
国際原子力機関(IAEA)は近く、シリア国内の秘密施設に保管されている核物質を撤去する見通しです。これは、米国のトランプ政権が、同国の新政権および隣国イスラエルとの間で一定の合意に達したことを受けた措置であり、中東地域における重大な安全保障上の懸念が一つ解消されることになります。
2024年12月に崩壊したバッシャール・アル・アサド政権は、かつて北朝鮮の支援を受けて極秘にアルキバル原子炉の建設を進めるなど、危険な核開発計画を推進していました。同原子炉は2007年のイスラエル空軍による空爆で破壊されましたが、その後も政権側は、秘密裏に進めていた核開発計画の一部として、ウラン鉱石から精製される粉末状の「イエローケーキ」を含む核物質を保管し続けていたとされています。
これらの物質は直ちに核兵器へ転用できるものではありませんが、通常火薬に混入させて放射性物質を広範囲に飛散させる「ダーティーボム」(放射性物質拡散装置)として悪用される危険性が再三にわたり指摘されてきました。特に、内戦による権力の空白期に乗じて過激派組織がこれらを奪取する最悪の事態を防ぐため、迅速な事態の収拾が急務となっていました。
事態の収拾に向けて、関係各方面はそれぞれの立場で対応を進めてきました。IAEAは、シリア国内の秘密施設からの核物質撤去を実施予定であり、査察と監視を通じた国際的な核不拡散体制の維持を主導する役割を担っています。米国は、トランプ政権がイスラエルとシリア双方との外交交渉を仲介し、平和的な物質撤去に向けた合意形成を牽引しました。そして、自国の安全保障を直接的に脅かすシリアの核開発を強く警戒し、独自の軍事行動も辞さない構えを見せていたイスラエルは、IAEAを通じた米国の平和的な外交的解決案に同意しました。今回の撤去合意は、長年にわたる多国間の外交努力がようやく結実した重要な成果であると評価されています。
シリア新政権の国際協調路線と中東地域の核セキュリティに向けた展望
今回の核物質撤去は、アフマド・アッシャラア暫定大統領が率いるシリア新政権の国際協調姿勢を象徴する出来事でもあります。同政権は過去の孤立路線から脱却し、IAEAの査察団に対して疑惑施設への即時立ち入りを許可するなど、情報の透明性確保に努めています。7月8日には、米国のトランプ大統領が1979年以来指定されてきたテロ支援国家の解除方針を表明しており、経済制裁の解除と併せて国家再建を後押しする環境が着実に整いつつあります。
一方で、直近の8月11日には、ロシアへ逃亡した前職のアサド氏に対し、シリアの裁判所が殺人や拷問の罪で死刑判決を下しました。強権的な旧体制の法的な清算が進む中、長年の懸案であった核物質の安全な撤去作業は、中東地域全体における不拡散体制の維持と、新たな核テロリズムの危機を未然に防ぐための極めて重要な試金石となります。












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