
スポーツ観戦で好きなチームが勝って、気分が晴れやかになった経験はありませんか。
そういった喜びや熱狂が、認知症の症状改善につながるかもしれないという研究が発表されました。
とくにプロ野球のように長期間にわたって応援し続けるスポーツは、日々の生活にハリや目標を与えてくれます。馴染み深いチームの活躍が、患者さんの記憶や感情を刺激し、心身によい変化をもたらすというのです。
今回は、好きなスポーツチームの優勝が、認知機能の低下とそれに伴う行動・心理症状の関係に与えた影響について調べた研究を紹介します。
阪神タイガースが優勝したことで、阪神ファンの認知症に伴う行動・心理症状がどう変化したか
今回紹介する文献は、2026年5月に『Geriatrics & Gerontology International』に掲載された、大阪府枚方市の「脳神経内科はつたクリニック」、初田裕幸氏らの研究チームによる論文です。
1.阪神タイガースの優勝がBPSDを改善!?
「2023年の阪神タイガースのリーグ優勝が、阪神ファンの高齢認知症患者のBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)を大きく改善した可能性がある」と初田裕幸氏らが明らかにしました。
2.論文
BPSDとは、認知症に伴ってあらわれる暴言、暴力、徘徊、抑うつ、不眠などの行動・心理症状のことです。疾患に起因する遺伝的要因や神経生物学的要因に加えて、心理学的要因や社会的要因が絡み合って出現するといわれています。
関西地方の認知症患者855人のうち、 「阪神タイガースファン」と確認された人の中から、2023年優勝の前後で症状を比較
【研究背景と目的】
認知症治療においては、薬物療法だけでなく、ポジティブな感情体験や社会的な関わり合いといった非薬物療法がBPSDを軽減することが指摘されてきました。
研究チームは、熱狂的なファンが多いことで知られる「プロ野球の試合結果(とくに優勝という大きなイベント)」が、高齢の認知症患者さんの精神状態や行動にどのような影響を与えるのかを科学的に調査しました。
【研究方法】
関西地方に在住する認知症患者855名を対象に、プロ野球の試合結果とBPSDの変化との関連性を検討しました。対象者のうち、お気に入りのチームに強い愛着を持つ高齢者を抽出し、2023年のセントラル・リーグ優勝の前後で、BPSDのスコアがどのように変化したかを調べています。
【研究結果】
調査の結果、阪神タイガースファン19名において、2023年のリーグ優勝後にBPSDスコアの大幅な低下(症状の改善)が確認されました。さらに症状別のサブカテゴリー分析では、攻撃的・侮辱的な言葉、無関心・無気力、興奮・焦燥、昼夜逆転、抑うつ・憂鬱な気分において、有意な減少が認められました。これらの結果は、感情的に意義のあるスポーツイベントが、チームに強い愛着を持つ認知症患者さんのBPSD好転に関連している可能性を示唆しています。
好きなチームの優勝というポジティブな経験がファンのBPSDに好影響した可能性
本研究は、サブグループの対象規模が限られている点や、後ろ向きの探索的研究というデザインの特性上、限界もあります。また、症状改善の理由には、優勝以外の要因が影響している可能性も否定できません。
しかし、注目度の高いイベントでのスポーツ観戦が、認知症ケアにおける行動症状に測定可能なよい影響を与える可能性を示した点は意義深く、今後の前向き研究でさらに検討していく必要があると述べられています。
いずれにしても、家族や介護者にとって負担の大きい症状が改善したのであれば、素晴らしいことであると考えます。
日常の喜びは心のクッション
今回の研究は、夢中になれるものがあることの素晴らしさを教えてくれます。スポーツ観戦に限らず、音楽を聴くこと、趣味に没頭すること、ペットと触れ合うことなど、心から楽しめる時間を日常に取り入れることは、立派な治療やケアになります。ご自身やご家族が笑顔になれる時間を、日々の生活で大切にしてみてください。
ご家族などと一緒に試合を観戦し、喜びや興奮を分かち合うこともできれば、患者さんの孤独感を和らげ、コミュニケーションを促すきっかけにもなります。周囲の人々との温かい関わり合いが、心身の安定をさらに後押しするでしょう。














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