
東北大学多元物質科学研究所の都英次郎教授らと、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、エア・ウォーター株式会社などの共同研究グループは、近赤外線レーザーを活用してがん細胞を熱で破壊する「光熱療法」の実用化に向けた新技術を開発しました。この次世代療法は、手術や放射線治療に比べて患者の体への負担が少ないという大きな利点がある一方で、これまで実用化を阻む深刻な課題が存在していました。具体的には、治療用微粒子が体内の免疫細胞に異物として認識されて排除されてしまう点や、体外からのレーザー照射では皮膚や皮下組織で光が散乱・吸収され、深部にある腫瘍に十分な熱が届かない点です。
これらの壁を根本的に突破するため、研究グループは近年生命科学に革命をもたらしたとされるタンパク質構造予測AI「AlphaFold」を用いて、新たな人工ステルスタンパク質「IDP1」を独自に設計しました。ヒト血清アルブミンの立体構造データをもとに作製されたこの人工素材は、高い親水性と弱いマイナス電荷による適切な電荷バランスを備えており、免疫細胞からの攻撃を回避するステルス性能を発揮します。
実際に、従来のプラスチック由来であるポリエチレングリコール(PEG)と比較した結果、微粒子の血中滞留時間は4倍以上(半減期が約17.8分から150.5分へと延長)に向上しました。また、生分解性と安全性の面でも大きな違いがあり、PEGは体内で分解されずに長期間蓄積する懸念があるのに対し、IDP1は体内の酵素によって無害なアミノ酸へと自然に分解されます。さらに、がん治療において必須となる複数回投与の際、従来は免疫系から急激に排除される加速血中消失リスクがありましたが、タンパク質由来であるIDP1はこのリスクが極めて低く抑えられています。これにより、静脈投与のみで肝臓や脾臓といった正常臓器への分布を最小限に抑え、腫瘍に対して特異的かつ高濃度に集積することが定量的なデータとして確認されました。
注射針サイズの極細内視鏡による局所アプローチと今後の展望
AI設計によって薬剤の腫瘍への集積性を高めたことに加え、深部へのレーザー照射という物理的な課題を解決するため、新たに注射針の内部に収まる極細硬性内視鏡が開発されました。エア・ウォーター株式会社が有するグレーデッドインデックス型プラスチック光ファイバ(GI-POF)技術を医療用に応用したこの専用デバイスは、レンズ径がわずか0.5ミリメートルであり、医療現場で標準的に使用される16ゲージの注射針の内腔に挿入することが可能です。
これにより、腫瘍の内部から直接レーザーを照射する「接触型照射システム」が実現しました。従来の体外照射に比べ28パーセント低い出力(500mW)であっても、腫瘍部を同等に加熱することに成功しています。ネズミの大腸がんモデルを用いた実証実験では、わずか1回の治療で14日以内に腫瘍が完全に消失し、その後40日以上にわたり再発も一切認められませんでした。今後は、この内視鏡が到達可能な頭頸部がんや食道がん、乳がんなど多様ながん種への適応拡大を目指し、早期の臨床応用に向けた研究開発が推進される予定です。












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