
外食業界が人手不足に苦しんでいます。帝国データバンクによると、2026年1月~6月の倒産件数は473件にのぼり、前年同期を上回って過去最多を更新しました。その背景のひとつにあるのが、慢性的な人手不足に加え、それに伴う人件費の高騰です。特に、飲食店は個人や中小零細企業が運営しているケースが多く、人手不足の影響を受けやすい傾向があります。
こうしたなか、さらなる人手不足を招く要因として懸念されているのが、外国人材の受け入れです。飲食業界では、外国人労働者を貴重な戦力として活用してきましたが、4月から「特定技能1号」の受け入れが制限され、新たな人材の確保が難しくなっています。
<目次>
外国人スタッフは定着率が高く恩恵が大きい店も

そもそも外食の「特定技能1号」とは、深刻な人手不足に対応するため、レストランや飲食店などの外食業分野で外国人が働くことが認められている在留資格(就労ビザ)のことです。
外国人が日本で働くのに必要な「就労ビザ」には複数の種類があります。そのうちのひとつが「特定技能」の外食分野です。飲食店のホール業務、調理業務などに従事することができます。特定技能には1号と2号があり、1号は在留期間が通算5年までと定められている一方、2号には在留期間更新の回数に上限がありません。
近年、飲食店はデジタル化によってレジの自動化など顧客とのコミュニケーションが必要な業務が効率化されており、日本の商習慣に馴染みがない外国人でも働きやすい環境が整っていました。外国人の労働力が飲食店を支えていた側面もあります。
しかし、外食の「特定技能1号」の受け入れ人数が上限の5万人に達する見込みとなり、4月13日以降は新たな人材確保が困難になったのです。
「受け入れ停止の問題は、特にうちのような会社への影響が大きいのではないでしょうか」そう話すのは、都内を中心に10店舗ほどの焼肉店を展開する企業のオーナーです。
「大手企業のように採用から教育までの仕組みが整っていないため、スタッフが減った際の打撃が大きいのです。外国人スタッフは定着率が高く、真面目な人も多い傾向がありました。とても助かっていただけに、受け入れ停止は頭の痛い問題。新規出店を計画しているのですが、人材の獲得には不安を抱えています」
オーナーによると、8月からはインバウンド需要の高まりが期待される繁忙期であり、募集時のアルバイトの時給を引き上げて獲得を急いだと言います。
小規模な飲食チェーンにとって、収益を安定させるうえで重要なのがリピーターの確保です。インバウンドによる繁忙期でもサービス力を落とさず、また来店したいと思ってもらえる店舗運営を続けられるかどうかが、今後の経営を左右することになります。
なぜ中小の飲食店は価格転嫁が進まないのか

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」によると、外食業界では人手不足が深刻な状況となっています。業種別にみた飲食店の非正社員の人手不足割合は59.1%にのぼり、人材派遣・紹介に次いで高い水準です。
さらに人材サービスディップの調査によると、2026年5月のホール・キッチンスタッフの時給は1221円で前年比2.7%の増加。居酒屋・バーの時給は1.4%増加して1376円となりました。
人件費の増加は中小企業経営者にとって悩みのタネでしょう。外食の巨大チェーンは人件費や食材費、水道光熱費高騰の影響を価格転嫁で補っています。実際、大手チェーンでは相次ぐ値上げによって、コスト上昇を吸収するだけでなく、利益を伸ばしているケースもあるようです。
2026年2月に価格改定を実施した日本マクドナルドホールディングスは、2026年1月~3月の営業利益が前年同期間比でおよそ1.4倍に拡大しています。2025年4月と8月に一部メニューの値上げを行った牛丼チェーンの松屋フーズホールディングスは、2025年度の営業利益が同1.7倍超となっています。
ハンバーガーや牛丼などのファーストフードは、デフレ下で低価格競争を繰り広げていたため、値上げする余地がありました。また、巨大チェーンは高シェアを獲得している業界リーダーであるため、価格を上げても客足が衰えづらいという特徴があります。
一方、もともと価格帯が高い業態では、これまでに何度も価格改定を行っていれば、追加の値上げ余地は限られます。地域の個人店や小規模チェーンでは「安さ」を軸に集客しているケースも多く、人件費や原価の高騰によって利益が失われることになりやすいのです。
先ほどの焼肉店のオーナーは以下のように話します。
「すでにメニューの値上げは一服しており、これ以上の価格転嫁は難しいでしょう。円安で牛肉の仕入れ価格は上昇し、人件費の高騰が加わっている状況です」
背景には、焼肉需要そのものがピーク時から落ち着きをみせていることがあります。
以下のグラフは、Googleトレンドで「焼肉」の検索需要の推移を調べたものです。Google検索において、日本で焼肉関連のキーワードがどれだけ検索されているのかを示しています。

