
専門的な技能を持った外国籍の人材を特定の産業分野で受け入れる特定技能制度。その制度を活用する企業は年々増加しています。一方で、外国人材の受け入れを取り巻く制度環境は大きな転換期を迎えています。技能実習制度は2027年4月に育成就労制度へ移行し、育成期間中の技能・日本語能力の向上を制度的に求める仕組みになります。
さらに2026年5月、厚生労働省は「外国人労働者とその家族への日本語学習機会の提供」を、事業主の努力義務とする指針改正を告示しました。こうした動きの背景には、在留資格・分野ごとに求められる日本語能力の明確化が進んでいることがあります。
技術・人文知識・国際業務では一部の対人業務等についてB2(JLPT N2相当)、特定技能1号では原則A2(N4相当)、育成就労では入国時A1(N5相当)を起点にA2を目指すなど、日本語能力と在留資格・就労要件との紐づきが強まっています。企業側に日本語学習支援の努力義務が課されたことも、この流れを後押ししています。
企業はどのように外国籍の人材を採用し、定着させていけばよいのでしょうか。35年以上の歴史を持つ総合日本語教育機関「TCJ日本語学院」を運営する株式会社TCJグローバル代表取締役・中澤匠氏に話を聞きました。
<目次>
「日本語の壁」が現場で引き起こすこと

現在、外国籍の人材の採用面接では、コミュニケーション能力が重視されているといいます。しかし、「その判断基準には落とし穴がある」と中澤氏は指摘します。
「自己紹介や志望動機は準備できますし、いまや生成AIを使えばなおさら。面接の場でのコミュニケーション能力は、ある程度作れてしまいます。一方で企業側が面接にかける時間は、日本人採用と比べて明らかに少ない。現地で集団面接をして一人5分ほど話して、まとめて採用を繰り返している日本企業は珍しくありません」
双方の意思疎通が不十分なまま採用が進むと、入社後にミスマッチが生じます。中澤氏が特に問題視するのが「評価フィードバック」の場面です。改善点を伝えようとした際に認識のズレが露わになり、自己評価と企業側の評価が乖離したままのケースが、現場では繰り返されてきたといいます。
「言語力がネックになって、昇進も給与アップも難しくなってしまう。それが最終的に、帰国という選択につながってしまうのです。ただ、離職の引き金は日本語力だけではありません。外国籍の従業員に悩む企業ほど、入社後のサポートが足りていないのが現実です」
その一例として、企業からの支援を受けて日本語を学ぶ従業員の少なさを挙げます。中澤氏が代表を務めるTCJグローバルが運営する社会人向け日本語講座の受講生の7割は自費で講座を受けているそうです。
「日本人が英語を学ぶ際は企業の補助があるのに、外国人の日本語学習への支援は後回しになりがちです。仕送りのために来日したのに、自費で日本語を学び続けなければならない。企業の無関心が、働く人の矛盾を生み出しています」
「量を採る」戦略が通用しなくなった理由

企業は一定の離職者数を見越して外国籍人材の採用を続けてきました。しかし、従来のような大量採用は難しくなりつつあります。
外食業では受入れ見込数53,000人に在留者数が近づいたことから、2026年4月以降、新規の特定技能1号の受入れについて、原則として不許可とする運用となっています。高度な受け入れ枠の縮小を現場で肌感覚として捉えてきた中澤氏は、介護や宿泊といった職種でも同様の傾向が出始めていると語ります。
「介護や宿泊でも、今後同じような制約が起きる可能性を懸念しています。特定技能という仕組みに対して、サステナブルな採用計画を立てていくのが難しい時代になりました」
中澤氏の取引先でも、採用より育成へと軸を移す動きが出始めています。ある大手外食チェーンでは、社内の特定技能人材を中長期的な戦力として育てていく方針を打ち出しました。
「日本に来る前に日本語教育を受けていないと、外国籍の人材を雇用し続けることもできない時代になりました。技術・人文知識・国際業務の在留資格でも、2026年から、主に日本語を使った対人業務等に従事する一定の申請者について、N2相当の日本語能力を求める運用が明確化されています。日本企業は、外国人の人材への教育投資を経営課題として捉え直す必要があります」
また、外国籍人材の教育投資を進めない場合、ガバナンス上のリスクに発展する可能性もあると指摘します。
「外国籍の人材への教育投資に対する、社会的な要求水準は上がっています。今後、上場企業においては、サステナビリティレポートなどで外国籍人材への教育状況が問われることも考えられます。そうした意味では、教育への対応がガバナンス上の論点になっていく可能性もあると考えています」
現場任せをやめる。企業が今から始められること

「職場のロイヤルティを高める働きかけや丁寧なフィードバックをしている企業は、人材の定着につながっています」と中澤氏は指摘します。では、企業は外国籍の人材の定着に向けて何から始めればよいのでしょうか。中澤氏は、以下の2点を挙げました。
- 社内に、外国籍の人材の育成を専門に担う人材を設置する
- 日本語教育への予算を、日本人と同水準に引き上げる
「日本人の採用・労務管理を担う人事機能はあっても、外国人の人材育成を考える担当者を置いている企業はほとんどありません。費用補助の仕組みひとつとっても、本人がリクエストして初めて検討が回るケースがほとんどで、制度として設計されていない状態です」
外部の教育機関を活用するか、社内で教えられる人材を育てるか。手段は問わない。中澤氏が訴えているのは、外国籍の人材を日本人と同じ目線で捉えるという、ただその一点です。日本を選んで来てくれた方々が、職場で力を発揮できる環境をつくること。その積み重ねが、外国籍の人材の定着率向上のみならず、企業の成長にもつながっていきます。

中澤匠
パスメイクホールディングスのグループCEO、総合日本語教育機関TCJグローバルの学院長 兼 CEO、国際資格・学位のアビタスCEO。
パソナを経て、リクルートで求人・人材エージェント事業、国内旅行事業(じゃらん)の企画業務を経験。2012年から東南アジアの旅行事業を担当。インドネシアのトラベル事業Pegipegi.comの立ち上げ、フィリピンでもトラベル事業Travelbook.phを経営。2020年から現職












-300x169.jpg)