全国矯正展とは?
全国矯正展(全国刑務所作業製品展示即売会)とは、年に一度、法務省の「社会を明るくする運動」中央推進委員会・公益財団法人矯正協会が主催で開催されるイベントです。第63回を迎えた今回の全国矯正展は大幅な見直しが行われ、東京国際フォーラムでの初開催及び開催時期も例年の6月から12月に変更されました。
全国矯正展では、刑務作業の現状や重要性だけではなく、矯正行政について一般市民に広く理解してもらうため、国が取り組んでいるさまざまな施策等について広報を行っています。また、実際に受刑者が製作した刑務所作業製品の展示・即売も実施されています。
全国矯正展の目的
受刑者の数は年々減っているものの、再犯率の高さ(令和4年:47.9%)は日本の現代社会における大きな課題です。出所者の再犯防止を防ぐため、各矯正施設の取り組みや矯正行政が果たしている役割などを、全国矯正展を通じて一般市民に伝えています。矯正に関する理解を多くの人が深めることで、各地域における出所者の受け入れ体制が整いやすくなり、新たな犯罪を生むことのない安心・安全な社会の実現を目指せます。
また、今回の第63回全国矯正展のテーマは「拘禁刑創設により変革する矯正、推進する地域との共生」です。令和7年度に施行予定の拘禁刑の広報と、矯正行政において必要不可欠な地域との連携状況を伝えることを目的として開催されました。
全国矯正展はどんな内容?
令和4年6月、刑法等の一部を改正する法律が成立し、新たに「拘禁刑」が創設されたことで、刑事施設における矯正処遇が大きな変革期を向かえていることから、これまで以上に広報を行う必要があると考えて、昭和47年から長らく使用していた科学技術館からより多くの来場者が見込まれる東京国際フォーラムへと会場が移され、新しい形での全国矯正展が開催されました。
開催場所のみならず催事内容も例年から大きく見直され、各コーナーが趣向を凝らした販売や展示、体験等を展開していました。刑務所そのものは一般市民からするとあまり馴染みのない場所かもしれませんが、だからこそ気軽に足を運びやすいイベントづくりを意識していることが窺えました。
第63回全国矯正展は、主に以下の内容で開催されました。
<2023年度全国矯正展の内容>
- 刑務所作業製品の即売・展示
- 全国刑務所作業製品審査会における受賞製品や出品製品の展示
- 矯正広報に関するパネル展示
- 刑務作業体験コーナー
- 性格検査
- プリズンアドベンチャー(刑務所のバーチャル施設見学)
- ステージイベント各種 など
【ステージイベントの詳細】
===12月9日(土)===
10:00〜 小平ゆいま〜るエイサー
10:30~ 全国刑務所作業製品審查会授賞式
13:00〜 Paix² メッセージコンサート
14:00〜 豊田大谷高校ダンス部
14:30~ 特別警備活動要領等披露
15:00〜 盲導犬デモンストレーション
===12月10日(日)===
10:00〜 警視庁音楽隊
11:00〜 ドキュメンタリー映画「記憶2少年たちの追憶と贖罪」告知イベント
11:30〜 農福連携ミニシンポジウム〜ノウフクを通じた再犯防止〜
13:00〜 MY fit dance!