検索需要は2023年3月にピークとなる100を記録しましたが、2026年6月には70まで落ち込んでいます。2023年にはコロナ禍のリベンジ消費が盛り上がりをみせており、家族など大人数で楽しく食事ができる焼肉業態に人気が集まりました。
しかし、ピークを過ぎて今は落ち着きを取り戻しています。こうした状況下、原価や店舗運営費が上がっているからといって値上げをすれば、客は他店に流れることになりかねません。需要が軟調な時期は、コストではなく競合を見極めながら売価を決めるのが経営の基本戦略とも言われます。人件費の高騰は店舗の負担として吸収しなければならないのが実情でしょう。
ココイチが急ぐ「多ブランド・多エリア化」戦略

値上げによって収益力を高めてきた大手企業でも、急ブレーキがかかった会社もあります。代表的なのが、「カレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)」の壱番屋です。ココイチの客単価は2019年2月期が930円あまりでしたが、度重なる値上げで2026年2月期は1,259円まで上がりました。
価格改定効果により、ココイチは2022年2月期から4期連続で増収、営業増益となりました。しかし、2026年2月期は4%超の営業減益。2026年3月~5月は14%も営業利益が減少しています。客単価が上昇する一方で、値上げによって客数が減少し、価格を引き上げるだけでは十分な売上を確保できなくなっているのです。
こうした状況のなか、壱番屋はブランドの多角化と海外展開を加速しました。国内ではジンギスカンやもつ鍋、ラーメンなどのブランドを展開しています。2025年12月には夜パフェ専門店も買収しました。
カレーショップは台湾やタイ、韓国、香港、アメリカなどに精力的に出店をしています。ひとつの業態、ひとつの市場だけに頼るのではなく、「多ブランド化」と「多エリア化」によって新たな成長機会を生み出そうとしているのです。
インフレは飲食店の経営戦略を大きく変化させました。値上げが一服すると、他の企業も似た動きをするかもしれません。しかし、M&Aや海外出店ができるのも、資本力がある大手企業ならではのものでしょう。規模の小さい会社は価格転嫁を十分にしきれず、コスト高の影響に粛々と耐えるしかありません。
飲食店の競合がスーパーの総菜という時代に

飲食店にとっての逆風は、人手不足やコスト高だけではありません。2027年4月から実施される予定の減税策も、外食業界にとって新たな懸念材料となりそうです。
高市政権は2年間限定で食料品の消費税を8%から1%に引き下げることを決定しました。日本フードサービス協会などの業界団体は、飲食店が置き去りにされることに対して危機感を表明しています。外食の需要喚起策として、プレミアム商品券など飲食店の支援策を採用するよう求めているのです。
しかし、具体的な話が進んでいるようにはみえません。食料品の消費税が引き下げられると、1,000円の食事が飲食店では1100円、スーパーなどでの購入であれば1010円となります。飲食店でも持ち帰りの場合は1%の軽減税率が適用されますが、焼肉や居酒屋、ラーメンなどの業態はテイクアウトに適しておらず、軽減税率に対応しづらいという特徴があります。
そこで、今回の減税によって存在感を増しそうなのが、スーパーなどで販売される「総菜」です。このカテゴリーは大手各社が開発に力を入れてきました。
イオンは2024年に総菜部門の体制を刷新。メーカーからの仕入れから自社製造へと切り替える方針を打ち出しました。組織内にデリカ商品統括部を新設し、開発スピードを向上させたのです。この年に新たな総菜工場が稼働を開始し、総菜の販売能力は2割上がりました。
2026年3月にはイオンの新ブランド「フードスタイル三田点」がオープンしています。このブランドは共働き世帯に向けて総菜の品揃えを強化しています。今後は「ダイエー」や「ピーコックストア」などのブランドを順次切り替える計画との声もあります。
さらには、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも総菜を強化しています。2026年3月に食品を強化した新店舗「ロビン・フッド」を展開すると発表しました。総菜を手頃な価格で提供し、共働き世帯や若年層の取り込みを狙っています。
こうした動きを考えると、今回の減税は単純に「消費者の負担が軽くなる」というだけではありません。外食と中食の価格差を広げ、消費者の食事の選択肢を変える可能性があります。なかでも特に影響が懸念されるのが、居酒屋です。
減税によって総菜の優位性が高まった場合、外食需要がさらに減少する可能性があります。人件費などのコスト高が重なれば、店舗を維持することができなくなってしまうかもしれません。
飲食店は人材不足という難局にいかに立ち向かうべきか

