
上場企業の平均年間給与が過去最高を更新し、物価高のなかでも賃上げの流れが広がっていることが明らかになりました。
帝国データバンクがまとめた「上場企業の『平均年間給与』動向調査」によると、2025年度決算期(2025年4月〜2026年3月)に有価証券報告書を提出した約3700社の平均年間給与は692万6000円でした。 前年度の671万1000円から21万5000円増え、伸び率は3.2%となり、同社が比較可能な2003年度以降で最高額・最高の伸び率を同時に更新したとされています。
帝国データバンクの集計によると、5年連続で平均給与は前年度を上回っており、賃金の「右肩上がり」が続いています。 平均年間給与が増加した企業は全体の約77%に達し、その増加率別では「2.5〜5%未満」が25%と最も多く、「5〜10%未満」が20%、「1〜2.5%未満」が14%と、中程度以上の賃上げを行った企業が目立ちます。
年収帯別では、「600万円台」の企業が939社と最多で、「500万円台」が850社、「700万円台」が677社と続きました。 一方、「1000万円以上」の企業は235社に達し、初めて200社を上回ったとされています。 東証プライム市場の平均年収は800万円に迫る水準で、上場企業の給与水準が全体として高止まりしていることがうかがえます。
産業別にみると、平均給与が最も高いのは「海運業」で1120万円でした。 次いで「証券、商品先物取引業」が962万円、「保険業」が936万円、「鉱業」が911万円と、資本集約型や金融関連の業種が上位を占めています。 こうした高収益業種では好業績を背景にベースアップや賞与の増額が進み、平均給与を大きく押し上げたとみられます。
人手不足の深刻化を受けて、企業間の採用競争は一段と激しくなっています。 帝国データバンクは、若手人材の確保を狙った新卒初任給の引き上げが「初任給インフレ」と呼べる水準に達し、その影響が既存社員の給与テーブルにも波及していると分析しています。 初任給だけが突出すると組織内の不公平感が高まるため、企業は中堅・管理職層も含めた評価・報酬制度の見直しを迫られており、その結果として平均給与が押し上げられていると指摘しています。
他方で、賃上げの恩恵がどの程度まで非上場企業や中小企業に広がるのかは見通しが不透明です。 国税庁の「民間給与実態統計調査」による全体の平均年収が530万円前後とされるなか、上場企業との格差が拡大しているとの見方もあり、今後の議論のテーマとなりそうです。
物価高のなか続く賃上げ 人材確保競争が示す企業の課題
今回の調査結果は、物価高のなかでも賃上げが持続していることを示す一方、企業側の構造的な課題も浮き彫りにしています。 人手不足が慢性化する中で、給与水準の引き上げは採用競争での「必須条件」となりつつあり、特に都市部の大企業では初任給や若手の報酬を大幅に引き上げる動きが相次ぎました。
しかし、給与カーブの見直しは単なる人件費の増加にとどまらず、評価制度や人材戦略の再設計を伴います。 帝国データバンクは、若手優遇の傾向が中堅層のモチベーション低下や、社内の格差意識につながるリスクを指摘しており、企業に対して「持続可能な賃金体系」を構築することの重要性を呼びかけています。
産業間の給与格差も顕在化しています。海運業や証券、保険、鉱業など高収益業種が平均年収900万〜1000万円超の水準にある一方、多くの労働集約型産業や地方企業では、賃上げ余力が限られているのが実情です。 上場企業の中でも賃金上昇の度合いに差があり、人材の業種間・企業間移動を通じて、賃金格差がさらに広がる可能性もあります。
政府は、賃上げを成長戦略の柱の一つと位置づけ、春闘や税制優遇を通じて企業の賃上げを後押ししてきましたが、今後は中小企業への波及や実質賃金の改善をどう確保するかが問われます。 賃金水準の上昇が家計の購買力回復につながるかどうかは、物価動向や雇用環境とあわせて注視が必要です。
今回示された「平均年収692万円」という数字は、上場企業に限ったものとはいえ、日本企業が人材確保に向けて従来より踏み込んだ賃金政策をとり始めていることの象徴と言えます。 初任給インフレが一時的な現象にとどまるのか、それとも賃金構造の長期的な変化につながるのか、次年度以降のデータが重要な手がかりとなりそうです。










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