13:30〜 GOLD世代ダンスチームによるダンス披露
14:00〜 特別警備活動要領等披露
大いに盛り上がった当日の様子を、イベントレポートとしてお伝えします。
2023年度(令和5年度)の全国矯正展の様子
【日程】
2023年12月9日(土)10:00〜16:30
2023年12月10日(日)9:30〜15:00
【場所】
東京国際フォーラム ホールE
開催時期・会場ともに例年から大きく変更されての実施でしたが、開場時刻よりも前から多くの来場者が入場待ちの列をつくっていました。
横須賀刑務支所のブルースティックや、横浜刑務所のパスタなど人気の製品に関しては売り切れ必至のため、購入待ちの来場者が殺到していました。
全国矯正展初日の12月9日(土)には、特設ステージにてオープニングセレモニーが開場前に実施されました。俳優の杉良太郎特別矯正監、落語家の桂才賀矯正支援官、芸人のコロッケ矯正支援官、歌手のPaix²のメンバーである 井勝めぐみ矯正支援官、 北尾真奈美矯正支援官、タレントの山崎怜奈特別防犯支援官が出席しました。
出席者の皆さんは、オープニングセレモニーの前に会場内の視察をされました。種類豊富な販売製品や飲食ブースのラインナップに期待と関心の目が向けられていました。
出席者によるテープカットが行われた際は、会場全体に大きな拍手の音が響き渡りました。
その後の取材では、全国矯正展に対する率直な想いが出席者の皆さんから語られました。
杉特別矯正監
「全国矯正展という名の通り日本各地の刑務所が集結しているため、刑務所ごとに製品の特色が窺えるのがポイントです。受刑者たちがどんな製品を作っているのか、刑事施設の中で普段どう過ごしているのかを知れる良い機会だと思います。矯正の取り組みに関する見聞をぜひ深めてほしいです」と力強くPRしました。
山崎特別防犯支援官
「全国矯正展に参加したのは今回が初めてでしたが、加害者・被害者双方の立場に立つことの重要性を改めて考えさせられました。第63回という歴史ある催事ですが、それでもなかなか世間に周知が行き届いていない部分もあると思うので、特に若い世代の皆さんに意欲的に足を運んでもらうための働きかけを、これからはより意識できたらいいのではないでしょうか」と、若年層ならではの視点でコメントを述べていました。
全国から集まった安くて良質な刑務所作業製品
矯正展といえば、安くて質の良い製品が購入できるのが最大の特長です。全国各地から一挙に刑務所が集結し、まるでお祭りのような活気が会場全体にあふれていました。
刑務所と聞くとどこか仄暗いイメージを持たれている方が少なくないですが、出展スタッフの皆さんは色鮮やかな法被を身に纏っている方が多く、来場者の皆さんに明るく声をかけている様子が印象的でした。
今回の全国矯正展における総出品品目は約2,100点、総出品点数は約43,000点にものぼります。
横須賀刑務支所のブルースティックや横浜刑務所のパスタ等の乾麺、函館少年刑務所のマル獄シリーズ製品など、各地の矯正展で大人気の刑務所作業製品も出揃っていました。
初日には、全国刑務所作業製品審査会における受賞製品を表彰する授賞式が行われ、オープニングセレモニー出席者の皆さんから表彰状が手渡しされました。
<授賞一覧>
【法務大臣賞】
・エクステンションテーブル190(府中)A型
・日光彫洋風チェストアールボタン(喜連川)
・ラグビーチームコラボトートバッグ(府中)
・KEIMUSYO焼台(網走)
・3wayトートバッグ(福岡)D型
・漆ぐい呑み5個セット(岐阜)2型
【杉良太郎特別矯正監賞】
・岐阜刑務所 作業専門官 小川直人氏
(漆ぐい呑み2個セット(岐阜) 企画開発・指導)
会場内には各受賞製品の特別展示ブースが設けられ、来場者の皆さんが足を止めている様子も見受けられました。
見どころ満載のステージイベント
2日間にわたり、会場内の特設ステージではさまざまなイベントが行われました。ラインナップが豊富だったため、イベントごとにステージ付近にはたくさんの人が集まり、大きな盛り上がりを見せていました。
男子少年院ドキュメンタリー映画「記憶2」に関するトークショーや、安室奈美恵さんやジャスティン・ビーバーさんのバックダンサーも務めるMaasaさんによるダンスイベントなども注目を集めていました。
