SNSの「弱いつながり」が社会を分断する?最新研究が暴く“多様性”の罠

SNSの「弱いつながり」が社会を分断する?最新研究が暴く“多様性”の罠

SNS時代の「弱いつながり」は異なる価値観への接触と新たな気づきをもたらす一方、社会の分極化を招く懸念があることが最新の研究で指摘されている。「弱いつながり」には社会経済的地位の比較があり、考えの違いではなく身分格差に基づく分断をもたらすという。

<目次>

SNSの人間関係の多くが「弱いつながり」

SNSの人間関係の多くが「弱いつながり」

家と学校や職場の往復で成り立っていた昭和時代の人間関係が場合によっては懐かしくも感じられてくるのだが、振り返ってみれば毎日満員電車に揺られているだけで、きわめて閉ざされた環境で過ごしていたことが痛感されてくる。自分と近しい周囲とは異なる属性の人々の暮らしについて想像力が及ばず、広い観点から社会を見ることがきわめて困難な時代であったと言えそうだ。

固定化された人間関係はメンタルの安定にもつながり、集中力を高め作業の効率化にも寄与するが、その一方でマンネリ化やモチベーションの低下などを招きやすい環境でもある。

近年では、新たな人間関係として“弱いつながり”が注目されている。固定化された濃密な「強いつながり」とは異なり、違う価値観に自由に触れられるのが大きな特徴だ。思いがけない情報が飛び交うことで、新たな気づきや視点を得られる点が高く評価されている。こうした関係構築が容易になった背景には、SNSの普及が大きく影響している。

SNSの活用により、「弱いつながり」が比較的容易に得られる時代を迎えている。しかし、そこには思いもよらない“落とし穴”があるとする新たな研究が報告された。SNS上で「弱いつながり」が増えることで、かえって社会の分極化がさらに促される懸念があるという。

ポーランド・ワルシャワ工科大学、スイス・チューリッヒ工科大学、米・コーネル大学の合同研究チームが、今年6月に米科学誌「PNAS」で研究結果を発表した。同研究によると、人々を結びつけるはずのソーシャルネットワークが、実際には社会の分極化を助長する可能性があるという。その理由は、ネットワーク内で増え続ける人間関係の多くが、「弱いつながり」で構成されているためだ。

“弱いつながり”の増加が社会の分極化を促進

“弱いつながり”の増加が社会の分極化を促進

今回の研究は、ウィーン医科大学のステファン・サーナー氏らによる2025年の先行研究「Why More Social Interactions Lead to More Polarization in Societies(なぜ社会的な相互作用の増加が社会の分極化を招くのか)」を検証した後続研究である。

先行研究では、社会的な相互作用の増加が分極化を拡大させる可能性があると提唱された。その際の重要な仮定のひとつは、ソーシャルメディアやスマートフォンの普及によって、欧米社会において親密な友人関係の数が増加したことによるものであると説明されている。

しかし、この仮定に対しては社会科学者から疑問が呈されている。これまでの研究でも、濃密な人間関係の増加は裏付けられていないと指摘されているのだ。

ワルシャワ工科大学物理学部のピョートル・ゴルスキ氏とヤヌシュ・ホリスト氏、チューリッヒ工科大学のジャコモ・ヴァッカリオ氏、コーネル大学のマイケル・メイシー氏による今回の研究では、新たな見解が示された。

同研究では、現代の通信技術によって対人接触の機会が増加し、それが分極化の拡大に寄与し得ることは認めている。しかし、その根本的なメカニズムは、親密な友人関係といった「強いつながり」の増加によるものではないことが示されたのである。

事実は逆で、増えているのは「弱いつながり(weak ties)」の方であり、「弱いつながり」こそが、社会経済的地位に基づく階層構造を形成しやすく社会の分極化を招く原因となっているのだ。

研究チームは、約30のソーシャルネットワークから得られた実証データを分析した。個人の行動や人々の交流を再現するシミュレーションモデルを用いて検証した結果、分極化に至るメカニズムが浮き彫りとなった。

