【医師解説】早く治したいから「抗生物質(抗菌薬)」使用は逆効果?腸内環境に8年およぶ影響

【医師解説】早く治したいから「抗生物質(抗菌薬)」使用は逆効果?腸内環境に8年およぶ影響

風邪をひいたとき、受診した医療機関で早く治したいから「抗生物質(抗菌薬)を出して欲しい」と思ったことはありませんか。実はその抗菌薬、あなたの腸内環境を長期間変えてしまうかもしれません。

今回は、スウェーデンで実施された大規模な研究をもとに、抗菌薬が腸内細菌に与える長期的影響についてご紹介します。

抗菌薬が腸内環境を変える影響は8年におよぶ可能性

今回紹介する論文は、2026年3月に『Nature Medicine』誌に掲載された、スウェーデンのウプサラ大学、Gabriel Baldanzi氏らの研究チームによる、「抗菌薬の使用が腸内環境(腸内細菌叢)に与える影響は、最長で8年におよぶ可能性がある」としたものです。

この報告は、私たちの薬との付き合い方に一石を投じる内容となっています。

細菌感染症の治療において、抗菌薬は命を救うために極めて重要な薬です。しかし同時に、私たちの健康を守ってくれている腸内の「良い菌」にもダメージを与えてしまうことが以前から知られていました。これまでの研究でも抗菌薬の短期的な影響は分かっていましたが、「一体いつまで続くのか」という長期的な影響について、集団ベースの大規模な調査は実施されていませんでした。そこで今回、長期間にわたる腸内環境の変化を解明する目的で研究が行われました。

【研究方法】

スウェーデンの一般成人14,979人を対象に、便から解析した腸内細菌のデータと、便採取前の8年間にわたる経口抗菌薬の処方歴データを照らし合わせました。これにより、抗菌薬の使用時期や薬の種類によって、腸内環境にどのような違いが生じているかを解析しています。

【研究結果】

解析の結果、分かったことは、以下のとおりです。

  • 影響の期間:抗菌薬の服用から1年未満の時期において、腸内細菌の多様性が最も大きく低下していました。さらに、1~4年前や4~8年前に使用していた場合でも、腸内細菌の多様性は明らかに低下したままであることが分かりました。
  • 使用回数の影響:過去8年間で「たった1回」しか抗菌薬を使っていない人であっても、全く使っていない人と比較すると腸内細菌のバランスに明らかな違いが見られました。
  • 薬の種類(薬剤クラス)による違い:抗菌薬の種類によって、腸内環境への長期的な影響の大きさに差があることも分かりました。特に「クリンダマイシン」「フルオロキノロン」「フルクロキサシリン」といった種類の抗菌薬は、影響が大きく長引く傾向がありました。一方で、「広域スペクトルペニシリン(ピブメシリナムおよびアモキシシリン)」「アモキシシリン・クラブラン酸」、または「スルファメトキサゾール・トリメトプリム」などの抗菌薬は、腸内細菌への影響がごく小さいことが確認されました。

抗菌薬はメリットとデメリットを天秤にかける必要がある

この研究は、治療行為を伴わず過去データを分析する観察研究であるため、抗菌薬と腸内環境の変化が完全に一致することを断定するものではない点に注意が必要です。

しかし、今回の結果は、外来診療における「抗菌薬の適正使用」について、今後のガイドライン策定に大きく役立つ可能性があります。病気の治療効果を確保しつつ、可能な限り腸内細菌叢への影響が少ない抗生物質を優先して選んでいくことが、これからの医療において重要になってくると考えられます。

抗菌薬の適正使用が子どもと大人の未来を守る

今回の研究が示唆しているのは、「たった一度の抗菌薬の服用でも、腸内環境に数年単位の打撃を与えうる」という事実です。抗菌薬は決して悪者ではありませんが、必要もないのにむやみに使う薬でもありません。少なくとも、「ウイルスには効かない」、「副作用や体への負担がある」、そして、「使いすぎると薬が効かない菌(薬剤耐性菌)が増える」ことは理解しなくてはなりません。

医師は抗菌薬を使用する際、症状や重症度、年齢、基礎疾患、どの臓器のどんな細菌が疑われるかなどを総合して、「この人には今、抗菌薬を使うメリットが大きいか」を考えています。

大切なのは、医師の正しい診断のもとで「必要な時に、適切な種類の抗菌薬を、必要な期間だけ使う」抗菌薬の適正使用です。自分自身や子どもの未来の健康を守るためにも、抗菌薬のことで疑問や不安があれば、医師に相談する必要があります。

参考文献:
Gabriel Baldanzi,Anna Larsson,Sergi Sayols-Baixeras,et al.Antibiotic use and gut microbiome composition links from individual-level prescription data of 14,979 individuals.Nat Med.2026 Apr;32(4):1351-1361.

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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