
米スタンフォード大学とアーク研究所の研究チームは8月6日、生成人工知能(AI)に自然界には存在しない新しいウイルスを設計させ、実際に増殖可能な状態で作り出すことに成功したと米科学誌サイエンスに発表しました。
研究チームは、細菌に感染するウイルス「バクテリオファージ」を対象に、既知の「ΦX174」を鋳型として、対話型AIの基盤となる大規模言語モデルと同様の仕組みを持つ「ゲノム言語モデル」(Evo 1、Evo 2)にゲノム全体を設計させました。この手法は2025年に査読前論文として公表されており、今回サイエンス誌への正式掲載に至っています。
追加学習に使われたのは、ΦX174が属するウイルス科の関連ゲノム約1万5000種です。この結果、AIは新規ファージのゲノム設計案を数千種類生成したとされています。コンピューター上での選別を経て残った302種類のうち285種類のDNA配列を化学的に合成し、大腸菌に導入しました。
その結果、16種類のウイルスが実際に大腸菌内で増殖する能力を持つことが確認されました。成功率は約5.6%。今回作られたのは遺伝子11個ほどの比較的単純な構造のウイルスです。ただし、個々のタンパク質単位ではなく、ウイルス1個体分のゲノムを丸ごとAIに設計させ、実際に機能させたのは世界初の成果です。
機能した16種類のうち、既知の自然由来ゲノムと比べて25ヶ所以上の変化を持つものが一定数あり、なかには50ヶ所以上の変更を持つ例も2種類ありました。一部には、進化的に離れた他のファージの遺伝子を取り込んだ例も報告されています。研究チームは、複数のファージを組み合わせることで、天然のファージに耐性を持つ大腸菌にも対抗できる可能性を示しました。
バイオテロへの懸念と安全対策の重要性
今回の成果は、抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌への新たな治療法開発につながる可能性がある一方、悪用のリスクも指摘されています。サイエンス誌に同時掲載された解説記事で、米ジョンズ・ホプキンス大学のトーマス・イングルスビー教授らは「生成AIでウイルスゲノムを構成する能力はすでに存在するが、安全に管理するためのガバナンスはまだ整備されていない」と指摘しました。
研究対象は人間に感染しない非病原性の大腸菌に限られており、AIの学習対象からも人間や動植物に感染するウイルスの配列が除外されました。研究チームは、動植物に感染する病原体の設計にも同様の手法が応用されかねないとして、安全対策の重要性を訴えています。米AI企業の経営者らは今年6月、バイオセキュリティー対策の強化を米議会に求める書簡を提出しました。












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