今回の研究で最も重要な論点は、「弱いつながり」に関わる地位主導の力学(status-driven dynamics)がもたらす分極化効果であるという。地位主導の力学とは、人間関係や意見、そして社会の分極化が、身近な対人関係ではなく相対的な「社会的・経済的地位」によって形成されるプロセスを指す。

価値観を深く共有する「強いつながり」では、相手の地位や身分はあまり気にならない。しかし、「弱いつながり」においては、価値観や考えを共有していないぶん、相手の地位が大きな意味を持ってくる。お互いの地位を比較せざるを得ない人間関係がSNS上で増えれば、人的交流の分極化が進むのもうなずける。

研究チームによれば、「弱いつながり」がもたらすのは“構造的な分極化”であり、“政治イデオロギーの分極化”とは異なるという。この構造的な分極化が進むことで、社会の分断はより深く、深刻なものになると考えられている。なぜなら、分断の根本的な原因が「考え方の違い」ではなく、「社会的・経済的な地位の違い」という身も蓋もない現実にあるからだ。

求心力を失う昭和的ドクマティズム

求心力を失う昭和的ドクマティズム

新興宗教、極左政党、右翼団体などはまさに昭和という時代を体現しているように思える組織だが、ご存知のように現在は衰退が著しい。もちろん社会の高齢化などもその背景にはあるが、もうひとつの理由にはやはり人的交流の変化があるのではないだろうか。

それらはいずれも、リーダーのカリスマ性や強い結束力が前提となる組織である。人間関係が限定されていた昭和時代には、こうした組織もうまく機能していた。しかし、「弱いつながり」が増え、普通の人々の暮らしが可視化された今日では状況が異なる。宗教やイデオロギー、あるいは企業理念といった絶対的な教義(ドグマティズム)が求心力を失っていくのは、ある意味で自然な流れと言えるだろう。

ドグマティズム(独断論、教条主義)が求心力を失う背景には、大きく2つの理由がある。ひとつは、社会の変化のスピードが速くなり、絶対的な正解や古い教えが現実の課題にフィットしなくなったことだ。そしてもうひとつは、多様な価値観が認められる現代において、一方的な価値観の押し付けが人々の共感を得られなくなっているためである。

また、昭和の時代に数多く存在した“国民的アイドル”が姿を消して久しく、今後も現れることはまずないのだろう。

「弱いつながり」には分極化や分断という落とし穴があるにせよ、現実を直視するという意味で、社会の透明性は増してきているのも事実だ。インターネットとSNSの普及にはさまざまな問題がある。

しかし、人類社会の成熟、ひいては進化に向けた大きな役割を現在進行形で果たしているのかもしれない。ある意味では、夢を見られない世知辛い時代になったと言える。一方で、イデオロギーやプロパガンダによって人々を操作しようとする悪意からは、距離を置ける時代を迎えたのである。

今回の研究は、社会の分極化を理解するには、単に人間関係の量を測るだけでは不十分だと示している。それと同時に、関係の強さや性質を考慮することが重要であると示唆しているのだ。社会的接触が多いからといって、必ずしも社会的な結束が強まるわけではない。親密に支え合う「強いつながり」か、それとも知り合い程度の「弱いつながり」か。どちらを重視するかで、当人の人間関係の様相は大きく異なってくるだろう。

研究チームによれば、地位主導の力学を増幅させ、社会の分極化を助長するのは「弱いつながり」のほうである。したがって私たちは、「弱いつながり」ばかりを築くことには、もっと慎重になるべきだ。関係の強弱にかかわらず、自分の人生に真の意味をもたらす人間関係を増やしていきたいものである。

※研究論文
More connections, higher polarization: The role of weak ties and status-driven dynamics

仲田しんじフリーライター

投稿者プロフィール

雑誌編集者などを経て1999年よりフリーライターとして活動。現在はweb媒体がメイン。サイエンスからオカルトまで幅広いテーマで執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。

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