
JR東海バス(名古屋市)は、特別養護老人ホーム「なごやかハウス希望ケ丘」(名古屋市千種区)に、実際には運行されない「バスの来ないバス停」を寄贈しました。このバス停は、認知症の入所者が抱える「自宅に帰りたい」という帰宅願望に寄り添い、心を落ち着かせるためのケアツールとして活用されます。
寄贈されたバス停は、2025年12月のダイヤ改正で廃止となった愛知県日進市の「日進駅前」停留所で使用されていた本物の標識です。停留所名は施設名に変更され、1月23日に贈呈式が行われました。バス停は施設の敷地内に設置されており、認知症の入所者が外出しようとした際に、このバス停の前で立ち止まり、来ないバスを待つ間に気持ちを落ち着かせることができます。職員が無理に引き留めることなく、自然な形で安全を確保できる仕組みです。
認知症の人は「自宅に帰らなければ」という思いが強まる帰宅願望の症状が出る場合があり、施設を出て行方不明になるケースも少なくありません。従来は職員が制止したり説得したりする対応が一般的でしたが、本人にとっては抑圧的に感じられることもありました。バス停を設置することで、入所者は自らの意思でバスを待ち、その間に落ち着きを取り戻すことができます。
「バスの来ないバス停」の取り組みは、認知症の入居者の徘徊や失踪に悩まされていたドイツの老人介護施設が発祥とされています。認知症の人に対する「罪のないウソ」「悪意のないウソ」として、日本国内でも近年広まりつつあります。帰宅願望が高まった認知症の高齢者がバス停で待っている間に職員が声をかけ、安全に保護するという方法は、本人の尊厳を守りながらケアを行う手段として注目されています。
廃止バス停の新たな役割に期待の声
今回の寄贈は、なごやかハウス希望ケ丘側からJR東海バスに相談があり実現したものです。贈呈式でJR東海バスの小笠原均社長は「廃棄するバス停が新たな役目を担って今後もお役に立てることはバス会社としてうれしい。今後も地域の皆さまとともに歩んでいきたい」と述べました。
一方、なごやかハウス希望ケ丘の木全啓施設長は「バス停についてご相談したところ、熱心に耳を傾けてくれ、ご快諾いただいた。入所者の皆さまのため、このバス停を今後も大切にしていきたい」と感謝の意を表しました。役目を終えた交通インフラが認知症ケアという新たな形で地域福祉に貢献する取り組みとして、今後さらなる広がりが期待されます。
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