飲食店が十分な集客力を維持するためにも、人材不足を中長期的な視点で解決しておかなければなりません。どこに原因があるのかをつかみ、適切な対応をする必要があります。
飲食店のスタッフが離れてしまう理由は大きく3つに集約するとされています。それが「待遇への不満」「スタッフ同士のコミュニケーション不足」「就労後のサポート不足」です。
飲食業界では長時間労働で深夜に働くことも珍しくありません。心身ともに疲弊すれば、たとえ現在の時給が極端に低くなくても、より働きやすい環境を求めて転職を考えるようになります。また、スタッフによって指示内容にバラつきがあり、忙しい時間はコミュニケーションも不足したりすることもあります。
体力・精神的にもキツい仕事が多いため、強いストレスを抱えるスタッフも少なくありません。社員や店長も忙しく、スタッフの変化に気づけず、十分なケアができないまま離職につながってしまうのもよくあるパターンではないでしょうか。
特に、小規模の外食企業は慢性的な人手不足で、スタッフが辞めたら採用するというサイクルを繰り返しがちです。これによって採用や教育の基準が統一されておらず、現場や店長などの感覚に任されてしまうことになります。業務も現場をまわすことだけに限定せず、スタッフには集客に力を注いでもらうことが重要ではないでしょうか。
最近ではInstagramやTikTokなどのSNSが集客ツールとして力を発揮しており、Googleマップの口コミを重視する顧客も多くなりました。アイドルタイムなどの空き時間を使ってSNSの運用を手伝ってもらえば、店のことを知る機会が増え、店舗への愛着につながることもあります。短期的な目線ではなく、中長期で業務をマニュアル化することが重要だと言えるでしょう。
「特定技能2号」への移行サポートという選択肢も

外食の「特定技能1号」の受け入れが再開されるかどうかは、現時点では見通せません。農林水産省と出入国在留管理庁が人数枠に十分な余裕があるかなどを見極め、必要に応じた措置を講じるものとみられています。
一方、飲食店ですでに特定技能の外食の在留資格で働いている人を、別の店が中途採用することは可能です。特定技能外国人の求職者にアプローチするエージェントもあります。
また「特定技能1号」の受け入れは停止しましたが、2027年度以降には在留資格「育成就労」が導入される予定です。新たに設けられる制度ということもあり、現時点では詳細な情報が限られていますが、人材不足を解消する一手となる可能性もあります。
そして何より重要なのが、すでに雇用している特定技能1号の人材を、いかに長く働いてもらうかではないでしょうか。
特定技能1号は通算在留期間の上限は5年と設定されており、5年後には日本を出国しなければなりません。しかし、「特定技能2号」に移行すれば上限はなく、更新許可を受ければ働いてもらうことができます。店舗管理や衛生管理など、「特定技能1号」よりも難しい試験対策が必要ですが、経営側がサポートをすることで移行を実現できる可能性も考えられます。
飲食店は人材の育成と定着に対して、本腰を入れなければならなくなりました。人手不足を乗り越え、事業を継続していくための取り組みが今まさに求められています。





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