「ストップ・オレオレ詐欺47〜家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(略称:SOS47)の活動の一環として、特別防犯支援官を務める山崎怜奈さんが、特殊詐欺被害防止のためにステージにて話されるシーンもありました。国際電話を利用した特殊詐欺が増えているそうで、防犯機能付きの電話サービスについて紹介されていました。
12月9日(土)には、女性デュオ・Paix²がメッセージコンサートを開催。日頃から刑務所での慰問活動を精力的に行っているおふたりのパフォーマンスは非常に力強さが感じられるもので、受刑者更生への想いが深く伝わってきました。
同日に行われた盲導犬デモンストレーションでは、官民協働で運営されている刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」における、受刑者が盲導犬候補のパピーを育成するという日本初の試み「島根あさひ盲導犬パピープロジェクト」を紹介。本プロジェクトに参加している盲導犬が、視覚障がい者をサポートする状況を想定した実演を披露しました。
その他、法務省特別機動警備隊による特別警備活動要領等披露や、後継者不足が問題視されている農業分野において出所者を雇用する活動を紹介した「農福連携ミニシンポジウム〜ノウフクを通じた再犯防止〜」など、各所が行っている矯正に関する取り組みを来場者に多数伝えていました。
ステージイベントが行われている最中は自然と立ち止まる来場者が多く、普段なかなか知ることのない矯正行政について関心を寄せる良い機会となったことでしょう。
刑務作業やVR施設見学を体験
製品の販売だけでなく、全国矯正展では数多くの体験コーナーが設けられていました。
栃木刑務所の刺しゅうハンカチ製作体験や府中刑務所の木札製作体験、沖縄刑務所の紅型絵付け体験など、全9種類の刑務作業が体験できるコーナーにはたくさんの来場者が訪れていました。特に小さなお子さんが楽しそうに体験している様子が印象的でした。
他にも、刑務所の施設見学をVR体験できる「プリズンアドベンチャー」や、設問に回答することで自分の性格傾向が知れる、少年鑑別所職員による「性格検査体験コーナー」など、種類に富んだ体験コーナーが展開されていました。
法務省や防衛省等の車両展示、刑務官のキッズ制服試着コーナーなどは特に子どもの人気が高く、皆さん記念撮影をされていました。矯正展ならではの体験が、一般市民に自然と受け入れられている様子が垣間見えた時間でした。
全国矯正展ならではのグルメの数々
全国矯正展では、飲食ブースも多数出展されていました。
人気の刑務所作業製品「横浜刑務所で作ったパスタ」は、1食300円・400食限定(半人前)で販売され、行列が絶えない盛況ぶりを見せていました。
出所者を積極雇用している村田農園は、自社で栽培した苺を使った「苺のジェラート」を、刑務所作業製品を1,500円以上購入した方に無償配布していました。
“農福連携”は矯正行政において注目されており、農作業は刑務所内での一般的な作業と比べて太陽の光に当たる時間が多いため、最初は慣れないものの長い目で見れば出所者の精神や肉体の健康に良い影響をもたらすものでもあります。
「監獄和牛丼」や「サーロインステーキ丼」は、網走刑務所における刑務作業の一環で飼育されたブランド牛・監獄和牛を使用しており、今回の全国矯正展のために作られた特製弁当です。受刑者は刑務所から約7km離れた刑務所⽤地「⼆⾒ケ岡農場」の宿泊施設に住み込み、約70頭の牛を育てています。近年では「A5」の高ランクを獲得する牛も多く
出てきており、飼育技術の向上が注目されています。
府中刑務所製のコッペパンや刑務所や少年院でつくられた野菜の販売も非常に安価なため、購入を希望する来場者の行列が絶えず、すぐに完売するほど人気の高さが窺えました。
法務省矯正局等の矯正に関する取り組みについて
全国矯正展では、矯正に関する国の取り組みを各所でパネル展示していました。
第63回のテーマにも含まれている、令和7年度より施行予定の「拘禁刑」の概要や、令和5年12月に運用開始された「被害者等の心情等の聴取・伝達制度」の概要などを詳しく紹介。今の日本における矯正行政のあり方を伝えていました。
