【論文紹介】無痛分娩(分娩時の硬膜外麻酔による鎮痛)とオキシトシン(陣痛促進剤)の使用による児の自閉症リスク上昇との関連
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今回は、分娩時の硬膜外麻酔による無痛分娩で生まれた子どもが自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorde)と診断されるリスクが上昇するという報告をした論文を解説します。
分娩時の硬膜外麻酔によって児の自閉症スペクトラム障害リスクが上昇するという報告
分娩時の硬膜外麻酔による鎮痛(LEA:labor epidural analgesia)は、分娩および分娩中の疼痛管理のため、臨床診療で最も効果的で一般的に使用される方法のひとつです。
LEAの使用は、他の薬剤と比較して母体の痛みの緩和と周産期転帰のリスクの増加がないため、ランダム化臨床試験によって支持されています。しかし、分娩時の疼痛コントロールに関する歴史は150年程度と浅く、子孫におけるその長期的な安全性については、ほとんど知られていません。
これまでの報告から、分娩時の硬膜外麻酔による鎮痛(LEA)と、分娩のためのオキシトシン(陣痛促進剤)の使用は、小児自閉症スペクトラム障害(ASD)と関連していると報告されています。ある報告ではLEAは、子どものASDのリスクが37%増加することと関連していたと報告しました。しかし、分娩に使用されるこれら2つの一般的な薬が、子どものASDリスクと相乗的な関連を持っているかどうかは不明のままです。
今回、分娩時の硬膜外麻酔による鎮痛、生まれた児のASDリスクが上昇するという研究結果が、「JAMA Network Open」に7月21日発表されました。
また、LEAとオキシトシンを併用すると、ASDリスクはさらに上昇しましたが、オキシトシン単独の場合には有意な関連は認められなかったのです。
Chunyuan Qiu氏らの研究結果が示すもの
2008~2017年におけるアメリカのカイザーパーマネンテ・ボールドウィンパーク・メディカルセンターのChunyuan Qiu氏らは、経腟分娩による単胎分娩20万5,994人のデータを用い、分娩時のLEAおよびオキシトシンの使用と、生まれた児のASDの関連について分析しました。生まれた児を2021年12月31日まで追跡しています。
解析は、生年、母親の年齢など、関連が予想される因子をCox比例ハザード回帰モデルにより調整して行い、両側検定を行いました。
追跡期間中に、5,146人(2.5%)がASDと診断されました。分娩時には、児の74.7%(15万3,880人)がLEAに、57.2%(11万7,808人)がオキシトシンを使用されています。
ただ、児にオキシトシンが使用された割合は、LEAの使用がなかった場合よりも、LEA使用があった場合の方が高く認められました(67.7% vs 26.1%)。
LEA使用によるASDリスクは、オキシトシン使用とは独立しています〔(HR;ハザード比)1.28、95%信頼区間(CI):1.18-1.38〕。一方で、LEA使用で調整すると、オキシトシン使用とASDリスクとの間に有意な関連は認められませんでした(同1.05、0.99-1.12)。
全体的なリスクとベネフィットのバランスを考慮することが必要
児のASDリスクに関しては、LEA使用とオキシトシン使用との間で有意な相乗作用が認められました(P=0.02)。
HRは、LEAおよびオキシトシンを使用されなかった場合を1とすると、LEA単独では1.20(95%CI: 1.09-1.32)と有意に高く、LEAとオキシトシンを併用した場合には1.30(同1.20-1.42)とさらに高まりました。しかし、オキシトシン単独では、0.90(同0.78-1.04)と有意な関連は認められませんでした。
Chunyuan Qiu氏らは、「今回の結果から、分娩時のLEA使用は児のASDリスク上昇と関連しており、オキシトシンを併用すると、そのリスクはさらに高まると考えられた」と結論づけています。
「ただし、LEAとオキシトシンは分娩時の疼痛管理に有益であること。また、ASDの発症率は比較的低く、かつ発症にはさまざまなリスク因子が関与することから、分娩時の医療介入を選択する際には、全体的なベネフィットとリスクについてのバランスを考慮して判断すべきである」と述べています。