
「分からないことがあれば、とりあえずググる」
かつては当たり前だった情報収集の方法が、いま大きく変わり始めています。
これまでは、Googleなどの検索エンジンにキーワードを入力し、表示された検索結果を一つひとつ開きながら、必要な情報を探すのが一般的でした。しかし近年、特に若い世代を中心に広がっているのが、生成AIに直接質問するという新しい情報収集の方法です。
「冷蔵庫に卵とナスと豚肉があります。何が作れますか?」
そのように自然な言葉で生成AIに問いかければ、条件に合ったレシピをすぐに提案してくれます。検索結果を一つずつ見比べる必要もありません。
では、私たちは「ググる」ことをやめたのでしょうか?そして、生成AIに答えを聞くことが当たり前になった先に、私たちの「調べる力」や「考える力」はどうなっていくのでしょうか。今回は、情報検索やメディア・コミュニケーションを研究する同志社大学免許資格課程センター教授の佐藤翔氏に、情報収集のスタイルの変化についてお話を聞きました。
<目次>
「検索」は本当に人の思考力を鍛えていたのか

最近、若者を中心に「Googleで検索する」よりも「生成AIに聞く」という行動が増えていますが、その変化は、実際にかなり急速に進んでいます。
大学生協が行っている学生生活の実態調査でも、生成AIを使った経験がある学生の割合は、2023年度の調査では4割程度。それが2024年度には6~7割近くまで増え、2025年度の調査では9割が『使ったことがある』、8割が『現在も利用している』という結果になっています。少なくとも学生や若者の間では、生成AIを使うこと自体は、かなり一般的になったと考えていいでしょう。
生成AIは検索だけに使われているわけではありません。レポート作成、文章をブラッシュアップ、プライベートな相談など、なかには雑談相手として利用している学生もいます。ある調査では、3割程度の学生が生成AIと雑談をしているという回答もありました。
つまり、生成AIは『検索エンジン』というよりも、情報を扱ったり処理したりする場面全体を助けてくれる、いわば『エージェント』のような使われ方をするようになっているのではないでしょうか。
Googleで検索するのが当たり前だった時代、私たちは検索結果を見比べながら、自分で必要な情報を探していました。一方、生成AIに質問をすれば、知りたい答えを瞬時にまとめて提示してくれます。
そのため、「自分で調べる」という行為が減ることで、人間の「考える力」まで低下してしまうのではないか―。そんな懸念もあるのではないでしょうか。しかし、佐藤氏は少し違った見方をしています。
「生成AIによって『考える力が失われる』という議論はありますが、そもそもGoogle検索をしていた時代に、私たちは本当にそこまで考えていたのかという疑問もあります。Googleで検索しても、多くの人は検索結果の1ページ目しか見ません。さらに、クリックするのは上位のごく一部です。そう考えると、生成AIに置き換わったことで突然、人間が考えなくなったとは言い切れないと思います」
むしろ変化しているのは、「考える量」そのものよりも、情報にたどり着くまでのプロセスなのかもしれません。
生成AIの普及によって便利になった代償

たとえば、夕食のレシピを探す場面を考えてみます。これまでなら「豚肉 ナス 卵 レシピ」などと検索し、検索結果に出てきたレシピサイトをいくつも見比べながら、「今日は何を作ろうか」と探すのが一般的でした。
しかし生成AIであれば、「冷蔵庫に豚肉とナスと卵があります。これで作れるものを教えて」と聞けば、条件に合った料理を提案してくれます。検索によって生じていた「余計な情報」は減り、欲しい答えだけがピンポイントで返ってくるのは、利用者にとって大きなメリットといえるでしょう。
一方で、佐藤氏はそこに「思わぬ情報との出会い」が減る可能性を指摘しています。
「検索の場合、入力した条件から外れた情報もたくさん出てきます。たとえば、冷蔵庫にナスがあると検索していても、ナスを使わない料理が検索結果に出てきて、『これ、実は食べたかったかも』と思うこともあるでしょう。検索サービスにとっては、それは利用者が求めていない『ノイズ』です。Googleも、ずっとそのノイズを減らそうとしてきました。ただ、そのノイズの中に思わぬ発見があった可能性もあるのです。生成AIによって、こちらの要求を100%満たした答えが一発で出てくると、そうした偶然の出会いは起こりにくくなるかもしれません」
さらにはインターネット広告も、かつてはテレビCMのように幅広い人に向けて商品を知らせていました。しかし現在は、検索履歴などをもとに、その人が興味を持ちそうな情報をピンポイントで表示する方向に進んでいます。
「パーソナライズ自体は、検索の時代からありました。ただ、生成AIはさらに強烈にフィードバックしている面があります。長く使っていれば、こちらの過去の質問や関心に合わせた答えを返すようになります。そのため、『今までの自分とはまったく違う考え方を知りたい』と思っても、過去の利用履歴に引っ張られた答えが返ってくるかもしれません。なので意識的にリセットしなければ、自分の興味や価値観の中だけで情報が循環してしまうこともあるでしょう」
こうした現象は、SNSでもユーザーの好みに合わせて情報が表示される「フィルターバブル」が問題視されてきました。自分が興味のある情報ばかりを見ていると、世の中全体が自分と同じ考え方をしているように錯覚してしまう。そうした偏りは、生成AIによってさらに強まる可能性があると、佐藤氏は指摘します。
「個人に最適化された情報ばかりになると、社会全体でみんなが共通して触れている情報がなくなっていく可能性があります。自分が偏った情報しか見ていないことに気づかなくなるのではないか、という懸念もありますね。だからこそ、偏っていない情報や、自分が普段触れていない情報に出会う機会をどうつくるかは、これから重要なテーマになるのではないでしょうか」
かつては新聞やテレビが、多くの人に共通の話題や情報を届けていました。一方で、SNSや動画サイトでは、自分の興味関心に合わせて情報が細分化されています。
「一部のミームのように、TikTokやYouTubeで爆発的に広がって、多くの人が知っている情報もあります。ただ、ミームにならない限り、みんなが触れないという状況も、それはそれで不健全ではないかと思います」
生成AI時代に「調べる力」がより重要になる

