
経済産業省は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた中核と位置づける洋上風力発電の普及を確実にするため、開発事業者に対する公的な支援制度を抜本的に強化する方針を固めました。2026年7月の有識者会議で提示された案によれば、すでに事業者が決まっている国内の6計画を対象として、建設費などに充てる支援の上限額を従来の1キロワット当たり約20万円から、最大となる九州エリアの70万1172円(約3.5倍)へと引き上げます。
この新たな支援制度は、脱炭素電源への新規投資を促すために導入された入札制度「長期脱炭素電源オークション」の枠組みを活用するものです。電力の供給価格をゼロ円に変更し交付金を辞退する「ゼロプレミアム案件」の事業者を対象に、運転開始から原則として20年間にわたり、落札金額に応じて容量収入を支払う仕組みとなっています。
具体的な上限価格の案として、第3回入札では全エリア共通のしきい値として1キロワット当たり年額約18万から20万円に抑えられていました。しかし第4回入札案では、地域ごとの設備利用率や物価変動を反映させ、最も高い九州エリアで70万1172円(約3.5倍)、中国エリアで558,286円(約2.8倍)に設定されたほか、最も設定額が低い四国エリアでも345,220円(約1.7倍)へと全域で上限額が大幅に増額されています。
一つのプロジェクトで数千億円もの巨額な初期投資が必要とされる洋上風力発電において、世界的なインフレや円安進行による建設工事費の高騰は深刻な課題となっていました。今回の支援額の引き上げは、コスト増加に苦しむ事業者の投資予見性を高め、計画の頓挫を防ぐための緊急的な防波堤として機能することが期待されています。
また、エネルギー基本計画において国は、2040年度までに全電源の4〜5割を再生可能エネルギーとする野心的な目標を掲げています。その「切り札」となる洋上風力発電は、部品点数が数万点に及ぶなど裾野が広く、国内サプライチェーンの構築による経済波及効果も大きいため、国策としての確実な実行と手厚い事業者支援が急務となっていました。
事業撤退の連鎖防止と、電気料金への転嫁という新たな課題
政府が異例とも言える手厚い支援策に踏み切った背景には、2025年に三菱商事を中心とする企業連合が表明した、大型プロジェクトからの全面撤退という衝撃的な出来事があります。同連合は秋田県や千葉県沖の3海域の事業を上限額を大きく下回る価格で落札したものの、その後の資材価格の高騰や地盤調査の難航により、風車価格が入札時の約2倍に膨らむなど採算性が悪化し、撤退を判断しました。この撤退劇が他の開発事業者にも波及し、日本の洋上風力市場全体が冷え込む事態を食い止めることが、今回の制度強化における最大の眼目です。
一方で、本支援制度の財源に充てる拠出金は、電力の小売事業者が集める電気代を基盤としています。事業者は運転開始後に利益の9割を認可法人を通じて小売事業者に還付する必要があるため、初期投資を抑えつつも過剰な利益は生み出さない設計となっています。しかし、初期段階での巨額な拠出は避けられず、支援額の上限を最大3.5倍に引き上げることは、回り回って国民や企業の電気料金の値上げにつながる可能性を孕んでいます。脱炭素社会に向けた電源構成の転換という国家的目標の達成と、国民負担の抑制という二律背反の課題をどのように制御していくのか、今後のきめ細かな制度運用が強く求められています。












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