栃木・強盗殺人事件から紐解く少年犯罪のリアル。「知らなかったでは済まされない」とリーゼント刑事が警告

おはようさん。リーゼント刑事こと秋山です。
子どもたちが楽しみにしている夏休みが始まりました。夏休みというと、海に出かけたり、花火を見たり、友達と遊んだりと、楽しい事を想像する人が多いでしょう。しかし私は、42年間刑事として働くなかで、夏休みになる度に少し違う景色を見てきました。
人生は一本道ではありません。何本も道が交差する交差点の連続です。その交差点では「右へ行くか、左へ行くか」そんな小さな選択の積み重ねが、その先の人生を大きく変えていきます。
ほんの軽い気持ちで誘いに乗ったこと。友達に「大丈夫だから」と言われたこと。SNSで見つけた「簡単に稼げる」という言葉を信じたこと。その一歩は、本人にとっては小さな一歩かもしれません。しかし、その先に待っている道が崖へ続いていることを知っている人は、ほとんどいません。
<目次>
人生に“リセットボタン”はない

刑事だった私は、その崖の下で多くの若者と出会いました。「こんなことになるとは思わなかった」「犯罪なんて知らなかった」取調室では、そんな言葉を何度も耳にしました。ですが、人生はゲームのように「リセットボタン」を押すことは出来ません。
一度踏み出した一歩が、人の命を奪い、自分自身の未来まで奪ってしまうことがあります。だからこそ、この夏休みを迎える今、特に若い皆さんには伝えたいことがあります。人生を変えるのは決断だけではありません。ほんの少しの油断と、「これくらいなら大丈夫」という気持ちです。
栃木県上三川で起きた強盗殺人事件。皆さんの記憶にも、まだ新しいのではないでしょうか。今年の5月、69歳の女性が自宅で命が奪われました。事件は、単なる空き巣や窃盗で終わりませんでした。
実行役とされる少年らは、自宅で暮らしていた飼い犬が吠えたため、犯行の邪魔になると考え、犬まで殺害しています。そして、住宅に侵入し、女性を刃物で襲って命を奪いました。
さらに、異変に気付き駆け付けた2人の息子さんにもバールのようなもので襲いかかり、殺害しようとした疑いが持たれています。幸い息子さんたちは命を取り留めましたが、ひとつの家族の日常が一瞬にして奪われたのです。
この事件で逮捕されたのは、実行役とされる少年4人と、その少年たちに指示を出したとされる20代の夫婦です。警察は、さらにその上に指示役が存在する「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による組織的犯行だった可能性も視野に捜査を進めています。
ニュースでは、「高校生」「少年」という言葉だけが大きく報じられています。しかし、その言葉だけでは伝わらない現実があります。
「少年だからすぐ出られる」という致命的な誤解

強盗殺人罪は、日本の刑法の中でも最も重い犯罪のひとつです。法定刑は死刑または無期懲役。多くの人が「少年だから数年で社会に戻れる」と思っていますが、それは大きな誤解です。
16歳、17歳という人生のスタートラインに立ったばかりの少年が、もし何十年もの刑に服することになれば、社会に戻る頃には40代、50代になっていることでしょう。その間、家族や友人は年を重ね、社会も大きく変わります。高校生活も、恋愛も、就職も、結婚も、子育ても、本来できたはずの人生が失われてしまうのです。
刑務所は、自由のない世界です。一日、一日を厳しい規律の中で過ごし、失った時間は二度と戻ってきません。その現実を知れば、「お金が欲しかった」「友達誘われたから」「携帯代を払うためなどのような理由で伸び込むような世界ではないことが分かるはずです。
私は、この少年たちも、この現実を本当に理解していたら、同じ選択はしなかったのではないかと思います。だからこそ、子どもたちには「知らなかった」では済まされないことを、大人が伝えなければなりません。
新聞やニュースを見て社会で何が起きているのかを知ること。法律を知ること。そして、簡単にお金が稼げるという甘い言葉の裏には、人生を失う危険が潜んでいることを教えてほしいです。
犯罪を止めるのは警察だけではありません。家庭での会話、学校での教育、地域の大人たちのひと言。その積み重ねが、子どもの未来を守ることにつながるのです。
私が徳島県警で刑事として事件と向き合っていた頃のことです。この事件をニュースで見たとき、忘れられないひとつの事件が頭によみがえりました。忘れもしない夏休みのことです。当時16歳、高校1年生の少年を殺人未遂容疑で逮捕しました。少年は夏祭りの会場で、何の面識もない少年を背後からナイフで突き刺したのです。
刃は肺まで達し、一歩間違えれば命を落としていたかもしれません。私は取り調べで少年に尋ねました。「なぜ、こんなことをしたんだ」すると少年は、「2年生、3年生(先輩)に度胸を見せたかっただけや。何が悪いんや」そう答えたんです。その時私が愕然としたのは、その少年が、人を刺せばどれほど重い罪になるのかをまったく理解していなかったことです。
夏休みこそ親子のコミュニケーションが大事

私は今でも思います。もし、この少年が犯罪の重さを知っていたなら、この事件は防げたのではないかと。しかしこのような事件は決して珍しいものではありません。
私の記憶にあるのが、1992年「市川一家4人殺害事件」、犯人は19歳の少年でした。死刑が確定し、2017年に執行されています。1999年に起きた「光市母子殺害事件」では、18歳の元少年が母親と生後11ヶ月の娘を殺害し、死刑が確定しました。
そして今、私たちは再び同じような事件に直面しています。栃木県上三川町の事件です。16歳という若さで重大事件に関わった少年たちは、極めて重い裁判を受けることになります。
この犯罪が奪うものの大きさ、皆さん想像できますか。
「刑」だけでなく、命、家族、未来、青春、自由…。私は42年間、刑事として数えきれないほどの事件と向き合ってきました。その中で感じたことがあります。
犯罪は、人を幸せにすることは決してありません。「簡単に稼げる」「一度だけなら大丈夫」「知らなかった」。そんな言葉の先に待っているは、お金でも成功でもありません。待っているのは、後悔と涙です。そして、後悔は自分一人だけでは背負いきれません。家族や大切な人まで巻き込み、一生消えることのない傷を残します。
特に夏休みは友達と過ごす時間が増え、SNSに触れる時間も長くなるでしょう。だからこそ、大人の皆さんには、ぜひこの機会に子どもやお孫さんと犯罪について話をしていただきたいのです。
「簡単にお金が稼げる話はない」
「困ったら一人で抱え込まず相談すること」
そんな何気ない会話が、子どもの未来を守ることにつながります。
そして、これは子どもたちだけへのメッセージではありません。大人の皆さんも特殊詐欺やSNSを利用した投資詐欺、ロマンス詐欺など、さまざまな犯罪の標的になっています。
「自分は大丈夫」という油断が、一瞬で人生を変えてしまうことがあります。どうか、ご自身も犯罪に巻き込まれないよう、日頃がから情報に目を向け、犯罪意識を持ち続けてください。
皆さんには、自分の人生を大切に生きてほしい。そして、大切な家族を守ってほしい。それが、私が元刑事として一番伝えたい願いです。どうか、このコラムを読んだ今日という日が、ご自身と、その大切な人を犯罪から守るきっかけになることを心から願っています。






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