日本、リン供給源の多角化へ 世界埋蔵量7割握るモロッコと協議加速

日本、リン供給源の多角化へ 世界埋蔵量7割握るモロッコと協議加速

日本政府が、肥料や半導体に不可欠な「リン」の安定調達に向けてモロッコとの連携強化を進めています。モロッコの国営リン鉱石公社(OCP)グループ幹部が外務省を訪れ、日本向け供給拡大や協力の枠組みについて意見交換したことが明らかになりました。 5月には両国の外相がテレビ会談を行い、モロッコ産のリンを含む重要鉱物分野で具体的な協力を進めるとする共同声明を発出しており、今回の会談はその一環と位置づけられます。

リンは肥料の主原料であるリン酸肥料のほか、半導体製造工程など幅広い産業に使われ、日本の食料安全保障と経済安全保障の両面で不可欠な資源です。 しかし国内には鉱床がなく、日本は全量を輸入に依存しています。 現在の主な調達先は中国などですが、世界のリン鉱石の確認埋蔵量の約70%をモロッコ・西サハラ地域が占めるとされ、同国は供給国としての存在感を高めています。

日本政府は近年、肥料価格の高騰や中東情勢の不安定化を受け、リンを経済安全保障上の「特定重要物資」として位置づけ、供給網の強靱化を急いできました。 2022年には日本政府が肥料原料の安定調達を目的にモロッコへの高官派遣を行い、モロッコからリン酸アンモニウム(りん安)を緊急調達する動きも見られました。 2026年6月には鈴木憲和農林水産相がモロッコの王立りん鉱石公社を訪れ、農産物用肥料の原料となるりん安の安定供給を直接要請しており、農業分野でもモロッコとの連携が進みつつあります。

一方で、リン需要は世界的な人口増加や食料需要の拡大、電気自動車(EV)向けリン酸鉄リチウム(LFP)電池の普及見通しなどを背景に、長期的な増加が見込まれます。 資源が特定地域に偏在する中、日本がどこまで供給源の多角化とリサイクルの拡大を進められるかが、今後の焦点となりそうです。

経済安保と食料安保交差 迫られるリン戦略の再構築

今回、日本政府がモロッコとの協議を重ねている背景には、肥料価格高騰を経験した日本農業の脆弱性があります。リン酸肥料は窒素・カリウムと並ぶ三大肥料成分の一つで、収量や品質を支える欠かせない資材ですが、輸入価格は国際市況や為替、産地の政治情勢に左右されやすい構造です。 ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界的に肥料価格が急騰し、日本でも農家のコスト負担増が問題となりました。 モロッコからの調達拡大は、こうしたリスクを分散させる狙いがあります。

また、リンは半導体のエッチング工程や難燃材、食品添加物など多様な用途を持ち、「二十一世紀の石油」とも形容される重要資源として注目を集めています。 半導体産業の強化を掲げる日本にとって、リンの安定供給は産業政策とも直結します。 一方、日本はリン鉱石を100%輸入に依存し、中国とモロッコへの依存度が高い構造であることが指摘されており、供給途絶リスクをどう抑え込むかが問われています。

こうした中で、リン資源のリサイクルや国内循環に向けた取り組みも議論が進んでいます。下水汚泥や食品残渣からリンを回収する技術の研究が進められており、下水道を「地上の鉱山」として活用する構想も紹介されています。 とはいえ、短中期的には鉱石由来リンへの依存が続くと見込まれるため、モロッコとの協力枠組みをどう具体化するかが、政府の重要な課題です。

今後、日本政府はモロッコとの間で長期供給契約や共同投資、技術協力などを通じた関係深化を模索するとみられます。 同時に、農業現場では肥料の使用効率向上や有機資源の利用拡大が求められており、資源輸入国としての日本のリン戦略は、外交・産業・環境政策が交差する総合課題となりつつあります。

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