
致死率が極めて高く、世界的な公衆衛生の脅威となっているエボラ出血熱に対し、日本の研究チームが新たな希望をもたらしました。渡辺登喜子・大阪大学教授と河岡義裕・東京大学特任教授らによる共同研究チームは、開発中の新たな不活化ワクチンに関する初期の臨床試験(第I相臨床試験)において、安全性と有効性を示す良好な結果が得られたことを米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」で発表しました。
エボラウイルスが引き起こすこの感染症は、流行状況によっては致死率が最大90%にも達する非常に危険な疾患です。2014年から16年にかけて西アフリカで発生した未曾有の大流行では、約2万8000人が感染し、約1万1000人が死亡しました。近年でも世界保健機関(WHO)がコンゴ民主共和国やウガンダでの流行に対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しており、根本的な対策が急務となっています。
現在、実用化されているエボラワクチンは、別のウイルス(口内炎を引き起こすウイルスなど)にエボラウイルスの表面たんぱく質を作らせる「生ワクチン」が主流です。これらは高い有効性を誇る反面、体内でウイルスが増殖するため副反応のリスクがあり、より高い安全性が求められていました。
そこでチームは、エボラウイルスが細胞内で増殖する上で欠かせない遺伝子を働かなくした「変異ウイルス」を独自に作製しました。この変異ウイルスは特殊な環境下でしか増殖できないため、製造過程における安全性を確保できます。さらに、このウイルスの遺伝子に化学物質を添加して感染性を完全に失わせることで、安全性を極限まで高めた「不活化ワクチン」の開発に成功しました。このアプローチにより、体内でウイルスが増殖する従来型ワクチンの副反応リスクを克服し、極めて高い安全性を確保できると期待されています。
長期の抗体維持を確認、今後は現在流行中のウイルス株への対応へ
この不活化ワクチンの実用化に向けた大きな一歩として、19年から22年にかけて東京大医科学研究所病院にて初期臨床試験が実施されました。対象となったのは20歳から45歳の健康な男性計29人で、4週間の間隔を空けて2回接種が行われました。その結果、軽度の副反応は確認されたものの、重大な健康被害はなく高い安全性が証明されました。同時に、感染や重症化を防ぐために必要な複数の抗体が誘導され、一部の被験者ではその抗体が1年にわたり維持されるという長期的な有効性も確認されています。
長年待ち望まれていた不活化ワクチンの初の臨床試験が成功したことは、感染症対策における歴史的なマイルストーンと言えます。しかし、研究チームの河岡特任教授は、今回の試験が過去に最も流行した「ザイール株」を対象としており、現在流行している他のエボラウイルス株には十分な効果を発揮しない可能性があると指摘しています。今後は、今回確立された安全なワクチンプラットフォームを応用し、現在流行中のウイルス株に対する不活化ワクチンの開発を迅速に進めることが、真のエボラ出血熱制圧に向けた鍵となります。












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