“推し”に人生を支配される…。「推し活疲れ」を抱える現代人が今すぐ見直すべきこと

推し活うちわ

「推しのために働いている」

そんな言葉を耳にする機会が増えました。ライブやイベントへの参加、グッズ購入、配信視聴、ファンクラブ活動…。誰かを応援する「推し活」は、今や特別な趣味ではなく、多くの人にとって日常の一部になっています。

一方で近年は「推し活に疲れた」「追うことが義務になっている」「好きなはずなのに苦しい」といった声も少なくありません。SNSをのぞけば、「推し活疲れ」「降りる」「燃え尽きた」といった投稿が並んでいます。

本来は人生を豊かにするはずの楽しみが、なぜ「負担やストレス」へと変わってしまうのでしょうか。そこで今回は、推し活と心の関係について、メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子さんに話を聞きました。

昔からある推し活が、疲れやすくなっている理由

イメージ(机に伏せる女性)

アイドル、歌手、俳優、スポーツ選手、舞台役者…誰かを応援し、その活動を支えたいという思いは、昔から多くの人が抱いてきました。いわゆる“追っかけ文化”も、決して新しいものではありません。ただ、現在の推し活には、以前とは大きく異なる環境があります。その変化の中心となっているのが、インターネットとSNSです。

以前であれば、推しの情報に触れる機会には自然と限りがありました。「雑誌の発売を待つ」「テレビ出演を待つ」「ライブまで時間が空く」応援していても、その合間には日常へ戻る時間があったのです。しかし現在は、スマートフォンひとつで状況が大きく変わりました。スマートフォンを開けば、推しの投稿や動画、ライブ配信、関連ニュース、さらにはファン同士の感想まで絶え間なく情報が流れてきます。

大美賀さんは、このような現代の状況に関して「思えば思うほど、どこまでも情報に触れられてしまう環境が生まれている」と指摘します。

その結果、推しから離れる時間が減り、常につながり続ける状態になりやすくなりました。こうした接触の途切れなさは、現代の推し活を特徴づける大きな変化のひとつだといえるでしょう。

さらにSNSは、ファン同士のつながりも大きく変えました。かつては限られたコミュニティで行われていた交流が、今では全国、時には世界規模で広がっています。チケットの情報を共有したり、遠征仲間を見つけたり、公演の感想を語り合ったり。推しの魅力を分かち合えることは、推し活の大きな楽しみのひとつです。

一方で、その熱量が互いに増幅されやすい環境も生まれています。SNSを開けば、複数公演に参加している人や限定グッズを購入した人、リアルタイムで情報を追い続けている人の姿が目に入ります。そうした投稿に触れるうちに、「自分も追いかけなければ」「置いていかれてはいけない」と感じる人も少なくありません。

推し活そのものが変化したというよりも、「熱中し続けやすい環境」が社会全体に整ったことが大きいのかもしれません。いつでも情報にアクセスでき、ファン同士が常につながれる時代だからこそ、気づかないうちに推し活のペースが加速しやすくなっているのがわかります。

「楽しいはずなのに苦しくなる」背景にある心理

推し活は、なぜ疲れや義務感へ変わってしまうのでしょうか。大美賀さんによれば、その背景のひとつとして「脳の報酬に関わる働き」が影響している可能性があると説明します。

人は楽しい経験や達成感を得ると、再び同じ感情を味わいたくなるものです。たとえば「ライブが楽しかった」「推しを近くで見られた」「限定イベントに当選した」など、そういった体験は喜びや満足感をもたらします。

ただ、その喜びを繰り返し経験をするうちに、今度は「もっと近くで」「もっと頻繁に」「もっと特別に」という気持ちが強まることがあります。純粋な楽しみだった推し活が、次第に「逃したくない」「追い続けたい」という感覚に変わっていきます。もともと趣味だったはずの活動が、次第に生活の中心を占め、本来のバランスが崩れ始めるのです。

近年、注意すべき点として大美賀さんが挙げるのが、推し活と自己価値の過度な結びつきです。たとえば「誰よりも詳しい」「全公演に参加する」「グッズを揃える」「推しに多くお金を使う」といった行動が、ファンコミュニティでの評価や存在感につながることがあります。

そのような環境では、「何を応援しているか」だけでなく、「どれだけ応援しているか」が自分自身の価値と重なっていきやすくなります。「仕事そのものには特に目的はないけれど、推し活のために働いている」と公言する人が少なくないのも、この現れといえるでしょう。

もちろん、趣味に熱中すること自体は悪いことではありません。しかし、仕事や学業、人間関係、健康といった、ほかの生活領域とのバランスが崩れた時は危険信号です。大美賀さんは、そのサインを見逃さないことが大切だと指摘します。

では、具体的にどのような状態に陥った場合に注意が必要なのでしょうか。大美賀さんは、ひとつの目安として「日常生活への支障」を挙げます。もし以下の項目に当てはまる場合は、一度立ち止まって生活を見直すサインです。

  • 睡眠時間を削っている
  • 食事を後回しにしている
  • 仕事や学校に遅刻する
  • 生活費まで使い込んでいる
  • 借金をしてまで続けている

これらに加え、「控えようと思っても難しい」「やめると強い不安に襲われる」「行かないと後悔しそうで怖い」といった感情が続く場合も注意が必要です。

推し活を長く楽しむために必要なこと

イメージ(推し活費用)

では、推し活とどのように付き合っていけばいいのでしょうか。大美賀さんは、「推し活自体を否定する必要はない」と強調します。むしろ、生活に潤いや楽しみを与える存在として大切にしてほしいといいます。

「推し活は、自分の生活に潤いを与えるエンターテインメントのひとつ。人生そのものを預けるものではありません」

生活の中心にあるべきは、自分自身の人生です。仕事や学業、家族、健康、人間関係、そして将来のこと。確固たる生活の土台があってこそ、趣味や楽しみは輝きます。この優先順位を見失わないことが、何より大切です。また、推し活には熱中度合いがエスカレートしやすいという性質があることも知っておく必要があります。

私たちは普段、さまざまな欲求と折り合いをつけながら生活しています。欲しいものがあっても予算を考え、楽しい予定が続いていても休息を取る。推し活も本質は同じです。だからこそ、意識的に境界線を引かなければなりません。

全部を追わなくてもいい。

行けない公演があってもいい。

買わないグッズがあってもいい。

推し活は決して競争ではなく、人生を豊かにするための選択肢です。好きだからこそ、続けられる距離を保つことが大切なのです。「推し活疲れ」という言葉が広がる今、推しとの向き合い方を見つめ直すことが、これまで以上に求められます。

大美賀直子さん

大美賀 直子さん

「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案するメンタルケア・コンサルタント。公認心理師等、多数の資格を有する。人が自分の心の中から内発する思い、社会や人間関係から刺激されて生じる思いに向き合い、自分がいちばん納得する答えを導き出していくこと。それをサポートするメンタルケア・コンサルティングを行っている。

神谷春記者

投稿者プロフィール

某民放局報道局にて事件事故を中心に取材。
特に安倍元首相銃撃事件や、大阪・北新地放火殺人事件などを精力的に取材。一方でG7サミットや五輪などの取材経験も。

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