
学校のチャイムが鳴り止み、待ちに待った夏休みが始まった。休暇や部活動に胸を躍らせる子どもたちがいる一方で、ある特定の「街」に引き寄せられる若者たちがいる。新宿・眠らない街、歌舞伎町にある通称「トー横」だ。
かつては「居場所のない少年少女が自然発生的に集まるコミュニティ」としてメディアに大きく取り上げられたこの場所だが、2026年夏の今、その姿は大きく変化している。本記事ではトー横の現状を取材し、裁判官経験を持つ弁護士に補導や犯罪に子どもが直面した時の対処法を聞いた。
<目次>
物理的な排除が進む「トー横」のいま

イベントで賑わうトー横(2026年7月21日)
「かつてのように、何十人ものトー横キッズが地べたに座り込んでたむろする光景は減ってきましたね」
そう語るのは、歌舞伎町など都内で夜回り活動を続ける関係者だ。新宿区と警視庁はここ数年、トー横エリア(TOHOシネマズ新宿の周辺、歌舞伎町シネシティ広場など)の取り締まりを劇的に強化してきた。広場周辺には物理的なフェンスが設置され、監視カメラがくまなく配置されている。
2026年に入り、行政は「たむろしにくい環境づくり」を徹底している。たとえば、地域住民や商店街と連携して広場でのキッチンカーの試験営業を行ったり、明るい街頭イベントを定期的に開催したりするようになった。新宿区・警視庁・東京都が連携して旅館・ホテル等への立入りなども行っている。
筆者が現場を取材したのは2026年7月21日。歌舞伎町シネシティ広場にて歌舞伎町ストリートサイファー主催のストリートダンスイベントが催されていた。歌舞伎町観光を楽しむ外国人の姿も多く、新宿区が委託した民間業者による見回りの姿も見られた。一般の観光客や会社員で賑わうオープンスペースへと街の姿を変えることで、子どもたちの「たむろするスペース」を物理的に奪う作戦が進んでいるようだ。
しかし、一見するとクリーンになったように見えるこの街の裏側で、問題は解決するどころか「より見えにくい形」で深刻化している。
地下に潜る子どもたち

路上で男性を待つ少女が多かった東京都立大久保病院も今は静かな様子(2026年7月21日)
警察や行政の目が厳しくなったことで、子どもたちはトー横からいなくなったわけではない。彼らは外部から見えない「地下」へと活動の場を移しているとされる。たとえば歌舞伎町周辺のラブホテルや、SNSを通じて知り合った人物のマンションなどの場所だ。
広場などに子どもたちが集まっていた頃は、まだ大人の夜回りグループや警察の補導員が子どもたちの様子を視認できた。しかし、ひとたび鍵のかかった密室に入り込んでしまえば、外からその実態を把握することは極めて困難になる。
「地下化」に目をつけた悪質な大人たちも少なくない。2026年7月、歌舞伎町の路上やホテルを拠点にしていた暴力団組員の男が、10代の少女に対してアイスピックのような刃物を突きつけ、金品を脅し取ったとして強盗致傷の容疑で逮捕された。男は複数の少女に言葉巧みに近づき、逃げられない状況を作ったうえで覚醒剤などの違法薬物を使用させていた疑いでも捜査を受けている。
なぜ「補導」が必要なのか、少年事件を見つめる弁護士に聞く

こうした子ども達の危険を守る「防波堤」となるのが、警察や補導員による少年補導だ。しかし、一般の保護者にとって「補導」という言葉は、どこか我が子が犯罪者扱いされたかのように受け止められがちである。
そこで、2026年4月、裁判官(判事補)から弁護士へ出向という形で世田谷用賀法律事務所に入所し、少年事件の審判に携わった経験を持つ弁護士の志村敬一氏に、補導の必要性や保護者が非行に直面した際の相談先について伺った。
――そもそも「補導」とはどのような制度なのでしょうか。逮捕との違いも含めて教えてください。
補導は少年を処罰するための手続きではありません。今回のようなケースで指す非行とは、犯罪そのものというより、犯罪につながりかねない不健全な状態を指すことが多く、補導はそれを未然に防ぐための警察活動として位置づけられています。繁華街や公園などで対象となる少年を発見した場合、事情を確認したうえで注意や指導、保護者への連絡などを行う、いわば任意の活動です。
一方、逮捕は『犯罪を行った疑いがある者の身柄を拘束する刑事上の強制処分』であり、原則として裁判官の発する逮捕状に基づいて行われます。対象となる行為の重さも手続きの性質も、補導とは根本的に異なるのです。補導というと、荒れた子どもたちをイメージされる保護者の方が多いと思いますが、あくまで犯罪を未然に防ぐための方法です。
――深夜に徘徊する子どもたちには、どのような背景があるのでしょうか。裁判所でのご経験も踏まえて伺えますか。
非行というと「家庭が荒んでいる」「経済的に困窮している」というイメージを持たれがちですが、実際にそこまで深刻なケースはそれほど多くありません。むしろ、「自分自身を否定されない」「干渉されずに今の自分をそれなりに尊重してくれる」そういった居心地のよさを求めて、気づけばその場所に流れていった、というケースが少なくありません。
同時に、発達障害の特性を抱えながらも、医療機関につながれていない子どもたちの存在も否定できません。子ども自身が親や学校に助けを求めることの難しさ、保護者がそれを見過ごしてしまう事情など、さまざまな要因が絡み合って、必要な支援につながれないまま行動だけが表面化してしまうことがあります。粗暴だというレッテルを貼る前に、その背景に目を向ける必要があるでしょう。
――保護者が我が子の異変に気づいたとき、どこに相談すればよいのでしょうか。
まず頼りになるのは学校です。担任の先生や学年主任、スクールカウンセラーなど、子どもが一日の大半を過ごす場所とのつながりは欠かせません。加えて、本人の特性に応じた心理的・医学的アプローチができる医療・児童心理に精通した機関に相談していくことも重要です。家庭だけで抱え込むと、保護者も行き場を失う可能性がありますから。
少年事件の現場では疲弊しきった保護者の方にもよくお会いします。すべてを家庭で解決しようとするのではなく、専門機関につなげる、いわば橋渡し役に徹していただくことも大切です。
――トー横周辺はもちろんですが、夏休みは全国で子どもたちの非行が話題となります。これからの社会において、子どもたちの受け皿や更生はどうあるとよいでしょうか。
少年に必要なのは一方的な正論ではなく、本人と一緒に現実的な道を探る姿勢ではないでしょうか。「悪い友達と関係を切れ」と言っても、切った先にどう生きるかを示さなければ行き場をなくしてしまいます。
調査官や付添人、保護司など、それぞれの専門性を持った大人が継続的に関わり、真剣に向き合い続けることが大切です。自分に真剣に向き合ってくれる人がいると、子どもたちも徐々に心を開いてくれることがあります。
単発の介入で終わらせず、信頼関係を築きながら伴走する仕組みこそが、これからの子どもの居場所づくりに求められているのではないでしょうか。
志村 敬一(しむら・けいいち)

弁護士(世田谷用賀法律事務所・東京弁護士会)。司法修習73期。判事補として東京地裁・東京家裁を経て、静岡家裁浜松支部判事補。少年審判にも携わった経験を持つ。現在は判事補から弁護士職務経験法に基づき弁護士として活動。










-150x112.png)







-300x169.jpg)