
網走刑務所は非常に広大な土地を有しており、二見ヶ岡農場という受刑者の更生や社会復帰等を目的とした農場施設も、網走刑務所の管轄下にあります。
「二見ヶ岡農場では何が行われているのか?」
「二見ヶ岡農場にはどんな受刑者がいるのか?」
「二見ヶ岡農場での受刑者の過ごし方を知りたい」
そんな疑問に答えるべく、二見ヶ岡農場で働く現役の職員(農場長、矯正処遇官)にお話を伺いました。
<目次>
二見ヶ岡農場の概要

二見ヶ岡農場は、網走刑務所が有している矯正施設です。全国の刑務所で唯一、畜産業に受刑者を従事させています。現在の庁舎等は平成9年から運用されており、職業訓練と農業(牧畜・農耕)事業に重点を置いています。また、二見ヶ岡農場の受刑者は、基本的に、二見ヶ岡農場内の居室で規律に則った生活を送っており、刑務所の一部であることは変わりありません。

敷地内には旧二見ヶ岡刑務支所の塀及び門が残されており、かつての木造の主要建物群(旧網走刑務所二見ヶ岡刑務支所)は近隣の網走監獄博物館に重要文化財として保存されています。跡地のスペースは受刑者のグラウンドとして利用されています。
二見ヶ岡農場の事業内容

二見ヶ岡農場では、農耕・牧畜を展開しています。
牧畜では以前は乳牛も扱っていましたが、現在は肉牛用の和牛のみ飼育しています。網走刑務所といえば、二見ヶ岡農場産の「監獄和牛」が有名ですが、わかりやすくて目を引くネーミングであることから、この名前が広く知られるようになりました。和牛にはA1からA5のランクがあり、二見ヶ岡農場産のものは多くがA5ランクで取引されています。
また、野菜栽培で収穫した作物は国が買い取り、受刑者の食事に利用されています。二見ヶ岡農場では循環型農業が重視されており、牛の糞を堆肥化して自家栽培の畑に散布し、そこで収穫した牧草を牛の餌にするというサイクルが確立されています。また、網走刑務所本所の製材工場から出る木材加工のくずは牛舎の「床(とこ)」として再利用されており、資源の有効活用が徹底されています。
受刑者の矯正処遇
網走刑務所では、拘禁刑導入に伴い、受刑者の特性に応じた処遇類型「矯正処遇課程」が次のように指定され、それぞれに合った受刑者を集めて集団処遇を行っています。
- 短期処遇課程(刑期が6ヶ月以内)
- 依存症回復処遇課程
- 高齢福祉課程
- 福祉的支援課程
- 開放的処遇課程
- 一般処遇課程
網走刑務所に収容されている受刑者は、その特性に応じ、上記の6つの矯正処遇課程のどれか一つに指定されています。網走刑務所の矯正処遇課程の一つに薬物依存からの回復・離脱を目的とした「依存症回復処遇課程」が設けられているのも特徴です。
また、網走刑務所の一般処遇課程は、処遇レベル3・4の受刑者を収容しています。処遇レベルとは、従来のA指標(初犯)とB指標(累犯者・暴力団関係者)という2区分から、レベル1〜4の4分類での判定へと変更されました。それぞれの分類の概要は以下のとおりです。
- レベル1:再犯リスクが低く、改善意欲が高い者
- レベル2:再犯リスクが低く、改善意欲が低い者
- レベル3:再犯リスクが高く、改善意欲が高い者
- レベル4:再犯リスクが高く、改善意欲が低い者
周辺地域との関わり

二見ヶ岡農場には桜並木があり、年に1回ゴールデンウィーク頃に一般開放していますが、今年(2025年)は雪の影響で桜の開花が遅れたため、開放は見送られました。
この開放を除くと、現在地域の方々との関わりはほとんどありません。昔は近隣に小学校があり、子どもたちが農作業をする受刑者に「おじちゃん頑張って」と声をかけることもありましたが、すでにその小学校は廃校となっています。
住んでいる人も少ない地域のため、二見ヶ岡農場に対する批判や苦情は特にないそうです。二見ヶ岡農場で受刑者が作業していること自体は市民に知られていますが、特段問題は起きていないようです。
二見ヶ岡農場での受刑生活

食事は一般的な刑務所同様、作業内容と体格に応じて1日の摂取カロリーが定められており、主食で調整します。衣類については工場用の緑色の作業着、青色の居室着、夜用のパジャマの3種類があります。
受刑者の居住環境

二見ヶ岡農場の受刑者専用の居住スペースは、最大28名の受刑者を収容できる大部屋で、その定員に近い数の受刑者が生活していたことがありますが、令和7年7月現在は9名のみが共同で生活しています。
二見ヶ岡農場は、肉体労働である刑務作業よりも、実は共同生活のほうが受刑者にとっては心身ともに厳しさを感じることがあるそうです。施設内には単独室がないため全員が共同室で過ごしており、お互いに気を遣い合っています。トラブルを起こすと刑務所本所に戻され、仮釈放の時期等に影響が生じるなどのおそれがあるため、トラブルを避けようとします。
本所では夜間はほぼ全員が単独室で生活するため、居住環境の点では二見ヶ岡農場のほうが受刑者間でトラブルが発生するリスクがあります。そのため、常に職員が指導し、最低限の社交性や協調性を持つよう促しています。ただ、週末には一時的に本所に戻り、単独室で生活を送ることで共同生活による負担感を軽減しています。
受刑者の1日のスケジュール
まず起床時間は、網走刑務所本所よりも30分遅く設定されています。これは、朝食が本所から運ばれてくるため、運搬時間を考慮しての対応となっています。日中は刑務作業に従事するのは本所と同様です。本所は、多数の工場ごとに順番に入浴しており、入浴順によって早く作業が終わることがありますが、二見ヶ岡農場では夕方4時過ぎまで作業が必ずあります。
夕方近くまでの作業は、一般社会に近い生活形態に慣れさせ、肉体労働を通じて出所してからも健全に生きていける力を養うことにもつながります。
作業終了後に食事をとり、その後入浴というのが1日の主な流れです。風呂場は一度に10名程度が入れる規模で、1回15分、週に2回以上(作業の関係で汚れるため現在はほぼ毎日)入浴します。
受刑者の作業の様子