では、生成AIが検索から情報整理、要約までやってくれる時代に、「自分で調べる力」は必要なくなるのでしょうか。佐藤氏の答えは、「むしろ重要性は増している」と明かします。
「AIが出てきたことで、『調べる力』の重要性はむしろ高まっていると思います。ただし、それは昔のように検索窓に適切なキーワードを入力する能力だけではありません。生成AIを使いこなすという意味での『調べる力』です」
たとえば、生成AIに「情報の信頼性について教えて」と聞けば、一般的な説明が返ってきます。しかし、本当に知りたいことが別にあるなら、「自分が何を知りたいのか」を掘り下げなければなりません。
「生成AIと対話しながら、『自分は本当は何を知りたいのか』を絞り込んでいく。さらに生成AIから『こういうキーワードで調べた方がいい』『こういう文献を見た方がいい』という提案を受けて、それを自分でも確認する。そうすれば、自分の調査能力を高めることもできます」
これまでなら、検索しても欲しい情報が見つからなければ、「探している情報はない」と諦めていたかもしれません。しかし生成AIは、検索の方法そのものを提案してくれます。生成AIとの対話を通じて問いを磨き、提案を吟味し、最終的に自分で確かめる力へと、その意味が変わり始めているのです。
一方で、生成AIの回答をそのまま信じていいわけではありません。生成AIは回答を提示してくれますが、その結論に至る過程を人間のように完全に説明できるわけではありません。
「生成AIが返してきた答えに満足して、そのまま貼り付けることが許される場面と、許されない場面があります。どういうデータを参照し、どんな検索キーワードを使ったのか。出てきた情報は妥当なのか。可能であれば、自分でもう一度調べてみる。生成AIの出した情報を人間の目で確認して、『これで大丈夫だ』と判断する。最終的に、その情報について責任を取るのは人間です」
「ググる」は死語になるのか

では、5年後、10年後、私たちはどのように情報を探しているのでしょうか。佐藤氏は「2年後ですら分からない」としながらも、生成AIによるサポートが日常に溶け込む可能性を指摘します。
「今でも音声入力はかなり一般化しています。そう考えると、常に生成AIにサポートしてもらいながら、さまざまな行動をするという状態は、これから一般化していく可能性が高いです。そうなれば、『分からないことを検索する』という行動そのものが変わるかもしれません」
「ググる」という言葉が「検索する」の代名詞になったように、将来的には「生成AIに聞く」ことを表す新しい言葉が生まれる可能性もあるでしょう。ただ、そのとき私たちが忘れてはいけないのは、「答えを得ること」と「知ること」は同じではないということです。
Google検索は、大量の情報の中から、自分で答えを探す時代をつくりました。生成AIは、その大量の情報を整理し、私たちが求める答えを一瞬で差し出してくれます。便利になった一方で、自分が何を知りたいのか、どんな情報を信じるのか、そして生成AIが出した答えは本当に正しいのか―。その判断を人間自身が担うことの重要性は、むしろ増していくでしょう。
「ググる」が死語になる日は、もしかするとそう遠くない未来なのかもしれません。しかし、生成AI時代に本当に必要になるのは、「検索する技術」ではなく、生成AIと対話しながら自分の問いを深め、情報を検証し、最後は自分の頭で判断する力です。生成AIがどれほど賢くなっても、その役割だけは、人間に残されているのではないでしょうか。

佐藤翔さん
同志社大学免許資格課程センター教授。専門である図書館情報学の観点から、人間の情報探索行動や学術情報の流通、さらには生成AIが図書館運営に与える影響までを多角的に検証している。著書『図書館を学問する』などでデータに基づく客観的な知見を提示し、情報と社会の関わりを問い直す研究者として広く注目を集める。






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