、リスクを恐れない子どもほど、交通量の多い道路を的確に横断していたという。

スキーやスノードボード、あるいはスケートボードなどを幼少の頃から始める子どもたちがいるが、子どもがリスクを伴う遊びにアクセスできるかどうかは、親の意向や環境などの社会文化的背景によって左右されている。しかし今は仮想現実(VR)技術によって、広範囲の子どもたちが仮想空間で身体的リスクを伴う状況に直面することが可能となった。

状況をいち早く察知して速やかに行動に移す能力

状況をいち早く察知して速やかに行動に移す能力

カナダとノルウェーの7~11歳の子ども424人を対象に、VR(仮想現実)を用いた2つの課題が実施された。子どもたちはVRヘッドセットを装着し、体育館の中を歩き回ってVR空間を体験した。

1つ目の課題は、遊具のある公園を想定したシナリオで、子どもたちは、高さの異なる一本橋などの遊具で遊ぶ。その過程で、彼らのリスクテイキングの意欲(移動速度、高所の探索、危険区域での滞在時間)が評価され、失敗して転倒(実際のダメージはない)した数がカウントされた。

2つ目の課題は、歩行者による道路横断タスクで、子どもたちには、車が行き交う道路において、安全に横断できるタイミングを判断して渡ることが求められた。研究チームは、事前の遊びの中で子どもたちが示したリスクテイキングの意欲を追跡している。そのデータをもとに、よりリスクが高まった状況下で、同じ子どもたちがどのように行動するかを検証した。

子どもたちに対して実際の交通状況下でテストすることはできないが、現実さながらのVRの街路を用意することで、研究チームは安全な環境で実際の行動データを収集することに成功した。なお、テストに参加した子どもたちの85%が、VR環境を「リアルに感じた」と回答している。

収集したデータを分析した結果、リスクを積極的に取る子どもほど、遊具の課題で転倒する確率が高いことが分かった。一方で、速く動く、高い場所にとどまる、難しい一本橋に果敢に挑むといった大胆な行動をとる子どもたちは、交通量の多い道路を渡るタイミングを、より迅速かつ効率的に判断できることも示された。

彼らは決して、無謀で危険な選択をしているわけではなく、状況をいち早く察知して速やかに行動に移していたのだ。遊びの中で身体的なリスクに積極的に取り組む経験は、自らを危険に晒すことなく、現実世界の危険を管理する能力を高められる可能性が示唆されている。

リスクを冒す子どもたちは、バーチャルな遊び場でもより頻繁に転倒していた。しかしこれは、転倒やつまずき、再挑戦を繰り返すことで、自身の能力や限界、そして適応方法を学べることを示唆している。

研究チームは、こうした教訓がさまざまな状況に応用できると主張する。これらの知見は、「リスクを取ることが本質的に危険である」という前提に疑問を投げかけるものである。同時に、リスクを伴う遊びの発達上の重要性を強調し、子どもの日常生活において、管理可能なリスクを経験できる環境を設計する必要性を指摘している。

リスキーな遊びが重要な理由

リスキーな遊びが重要な理由

これまで親や学校、政策立案者は、リスクを取り除くことで子どもの安全を確保しようと努めてきた。しかし子どもたちが小さな危険を評価し、自ら対応する練習を積まなければ、より大きな危険に対処するための判断力を養うことはできない。

今回の研究結果は、我々が設計する遊び場や、大人が子どもに与える自由の有無が、重要な役割を果たすことを示唆している。すなわち、子どもたちが公園を離れた後も、複雑な社会をうまく渡り歩く能力を育む可能性があるということだ。リスクを伴う遊びを通して、子どもたちはその後の人生に不可欠なリスク管理戦略を獲得できるのである。

リスキーな遊びは、子どもの身体、精神、および社会性や情緒面の発達において大きなメリットをもたらす。身体面では活動量が増えて、座っている時間が減るため、生涯にわたる運動能力の向上や免疫力の強化につながる可能性もある。精神面では問題解決能力やレジリエンス(困難を乗り越える回復力)を養い、社会面では協調性やコミュニケーション能力、さらには帰属意識を育むのである。

研究チームのマリアナ・ブルッソーニ氏は、子どもたちのリスキーな屋外での遊びを支持する3つの重要な要素として、時間、空間、そして自由を挙げている。

親にとってのこの3要素とは、スケジュールを決めずに子どもが自由に遊べる時間を確保し、他の子どもたちと遊べる魅力的な場所を見つけ、子どもが自発的に遊べるよう親は少し距離を置くことを意味する。その際、親は見ていて少し危険に感じる程度の軽微な身体的リスクをあらかじめ見込んだうえで、子どもを自由に遊ばせることが重要だと述べている。

つい口出ししたくなる親のために、ブルッソーニ氏は簡単なコツを提案している。それは、子どもに「気をつけなさい」と言う前に、17まで数えることである。過度な不安を鎮めて冷静な視点へと切り替えるには、このカウントがちょうど良い時間であるということだ。

一方で地域社会にとってのこの3要素は、子どもたちにとって危険を伴う遊びや自立した移動が重要だという共通認識を育み、安全性を確保しつつチャレンジングな要素を備えた創造的な遊び場を維持・確保することを意味している。

体験してみなければ理解できない種類の危険は確かにあるだろう。リスキーなものを含め、多様な経験を積むことで子どもの発達が促されることに疑問の余地はない。「かわいい子には旅をさせよ」ということわざは、今なお一面の真理を突いていると言える。

※研究論文
The developmental importance of risky play: A cross-national virtual reality study

※プレスリリース
Kids who take risks at play make faster, smarter decisions in traffic

仲田しんじフリーライター

投稿者プロフィール

雑誌編集者などを経て1999年よりフリーライターとして活動。現在はweb媒体がメイン。サイエンスからオカルトまで幅広いテーマで執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。

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