従来は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる「懲役刑」と、刑事施設への拘置のみの「禁錮刑」が法において定められていました。この度の改正で、懲役刑・禁錮刑は「拘禁刑」へと移行し、受刑者個々の資質や環境に応じて作業・改善指導・教科指導を行います。所定の作業を行うことがこれまでの懲役刑では必須でしたが、拘禁刑では受刑者1人ひとりがより円滑に社会復帰することを目指した内容へと変容しているのが特徴です。
少年院創設100周年にあたって記念ブースが設置され、少年院の歴史を紹介するさまざまな企画が行われていました。
全国矯正展を通じて国民に伝えたいこと
全国矯正展は、受刑者の改善更生や円滑な社会復帰を図るためにどんな取り組みをしているのか、刑務所作業製品の販売や各種広報等を通じて社会に広く伝えることを目指しています。
受刑者数減少の一方で再犯率が高く推移している背景には、刑期を終えて刑務所から出ることができても、社会の受け入れ体制が整いきっていないことが窺えます。刑務所と社会の間にある隔たりをできるだけなくすために、各矯正施設が改善更生により一層力を入れ、出所者が社会復帰した後も再犯を生まない社会づくりを目指していることが、全国矯正展を通して改めて伝わってきました。
規模が大きいイベントということもあり、2日間を通して2.5万人を超える来場者が訪れました。
来場者に話を伺ったところ、「人気のブルースティックが欲しくて来た」「矯正展は値段が安いのにしっかりした物を売っているから、何か良い商品があればと思って来た」など、刑務所作業製品を目当てに訪れた人が多数いました。その一方で、「子どもが喜びそうなイベントだと思ったから来てみた」「フリーマーケットのような感じなのかな、と思って寄ってみた」など、矯正展本来の目的がなかなか浸透しきれていない様子も感じられました。
なかには「全国矯正展には毎年必ず来ている。一時期はコロナで開催が見送られていたけれど、昨年から通常開催されるようになって嬉しい」と、開催を楽しみにされている常連の方も。「良い製品ばかりだから、自分用だけではなくてプレゼント用で購入することもある」とも話していました。
併せて、矯正の取り組みに関して、「普段なかなか触れる機会がないからこそ、矯正展を通して刑務所や国の活動を知れるのは良い学びの機会だと思う。とはいえ、イベントの存在自体をまだまだ知らない人も多いと思うから、矯正展の各地開催が今よりもさらに増えていけば」と、来場者の希望ある言葉も聞くことができました。
法務省矯正局とは?
矯正局は、犯罪や非行をした人たちを収容する矯正施設(刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院、少年鑑別所、婦人補導院をまとめて『矯正施設』といいます。)における業務がよりよく運用されていくように、計画や提案をしたり、指導・監督をしています。
(引用:法務省 矯正局)
法務省矯正局の沿革
法務省矯正局の歴史をさかのぼると、その歩みは約140年にもわたります。
明治12年に「内務省監獄局」として発足し、その後、司法省・法務府・法務省等の内部部局として、名称も「行刑局」「刑政局」「矯正保護局」等に変遷。それらを経て、昭和27年に現在の名称となりました。
法務省矯正局の概要
矯正施設(刑務所・少年刑務所・拘置所・少年院・少年鑑別所及び婦人補導院)の保安警備、分類保護、作業、教育、医療、衛生など被収容者に対する処遇が適正に行われるよう指導、監督するとともに、最近の矯正思潮に沿った新しい処遇方法についての調査研究など矯正行政全般に関する事務をつかさどっています。
多職種からなる矯正職員が協力して、受刑者の逃走等を防止し、犯罪や非行をした人たちが科された刑罰や処分を受け止め、矯正施設の中でしっかりと矯正処遇に取り組むよう導くことで、自らの罪を反省させ、償わせることは重要な目的です。それだけでなく、円滑に社会復帰できるように、再犯・再非行を防止することも欠かせません。それにより、国民が犯罪被害を受けることのない、安全・安心に暮らせる社会の実現を目指しています。