二見ヶ岡農場の受刑者は、建設機械の資格取得(例:大型特殊自動車)など、社会で役立つ有益な職業訓練を受けています。この資格取得によって、建設業界や農業分野への就職を目指し、社会復帰が促進されます。他の施設では資格取得までが一般的ですが、二見ヶ岡農場では実務的な作業に従事することで、一般社会で役立つ実技能力も養われています。

施設内の牛舎では約4頭を1グループとして一括飼育しています。子牛は親から離れたところから飼育が始まり、生まれてから約30ヶ月で出荷されます。最初は牛の大きさや、排泄物が多い環境に対して抵抗感を示す受刑者が多いようですが、次第に愛情が芽生え、環境に馴染んでいく様子が見受けられます。人が嫌がるような汚物(床の排泄物や壁についた汚れ)の除去といった作業にも、率先して取り組んでいる受刑者が多くいます。

刑務作業以外にも、受刑者には協調性を身につける機会が与えられています。まず、受刑者の居住環境は自治寮と見なされ、寮長や副寮長などの役割が任命されます。ほかにも体育レクリエーション係やテレビ番組係など、さまざまな係活動を通じて、運動会の企画や、視聴番組のアンケート実施といった活動を自ら行っています。これらは、受刑者の自主性・自律性を育むことを目的としていますが、職員が適切に関与することによって規律は保たれています。
また、洗濯は専門の受刑者が担当していますが、部屋やトイレの掃除などは役割分担を決めて、ローテーションで当番を回しています。
網走刑務所本所との違い

網走刑務所の本所に収容されている受刑者の中で、選定基準に合致する受刑者が二見ヶ岡農場での作業に従事しています。開放的な処遇環境の影響もあり、二見ヶ岡農場で過ごすようになると、多くの受刑者の表情や目つきに明らかな変化が見られるそうです。農場の作業は決して楽なものではありませんが、受刑者の態度や表情、纏う雰囲気は穏やかになり、良い効果をもたらす環境といえます。
二見ヶ岡農場は、本所と違って塀がなく、すぐ近くを国道が通っているため、受刑者が逃げ出す可能性がゼロとはいえません。逃走事故は刑務所にとって最も避けなければならない事態であるため、その抑止には、受刑者の心情の変化をいち早く察知することが極めて重要とのことです。
心情の変化を引き起こしやすい要因としては、恋人や配偶者からの別れ話の連絡、出所後の受け入れ先の事情が変わったこと、同室者との関係が悪化して孤立していることなどが挙げられます。こうした情報は速やかに把握し、深刻な状況に至る前に適切な対応を講じる必要があるそうです。
二見ヶ岡農場の職員としての想い
今回の取材では、二見ヶ岡農場で牧畜を担当している矯正処遇官と農場長に詳しいお話を伺いました。牧畜においては、牛の世話をしている受刑者の様子の監視、作業内容の決定、牛の病気に対する獣医の手配、牛の発情確認、種付などが主な業務です。
二見ヶ岡農場での仕事について

今回お話を伺った矯正処遇官の方は、約30年前にも二見ヶ岡農場の畜産業務に1年間従事していたそうですが、その後は長らく別の業務を担当していました。そのため今はほぼゼロからのスタートに近い感覚で、獣医や受刑者と積極的にコミュニケーションを取りながら、日々現場で畜産に関する学びを深めているそうです。
生き物を扱うため、昨日まで元気だった牛が急に体調を崩すリスクがあり、命を守るためには迅速な対応と細やかな観察が求められます。たとえば、長時間餌を食べない、便に血が混じるといった微妙な体調の変化をいち早く察知する必要があり、見た目だけでは健康状態を判断しづらいという繊細さがあります。
矯正処遇官の方も、「牛についてはまだプロとは言えない部分がある」とのことで、不慣れな作業を学びながら吸収していく過程に難しさを感じているそうです。

一方で、手間をかけて育てた牛がA5やA4ランクといった明確な等級で評価されること、そしてその過程で受刑者も職員自身も成長を実感できることが、大きなやりがいとなっているといいます。一般的な刑務作業とは異なり、受刑者が自らの作業の成果を目に見える形で認識できる点も、二見ヶ岡農場の大きな特徴といえるでしょう。他の刑務所にはこのような畜産業務はないため、希少な仕事に携われることに面白さを感じているそうです。
二見ヶ岡農場は、網走という土地柄、冬は厳しい寒さに見舞われ(気温は−20℃前後に達することもあります)、一方で夏は炎天下での作業も多く、暑さも過酷です。そのため、受刑者と職員の双方が熱中症にならないよう、十分な注意が必要です。また、大規模な本所とは異なり少人数で運営されており、受刑者と同様に、職員にも協調性が強く求められます。
消費者や読者に伝えたいこと

二見ヶ丘農場の和牛の年間出荷数は少ないものの、A5やA4といった高ランクの評価が明確に出ています。
刑務作業製品は、受刑者が一生懸命作ったもの。作業を通じて受刑者が少しでも更生して社会に戻っていこうと頑張っていることに対する理解が深まればと思います。

<TEXT/小嶋麻莉恵>












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