
「閉店するので、在庫を格安で販売します」
SNS上で、実在する店舗などになりすまし、「閉店セール」と称して商品を販売する投稿が相次いでいます。店舗の写真やロゴを使い、閉店を理由に商品を格安で販売するとして、購入希望者をDM(ダイレクトメッセージ)に誘導。個人名義の口座への振り込みや、スマートフォン決済などを求めるケースもあります。
一見すると「お得な情報」に見える投稿ですが、なぜ、同じような手口が広がっているのでしょうか。そして、「怪しい」と感じながらも、なぜ私たちは信じてしまうのでしょうか。
SNSやネットトラブルに詳しいITジャーナリストで成蹊大学特別客員教授の高橋暁子氏に話を聞きました。
<目次>
なぜ「閉店セール」が詐欺のトレンドに?

高橋氏は、なりすまし詐欺が相次いでいる理由について、「詐欺グループの間で『この手口は騙せる』という情報が共有され、ひとつの『トレンド』になっている」と指摘します。
「警察官のなりすまし詐欺などと同じです。新しい手口が世間に広く知れ渡るまでには時間がかかります。その間に、被害が急増してしまうのです」
では、なぜ私たちは不審に思いつつも騙されてしまうのでしょうか。高橋氏は、「閉店セール」や「農家の格安販売」といった言葉には、人々の警戒心を解く巧妙な心理的仕掛けがあると語ります。
「こういった話には説得力があるうえに、善意ある行動を促します。投稿を見た人は『お得だ!』とうれしさを覚えます。感情が揺さぶられることで冷静な判断ができなくなるのは、詐欺の典型的な手口です。」
さらに厄介なのが、実在する店舗や人物になりすますケースです。これまでのSNS上では、芸能人や著名なインフルエンサーになりすます詐欺が目立っていました。しかし、現在は、地方局のアナウンサー、中小企業の社長、さらには一般の人などになりすますケースもあるといいます。
「著名人の場合、何万人、何十万人とフォロワーがいます。フォロワー数が少ないと見破られやすく、なりすますのはなかなか難しい。でも、小規模なアカウントのなりすましはすごく簡単なんです」
SNS上の写真を転載したり、生成AIなどで加工して投稿したりすることで、もっともらしいアカウントが完成します。
「ある程度のフォロワー数がいたり、いいねがついていたり、過去の投稿があったりすると、それだけで『本物っぽい』と感じてしまうんです。『まさか、そんな人たちがなりすまされるわけはない』という意外性と、実在する人だからこその信頼性を逆手に取っているのだと思います」
詐欺かどうかを見抜く3つの注意点

現代では生成AIを活用すれば、大量のアカウントを運用できます。数千円、数万円程度の詐欺を大量に積み重ねることで、利益を得ようとしているのです。
「『小口だから詐欺ではない』『こんな少額を騙すわけがない』と考える人もいるでしょう。しかし、生成AIでなりすますコストが下がっているので、小口でも確実に騙せれば十分利益につながるのです。」
では、どのように怪しい投稿を見抜けばいいのでしょうか。高橋氏は3つの注意点を挙げました。
ひとつ目が、販売方法について。
「Webで商品を販売している事業者は販売サイトなどを用意しています。一人ひとりとDMでやり取りして、『こちらに振り込んでください』『PayPayで送金してください』というのは、とても不自然です。DMで連絡を取ってきたり、個人名義の振込先を指定したり、PayPayで個別に送金を依頼された場合は、基本的には疑った方がいいでしょう」
2つ目のポイントは「価格」です。
閉店セールや農家の格安販売では、「通常価格の何分の1」といった極端な安さが強調されることがあります。しかし、高橋氏は「なぜ、ここまで安くする必要があるのか」と一度考えてほしいといいます。
最後に挙げたのがSNSに投稿している写真です。たとえば、「豊作なので格安で販売します」と宣伝する詐欺アカウントでは、何年も前に撮影した写真を使用しているケースがあります。
「今年たくさん収穫できたのであれば、その様子が伝わる写真を使うはずですよね。過去の写真をずっと使い回しているのであれば、おかしいと考えるべきです」
AI時代、「見抜く」ことには限界も

今後、生成AIの性能が向上すれば、写真や口コミ、店舗情報まで本物そっくりに作れる可能性があります。そうなれば、一般の消費者が「本物か偽物か」を見た目だけで判断するのは、ますます難しくなるでしょう。
高橋氏も「普通の方は、見抜くのが難しくなっていくと思います」と話します。詐欺の判断が難しくなった場合のリスク管理として重要になるのが、そもそも個人間取引を避けることです。
「基本的に個人間取引はトラブルの温床です。確実に信頼できる取引でなければ、保証のあるマーケットプレイスなどを利用することをおすすめします」
それでも「この商品は本当に大丈夫なのか」と迷った場合には、購入前に消費者ホットライン「188」などに相談する方法もあります。
「お金を支払った後には、犯人と連絡が取れなくなり、基本的にお金は取り戻せないと思った方がいいでしょう。『信用して大丈夫かな?』と思った時点で相談していいんです。相談窓口には、同じようなトラブルの情報が集まっています」
その投稿が本物かどうかを見極めるために必要なのは、単に「怪しいところを探す」ことだけではありません。「なぜこの価格なのか」「なぜこの販売方法なのか」「なぜSNSだけで販売しているのか」と一度立ち止まって考えることが重要だといいます。
AIによって「本物らしさ」が簡単に作られる時代だからこそ、投稿の見た目や雰囲気だけで判断しない姿勢が、これまで以上に求められています。

高橋暁子
SNSや10代のネット利用、情報モラルリテラシーを専門とするITジャーナリスト。メディア執筆や講演活動を幅広く手がける傍ら、成蹊大学特別客員教授も務める。








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